特許行政年次報告書2018年度版
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特許行政年次報告書2018年版305第3部・国際的な動向と特許庁の取組第1章第2章誤った特許付与防止のためのデータベースを含む防御的措置といった論点について議論が行われた。出所開示に関しては、途上国は、遺伝資源の不正使用防止のためには遺伝資源の出所を特許出願において開示させ、不遵守の場合には特許無効等の制裁を科すことが必要であり、データベースは出所開示を補完するものにすぎないとした。一方、先進国(日本・米国等)は、遺伝資源の出所は特許制度とは直接関係ないばかりか、出所開示の義務化は特許制度に悪影響を及ぼし、イノベーションを阻害しかねないとの懸念から、その導入に反対した。また、知的財産の専門機関であるWIPOにおいて対処すべきは誤った特許付与の問題であり、データベースにより審査官が必要な情報を利用可能とすることが重要であると主張した。その結果、双方の主張の懸隔は埋まらず、引き続き第36回会合で議論が行われることとなった。b. WIPO「開発アジェンダ」2007年WIPO加盟国総会において、45項目からなる開発アジェンダに関する勧告が採択された。さらに、これらの勧告を実施するための作業プログラムの策定、及びその実施状況の評価等を行うため、「開発と知的財産に関する委員会(CDIP)1」の設立が合意された。CDIPは、2008年以降、毎年2回開催され、主にWIPO加盟国総会で合意された45項目の勧告に係る作業プログラムの内容及び実施について議論を行っている。これまでに、「知的財産と競争政策」、「知的財産とパブリックドメイン」等のプロジェクトが承認されている。本会合に関する我が国の取組としては、「IP Advantage」データベースがある。本データベースは、途上国における知的創造サイクル促進のため、ビジネスと知的財産との関係に係る成功事例を入手できるワンストップ・サービスを提供し、途上国との情報共有を図ることみを知的財産制度の中に設けることを強く求めるようになったことを受け、2000年に、知的財産と遺伝資源等の関係について知的財産の側面から専門的に議論を行うため、WIPO内にIGCが設置された。これまでに35回の会合が開催されている。これまで、効果的な保護を確保する国際的な法的文書に合意することを目的にテキストベースの交渉を行うというIGCのマンデートに基づき、遺伝資源・伝統的知識・伝統的文化表現のそれぞれについて具体的なテキストに基づく議論が行われてきた。しかし、国際的な保護枠組みの創設を求める途上国と、それに慎重な先進国の意見の懸隔は依然大きいままである。2017年10月のWIPO一般総会では、2018/19年のマンデートに関し議論が行われた。先進国と途上国との間で、会合の開催回数、日数、形式等が争点となり、協議は最終日まで難航した。その結果、最終的に、(ⅰ)2018/19年中に「国際的な法的文書」のテキストをまとめることを目的に議論すること、(ⅱ)法的・政策的・技術的問題に対処する場としての「アドホック専門家グループ」(ad hoc expert group(s))を設立してもよい(may establish)こと、(ⅲ)2018年のWIPO一般総会で現状の報告を行い、2019年のWIPO一般総会では、議論の成熟度に基づき、外交会議開催や交渉継続の可否について決定すること、(ⅳ)2年間で計6回(GR2回、TK/TCEs 4回)のIGC会合が5日間(又は6日間)ずつ開催されること等を内容とするマンデート及び作業計画が合意されるに至った。2018年3月に行われた第35回会合では、前記マンデート及び作業計画に基づき、遺伝資源について集中的な議論が行われた。議論の対象となるテキストに対する意見の収束を図ることを目的として、地域ごとに参加国数を限定した非公式会合と全体会合とを組み合わせて、政策目的、保護対象、出所開示及び1 Committee on Development and Intellectual Property

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