特許行政年次報告書 2019年版
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特許行政年次報告書2019年版156Column 6現場で痛感した課題の解決を目指して起業――まず、FiNCを起業した経緯についてうかがいます。溝口 もともと私はスポーツクラブでトレーナーの仕事に携わっていました。100人以上のお客様のトレーニングを指導するなかで心がけていたのが、一人ひとりに対して適切なアドバイスを提供すること。過去の体重や血圧、トレーニング履歴などの情報を確認するためには、分厚いカルテを参照する必要があります。何年も通っていただいているお客様の場合、何冊ものカルテを見直さなければなりません。私自身、テクノロジーに興味があったことから、こうした人手に頼る作業はいずれ自動化されるだろうと感じていました。そして、そのタイミングが来たと思い、2012年に起業しました。――「この課題をこういうアプローチで解決したい」という明確なビジョンがあったということですね。溝口 他の起業家の方々と話をすると、「こういうニーズはあるか」「こういうマーケットはあると思うか」といった質問をされて、違和感を抱くことがあります。というのは、そうした人たちは「マーケット」を一つの塊と意識していて、お客様一人ひとりを見ていないように感じられるからです。私にとってのマーケットは、個々人のお客様の困りごとやニーズの集合体のようなもの。こうした感覚を持つのは、トレーナーとしての経験があるからでしょう。そんな現場で痛感した課題を解決したいと思って起業しました。――知財戦略に注力する企業は増えていますが、スタートアップのなかには「特許取得はハードルが高い」と感じている企業もあるようです。そんななかで、FiNCはすでに多くの特許をお持ちです。まず、これまでの特許への取り組みについてお聞かせください。溝口 すでに170件ほど出願し、53件の特許を取得しました(2019年6月現在)。審査中の100件余りについても、その多くは順次、特許として登録されるのではないかと考えています。最初の特許を申請したのは2014年ごろ。その一つは、先ほどお話しした課題への解決策です。お客様の課題やヘルスデータといった情報に基づいて、AIがアドバイスする仕組みについて特許を取得しました。「フィットネス・ヘルスケア×AI」で成長するスタートアップFiNCの知財戦略溝口勇児氏FiNC Technologies 代表取締役 CEOヘルステックベンチャーとして注目されるFiNC Technologies(以下、FiNC)。ダウンロード数が600万を超える(2019年6月現在)同社のアプリの特徴は、スマホ上で、歩数・体重・睡眠などのライフログのデータを基に、AI(人工知能)が美容や健康のアドバイスをしてくれる点にある。同社の急成長を支えているのが、実は、創業当初から注力している知財戦略である。[スタートアップへの支援施策]特許庁は2018年度、スタートアップ支援の強化に舵を切り、各種施策を打ち出してきた。各種施策の詳細については、「第2部第8章1.スタートアップへの支援」を参照されたい。

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