特許行政年次報告書2018年度版
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Column 22 特許行政年次報告書2018年版205第5章第7章第8章第4章第3章第2章第2部・特許庁における取組第1章第6章産学連携知的財産アドバイザーの支援事例~国立大学法人三重大学/D社~<当事者のプロフィール>● 国立大学法人三重大学(三重県津市) → 5学部6研究科を有する東海地方の総合大学●D社(本社:東京都) → 産業用ガス・家庭用LPガス及び安定同位体の供給販売、半導体関連製造装置の製造販売、ステンレス魔法瓶の製造販売、プラント・エンジニアリング○プロジェクトの概要三重大学は、深紫外LEDに用いられる発光素子の発光効率を向上させる高品質の半導体基板を開発する中で、サファイア基板上に積層形成した窒化アルミニウム層に生じる格子欠陥を大幅に低減できるアニール1技術を独自に完成。このアニール技術を採用したアニール炉を事業化するため、三重大学とパートナー企業のD社が連携して推進しているプロジェクトを、産学連携知的財産アドバイザーが支援している。○三重大学の技術シーズ三重大学は、深紫外発光素子について他大学とも連携しながら研究しており、サファイア基板に窒化アルミニウム層を形成した半導体基板の欠陥密度の低減に向けてA社と2005年から共同研究を実施。その後、アニール炉が設置されている大学と2012年から共同研究を行い、窒素ガスと一酸化炭素ガスの混合ガス雰囲気で半導体基板の欠陥密度を低減するアニール技術を共同で確立。更にその後、三重大学は、公的研究機関のアニール炉を利用して研究を続け、従来から使用されている窒素ガス雰囲気のみで半導体基板の欠陥密度を低減するアニール技術を独自で確立し、その製法発明について特許出願2を行った。○事業化に向けての課題D社は、アニール炉の販売顧客に対して三重大学が製法特許をライセンスすることについて、アニール炉の販売に著しく支障を来すとして難色を示した。また、三重大学にコンタクトして来た中国の発光素子メーカーに対し、三重大学がアニール炉の販売支援のためにアニール技術を指導したり製法特許をライセンスしたりすると、中国の技術輸出入管理条例により三重大学が品質保証や特許保証をしなければならなくなる可能性のあることが判明した。さらに、外国企業に対するサンプル基板については、安全保障貿易管理における該当品扱いとして少額特例を適用して提供していたため、提供枚数や提供金額に上限を設定しなければならなかった。○産学連携知的財産アドバイザーのソリューションD社からアニール炉を購入した顧客に対して、三重大学が製法特許の権利を主張しない代わりに、D社が顧客にアニール炉を販売する際に、アニール炉の対価に一定額の特許使用料を上乗せし、これを還元することを三重大学に提案し、三重大学とD社の特許ライセンス契約締結を支援した。また、三重大学が、中国の発光素子メーカーに直接技術指導をすることや特許ライセンスをすることを避け、製法特許はD社にライセンスすると共に必要な技術指導はD社の責任で行うことを提案した。更に、外国企業に対するサンプル基板の提供については該否判定を見直すことを提案し、結果的に非該当品扱いであるとの経済産業省の見解を得たことにより、サンプル基板の提供枚数や提供金額の上限が撤廃できた。1 熱雰囲気中に一定時間置くこと等により原子を再配列させ欠陥などを消失させる処理のこと2 「窒化物半導体基板の製造方法」 特許6238322号及び特許第6311834号
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