特許行政年次報告書2019年版xv大1Gbpsのスピードを誇る第4世代の移動通信システム(4G)をキャリア各社は採用している。2020年に向けて、第4世代と比較して、通信スピードが10倍、基地局あたりの同時接続端末数が100倍、データの送信から受信までにかかる時間を10分の1となる第5世代の移動通信システム(5G)のサービスの準備が進められている。新たに求められる知財戦略 第3世代以降、さまざまなコンテンツを楽しむ端末として携帯電話が定着すると、そこで求められる端末の姿も従来と大きく変わることになった。旧来型の、操作ボタンがついた携帯電話機ではなく、操作ボタンを一切なくして画面を大きくし、指で画面に触れるだけで簡単にコンテンツの操作ができるインターフェースを採用したスマートフォンの登場である。米アップルが2007年に発売したiPhoneは、その先駆けとして市場に大きなインパクトをもたらし、世界のスマートフォン市場のけん引役となった。現在でも、特に日本国内における人気は凄まじく、調査会社IDC Japanの調査によれば2018年、スマートフォンの国内出荷台数全体の45.9%を占めるまでになっている。 スマートフォンが普及したことで、携帯電話機メーカーやコンテンツメーカーは今、新たな知財戦略に取り組みながら、産業競争力を高めようと模索している。どのように心地よく情報にアクセスし、コンテンツを楽しむことができるか。見やすく、操作しやすい画面をどう作り出せるか。インターフェースを通じた「操作体験」の向上が端末やサービスの価値そのものに直結している現在、画面の遷移や操作方法をめぐる「インターフェース特許」の重要性が増しているからだ。いかにして豊かな体験を生み出せる仕組みを知的財産化して、自社の製品力やブランド力を強化・保護できるかという戦略作りにまい進している。 米アップルは、同社のスマートフォンの外観や操作体験を真似したとして、韓国サムスン電子に対してインターフェース特許を含む知的財産権の侵害訴訟を起こした。この訴訟は2018年に、サムスン電子が5億3900万ドルの損害賠償金をアップルに支払うという判決をうけたのち、両者の間で示談が行われている。この事件は、インターフェースをめぐる特許の価値を世界中に知らしめた例として記憶に新しい。 この訴訟でアップルは、特許権だけではなく、意匠権や商標なども多用して自社のインターフェースの保護を訴えていたことに注目したい。これは、インターフェースのような「体験価値」を作りだすためには、特許権のみならず、意匠権や商標権が必要であり、これら複数の知的財産権を複合的に活用すると言った、より戦略的な知財活用が求められる時代が到来したことを意味している。米アップルのiPhoneは2007年に発売以来、外観やアイコンのデザイン、インターフェースの動きなど多様な知的財産権を駆使して商品の保護を行なっている。写真は2018年に発売した「iPhone XS」 (写真:米アップル)知財の視点から振り返る平成という時代冒頭特集
元のページ ../index.html#18