特許行政年次報告書2018年度版
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国際的な知的財産制度の動向第1章Column 35 特許行政年次報告書2018年版278ASEANの知財インフラ整備に向けた取組日本貿易振興機構 シンガポール事務所ASEANを構成する10か国の知的財産庁(ミャンマーは設立準備中)は、経済や知的財産制度の発展度合いの違いから、それぞれ異なる課題を有している。JPOは以下の例に見られるように、各国の課題に応じ、法令や基準の策定、運用の改善や審査の迅速化、人材育成などのあらゆる面において支援を行い、我が国企業が安心して事業を展開できるよう、ASEAN全体の知財インフラ整備を推進している。○フィリピンの特許審査基準策定支援ASEANをリードする知的財産庁としての存在感を高めつつあるフィリピン知的財産庁に対し、JPOは2017年、特許審査基準の専門家を2度にわたり派遣し、特許審査基準策定の支援を行った。これらの支援は、基準策定を担当する特許審査官との対面協議を中心に行われ、彼らが実務において抱える悩みを詳しく把握することができた。ASEANが目標として掲げる共通特許審査基準は、各国の特許制度や運用が大きく異なる中、その作成に困難が生じることが予想されるが、ASEAN各国からは、高度な専門性を有し、きめ細やかな支援を実現できるJPOが果たす役割に大きな期待が寄せられている。○タイでの人材育成協力ASEAN諸国の中で最も日系企業の進出が多く(5,444社)1、日本からの特許出願も年間3,000件を超えるタイの知的財産局の最も大きな課題は、出願から権利化まで平均10年以上かかる特許審査の遅延であった。近年、タイ知的財産局は問題の解決に向けて、特許審査官の採用(2016年に19名、2017年に33名)や電子化の推進など、様々な施策を講じている。昨今の課題は、採用した新人審査官の育成に移っており、JPOは2016年以降、積極的な研修協力を行ってきた。2018年2月には、フォローアップ研修と題し、新人審査官52名全員に対して、応用編の研修を実施した。このように、人材育成の肝である「鉄は熱いうちに打て」、そして「継続は力なり」を着実に実行している。タイ知的財産局は2018年4月、更に18名の特許審査官を採用しており、彼らに対してもJPOが研修を実施する予定である。こうした研修の結果、すでに2017年には、タイ知的財産局が行った特許審査処理件数は前年の2倍近くとなっており、審査遅延解消に向けて成果が出始めている。総勢100名近くのJPOの研修を受けた特許審査官たちが、これからのタイの特許制度を支えることで、大幅な権利化期間の短縮が期待される。1 2017年5月JETROバンコク事務所調べ対面協議の様子フォローアップ研修(2018年2月)の様子

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