特許行政年次報告書2019年版100第2章特許における取組あった[2-2-3図]。スーパー早期審査制度を利用した出願の2018年の一次審査通知までの期間は、スーパー早期審査の申請から平均0.7か月(DO出願については平均1.1か月)となっている。(1)特許審査の質の維持・向上のための取組①特許審査の質をめぐる動向 国際的に信頼される質の高い特許権の設定は、無用な事後的紛争や出願競争を防ぎ、特許制度を健全に維持するために欠かせないものである。特に、近年における特許審査の迅速化とあいまって、特許審査の質の維持・向上に対する社会的要望は、非常に高くなっている。 また、研究開発や企業活動のグローバル化が進展する中、PCT国際出願件数の増大に見られるように、一つの発明を複数国で権利化する必要性が増大している。この権利化までの特許審査プロセスは、発明の認定、先行技術文献調査、判断及び通知・査定から構成される点において、各国・地域の特許庁間で大きな相違はない。 さらに、日米欧中韓の特許庁(五庁)の特許出願・審査関連情報(ドシエ情報)を一括して参照可能なシステムである「ワン・ポータル・ドシエ(OPD)」の構築により、審査結果は、各庁間で容易に利用可能な状況となっている。 このような現状において、出願人は、より質の高い審査結果を適時に提示することのできる特許庁を第1庁として選択することにより、権利化のための予見性を高め、コストの削減が可能となっている。そして、日本国特許庁は、特許審査の質と速さを2.質の高い権利を設定するための取組主な指標としてユーザーに選択される他庁との競争環境に晒されている。 このような状況の下、各国・地域の特許庁で、特許審査の質と適時性の確保に向けた取組が行われている。米国特許商標庁は、2014-2018年戦略計画に引き続き2018-2022年戦略計画の中で、特許の質及び適時性の最適化を優先目標として掲げており、特許関連業務の品質向上に向けた包括的プログラムに取り組んでいる。また、欧州特許庁は、2017年7月より、品質レポートをホームページに公表し、様々な特許審査の質の維持・向上の取組とその結果を出願人向けに紹介している。日本国特許庁もその例外ではなく、特許審査の質の維持・向上のための様々な取組を推進している。②特許審査の品質管理の推進 出願人が求める特許審査の質を満足するためには、各審査室において質の維持・向上に取り組むことはもちろんのこと、特許審査を担当する審査部全体で、ユーザーニーズを踏まえて品質管理に係る取組を推進することが重要である。 特許庁では、各審査室において、審査官一人一人が質の維持・向上に日々取り組むことに加えて、審査部全体としては、品質管理室が中心となり、特許審査の質の維持・向上に関する一元的 国際的に信頼される質の高い特許権は、円滑かつグローバルな事業展開を保障し、イノベーションを促進する上で不可欠である。こうした質の高い特許権には、後に覆ることのない強さと、発明の技術レベルや開示の程度に見合う権利範囲の広さを備え、世界に通用する有用なものであることが求められる。特許庁は、この「強く・広く・役に立つ特許権」を付与していくに当たり、品質管理体制の充実はもとより、第四次産業革命により注目が高まっている新技術に対応することを目的として、AI関連技術に関する特許審査事例の整備等を行った。また、ユーザー評価調査の充実等、特許審査の質の維持・向上のための取組を引き続き実施するとともに、ベンチャー企業対応スーパー早期審査等、ユーザーニーズに応じた取組を新たに開始した。本節では、これらの質の高い権利を設定するための様々な取組について紹介する。
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