特許行政年次報告書2019年版150第7章情報システムにおける取組(3)共通文献プロジェクト 特許等の審査においては、自国のみならず世界中の文献を調査対象とする必要がある。そのためには、世界の各国特許庁が保有する文献データ範囲を統一し、国際的なワークシェアリングに資するサーチ環境の高度化を目指す必要がある。 そこで、五庁は、2008年より各国特許庁審査官が同一の文献データ範囲にアクセスできるようにサーチデータベース環境を整備する「共通文献プロジェクト」を開始し、①共通文献セットの目録(オーソリティ・ファイル)の作成、②CD等の記録媒体を用いない形態での各国特許庁間のデータ交換(データ交換のメディアレス化)を行ってきた。2019年3月現在、日本国特許庁から、五庁を含む41の海外特許庁・機関へメディアレスでデータ提供することにより、従来の記録媒体での提供に起因するデータエラーをなくすとともに、文献データを交換するためのコストを削減している。(4)新興国へのIT関連の支援 ASEAN諸国を始めとする新興国は、商品製造拠点や成長市場として重要性が一層高まっている。これらの新興国における知的財産行政を効率化し、我が国企業等のビジネス展開を円滑なものとすべく、日本国特許庁は、我が国からWIPOへの任意拠出金を財源とした信託基金(WIPOジャパンファンド)を通じて、新興国のITインフラ整備を支援している。今後も、日本国特許庁のITシステム構築の実績と経験を生かし、ワークショップ、各種プロジェクト、招へい研修、専門家派遣など、新興国へのITシステム関連の支援を継続していく予定である。①紙書類の電子化支援 ASEAN等の新興国の知財庁においては、ITを活用した業務の効率化や知財情報へのアクセス性向上を図る上で、出願書類等の電子化が課題となっている。日本国特許庁は、WIPOジャパンファンドを通じて、新興国知財庁の紙書類の電子化プロジェクトを支援している。現在、タイ、フィリピン、ベトナムでプロジェクトを継続中である。②ワークフロー最適化支援 ITシステムの導入にあたっては、特許や商標の出願から登録までの業務の流れ(ワークフロー)を定型化して最適化することが望ましいため、日本国特許庁は、WIPOジャパンファンドを通じて、新興国知財庁のワークフローの最適化プロジェクトを支援している。2018年度には、ベトナム、ラオスでのプロジェクトが完了した。③新興国向けITシステムの開発支援 WIPOは、WIPO-IPAS1という知財庁向け事務処理システムを無償で提供しており、80か国以上の知財庁が当該システムを導入している。WIPO-IPASは、特許や商標のオンライン出願、庁内での書類の電子的決裁や出願人への発送、公報の電子的発行などの機能がある上、各国知財庁のニーズに合わせて必要な機能のみを選択して導入できるという柔軟性を有している。日本国特許庁は、WIPOジャパンファンドを通じて、WIPO-IPASのシステム開発を支援している。④WIPO-CASEの開発と普及の支援 日本国特許庁は、WIPOが提供する特許の出願・審査情報(ドシエ情報)の共有システムであるWIPO-CASEについて、WIPOジャパンファンドを通じて、WIPO-CASEの機能向上、OPDとの連携、WIPO-CASEへの新興国の参加などを支援している。2018年度には、WIPO-CASEを利用したドシエ情報の参照・利用方法に関するワークショップ2(於タイ)の開催を支援し、日本国特許庁の特許審査官を講師として派遣した。⑤新興国向けIT研修の実施 日本国特許庁は、2018年度に新興国知財庁のIT担当者23名を招へいし、知財庁における効率的なITインフラを構築・利用する人材育成のための研修を実施した。1 WIPO IP Office Administration System2 第3部第2章3.(2)⑤d.WIPO-CASEナショナルワークショップ参照
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