特許行政年次報告書2018年度版
300/372

国際的な知的財産制度の動向第1章Column 34 特許行政年次報告書2018年版274台湾当局の技術流出防止の取組日本台湾交流協会 台北事務所○技術流出の深刻化半導体やディスプレイの製造等において、非常に高度な技術力や製造ノウハウを持つ台湾企業は多い。技術力の向上により、台湾域外への人材の流出やそれに伴う技術流出も多く発生しており、2009年には台湾を代表する半導体製造業者の研究開発部長が韓国企業に転職したことによる営業秘密侵害訴訟が大きな社会問題となった。台湾が優位性を持つ半導体やディスプレイ等のライバル企業の製造・開発拠点はアジアに多くあるため、特にアジア圏への技術流出を懸念する声が高まっている。高度な技術やノウハウを持った人材は非常に高額の報酬で迎え入れられることに加え、台湾では転職によるキャリアアップが一般的であることや、アジア圏に対して距離的・言語的・文化的な障壁が低いこともその要因として挙げられる。さらに、周辺諸国のハイテク企業への税優遇措置や規制緩和が進むなど、技術の引き込みや優秀な技術者の確保の競争が激化している。台湾当局はこのような状況に危機感を強め、技術流出を防止し、適切な競争ができる環境を整備するための制度面での対策を進めている。○台湾当局の取組2013年、台湾の特許庁に相当する智慧財産局は営業秘密法を改正し、営業秘密の漏洩に対して刑事罰を導入し保護の強化を図っている(5年以下の懲役又は1千万元以下の罰金)。またこの改正では、台湾域外への流出に対してはより重い罪を課することができる規定も導入した(10年以下又は5千万元以下の罰金)。さらに、2018年4月現在、営業秘密法に「秘密保持令」を導入する法改正が提案されている。これは、営業秘密関連事件の捜査において、検察官が捜査協力者に秘密保持義務を負わせるものであり、捜査の過程で営業秘密が第三者に知られてしまう二次漏洩を防ぐとともに、捜査を迅速に進めることを狙いとするものである。営業秘密法に刑事罰が導入されたものの、実際に刑事事件として争われた件数は、導入後約4年で62件である。さらに有罪となったものは7件にとどまり決して多くはない。その要因として、営業秘密関連事件の捜査では、情報の機密性が高いことから広範囲に取り調べができないなど制限が多く、犯罪の立証が困難であることが指摘されている。今後、秘密保持令が導入されるのか、また、刑事罰の活用状況や司法の現場での判断の方向性に変化が生じるのか注目されている。

元のページ  ../index.html#300

このブックを見る