特許行政年次報告書2018年度版
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新たな産業財産権制度の見直しについて第8章特許行政年次報告書2018年版242にとどまっている。また、大学や承認TLOによる特許出願件数はこの10年間でほとんど変化しておらず、2016年の国内外の大学によるPCT国際出願の公開件数ランキングにおいても、第1位から第5位までを米国の大学が独占しており、上位10校のうち、日本の大学としては第7位に東京大学がランクインしているのみである。大学等の知財活用が積極的に行われている状(1)中小企業等による知財活用の促進①中小企業等の特許料金の一律半減第4次産業革命の進展等により国内外の産業構造が大きく変化する中、我が国企業の99.7%を占める中小企業が自らの知的財産を戦略的に活用し、その競争力を強化することが、我が国経済全体の持続的発展のためには不可欠である。ところが、現在、国内の特許出願件数に占める中小企業の割合は15%程度近年の産業財産権制度の見直し1昨今、第4次産業革命の進展に伴い、企業の特許戦略をめぐる環境は大きな変化に晒されている。具体的には、既存の製品にソフトウェアによる情報処理・ネットワーク技術を組み合わせた発明や、AIに代表される技術横断的な発明が増加し、1つの製品に膨大な件数の特許が関与するようになっていることから、特許をめぐる権利関係が複雑化している。これにより、ライセンス交渉に要する手間と労力が増大するとともに、知らないうちに他者の特許権を侵害するおそれが高まっている。また、オープン・イノベーションによる共同研究や産学連携が活発化する中、本人以外の者による公開によって、特許の要件である新規性を喪失するリスクも高まっている。また、IoTやAI等の技術が進展していく中、各企業には、自ら優位性を有する技術領域を確保しつつ、自社や業種の垣根を越えた連携・協業を図るべく、知的財産に標準を有効に組み合わせた戦略を策定・実践することが求められており、また自ら蓄積した様々なデータを流通させることにより新たな価値を生み出すというデータの利活用に係る戦略も重要となっている。こうした状況を受け、産業構造審議会特許制度小委員会において、2018年2月に法改正に関する内容を含む報告書「第四次産業革命等への対応のための知的財産制度の見直しについて」を取りまとめたとともに、産業構造審議会弁理士制度小委員会において、2018年2月に法改正に関する内容を含む報告書「標準・データに係る業務への弁理士の関与の在り方」を取りまとめた。これらの内容を含む、不正競争防止法等の一部を改正する法律案は、2018年2月27日に閣議決定され、第196回通常国会へ提出された。また、同法律案は、2018年5月30日に平成30年法律第33号として公布された。新たな産業財産権制度の見直しについて昨今、IoT(Internet of Things)やAI(Articial Intelligence)等の技術の進展により、様々なインフラや機器がインターネットを通じてつながり合う「第4次産業革命」と称される変化が国内外において急速に進展している。このような産業構造の変化や、企業の特許戦略の変化などの動向を踏まえ、知財制度・運用の在り方について検討を行う必要が生じている。本章では、近年の産業財産権制度の見直しについて紹介する。第8章
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