特許行政年次報告書2019年版98第2章特許における取組(1)特許審査の迅速化の推進①登録調査機関による先行技術文献調査の拡充 近年、外国語特許文献の割合が増加し、その調査の重要性も高まっている。特許庁は、そのような状況に対応するため、登録調査機関による先行技術文献調査の範囲を日本語特許文献から英語特許文献まで拡張し、先行技術文献調査の質の向上と、それに基づく審査の迅速化に取り組んできた。2018年度においては、先行技術文献調査の総件数15.3万件のうち11.5万件で英語特許文献検索を行うとともに、中韓語特許文献検索と独語特許文献検索を開始した。1.審査の迅速性を堅持するための取組 登録調査機関の数は、2019年4月1日現在9機関である[2-2-1図]。登録調査機関としての登録は、39に分けられた技術区分単位で行うこととし、各登録調査機関は登録した区分で調査業務を行っている。②必要な審査官の確保 日本国特許庁は世界に先駆け、特許の出願から査定までをペーパーレスで行うシステムを構築し、登録調査機関による先行技術文献調査の拡充を積極的に進めてきた。審査処理能力増強のためには、一層の効率化に努めることは当然としても、 特許庁は、2013年度末までに一次審査通知までの期間を11か月とするという目標(FA11)の達成に向けて、2004年以来様々な取組を実施し、この目標を達成した。この間、研究開発や企業活動のグローバル化が大きく進展し、国内のみならず国外での知的財産戦略の重要性も一層増していた。このような背景のもと、特許庁は、我が国企業や大学・研究機関等のグローバルな知的財産活動を支援するため、「世界最速・最高品質の特許審査」の実現に向けた様々な取組を講じてきた。 また、IoTや人工知能(AI)、ビッグデータ等の新技術の研究開発及びビジネスへの適用が急速に進んでおり、これらへの対応も急務となっている。 本章では、「世界最速・最高品質の特許審査」を実現するための、審査の迅速化に関する取組、質の高い権利を設定するための取組、及び海外特許庁との連携・協力について紹介する。特許における取組第2章 2013年度末にFA11を達成し、出願人は国内外での特許取得の可能性を早期に知ることができるようになった。他方、知的創造、権利設定、権利活用の知的創造サイクルを加速する上で、権利化までの期間の短縮を求めるニーズも高まっていた。そこで、2023年度までに特許の「権利化までの期間1」(標準審査期間)と「一次審査通知までの期間」をそれぞれ、平均14か月以内、平均10か月以内とすべく、登録調査機関による先行技術文献調査の拡充、必要な審査官の確保等の取組を着実に実施してきた。「権利化までの期間」(標準審査期間)が14か月以内になれば、例えば出願とほぼ同時に審査請求された案件が、出願公開の前には特許取得の目処がつくことを意味しており、これは、特許権の活用に加えて、特許査定に至らなかった発明の秘匿も含めた、多様な事業戦略の構築を可能にするものと期待される。本節では、これらの審査の迅速化に関する取組について紹介する。1 出願人が補正等をすることに起因して特許庁から再度の応答等を出願人に求めるような場合や、特許庁に応答期間の延長や早期の審査を求める場合等の、出願人に認められている手続を利用した場合を除く。
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