特許行政年次報告書2019年版158 います。具体的には、高速化や省力化、低コスト化、小型化などが可能になり、これまでできなかったことができるようになりました。低コスト化だけでも、大きなイノベーションにつながります。 たとえば、農業にドローンを導入すれば、肥料や農薬の散布、栽培管理などに役立ちます。もしドローンが何百万円もすれば、購入する農家は限られるでしょう。10万円なら、多くの農家が導入するかもしれません。フィットネス、ヘルスケアの分野でも同じようなことが起こりつつあります。私たちはその具体的なアプローチを考え続けています。弁理士との"壁打ち"でアイデアを具現化――特許の出願や取得に際して、弁理士などの専門家はどのように関わっているのですか。溝口 幸運なことに、とても優秀な弁理士と出会うことができました。何かアイデアを出すと、専門的な見地からアドバイスをしてくれて、私にとっては、よき"壁打ち相手"となってくれています。彼は創業の数年後に入社し、以来、インハウスの弁理士を務めてもらいました。 現在は特許申請の案件が一段落したこともあり、非常勤としてときどき出社するという形です。本人には「いろいろな分野の知見を広げたい」という意向があり、現在は事務所を立ち上げて活動しています。こうしたスタイルは、FiNCにとっても有益です。フィットネスやヘルスケアという分野だけで仕事をしていると、知財に関する発想が狭くなってしまうかもしれません。彼の知見や経験を通じて、私たちは新しい刺激を受けています。――特許に関する業務は、溝口さんと弁理士の二人で担っているのですか。溝口 そうです。ただ、優秀な弁理士がいれば特許を取得できるというわけではありません。一連のプロセスを主導するのは私です。お客様の課題に日々向き合い、テクノロジーやユーザーエクスペリエンス/インターフェース、新しいアイデアについて常に考えているのは私だからです。何かアイデアが浮かんだら、すぐに弁理士に話します。ときには、深夜に電話をすることもあり、専門家としての返答を得ることができます。即座に100点の回答は難しいとしても、次に会うときにはしっかりしたレスポンスが返ってきます。――知財戦略を考えるためには、ビジネスやテクノロジーなど幅広い知識が必要ということですね。これほど多くの領域をCEOだけでカバーするのは大変だと思います。溝口 容易なことではありませんが、スタートアップの経営者であれば、誰もが同じだと思います。すべての領域を見ているからこそ発想できることがあり、そのようにして生まれたアイデアには力があると思っています。多くの企業はビジネスの成長に伴い、各領域のエキスパートに任せる体制に移行します。当然のことかもしれませんが、専門家任せでは次第に発想がしぼんでしまうような気もします。では、どうすべきか。おそらく、これからも悩み続けるテーマだと思います。企業の弁理士に求められる三つの資質――弁理士などのプロフェッショナルには、どのような姿勢や資質が求められるでしょうか。溝口 基本的には弁理士も、他の社員も同じだと思っています。その前提でお話しすると、私が重視しているのは三つの資質です。 第一に、会社のミッションやビジョンに対する当事者意識。FiNCが成し遂げたいと考えていることに対して、「自分が一翼を担う」とい[弁理士の育成]知的財産保護の重要な担い手である弁理士には、これまで以上に知的財産の創造・保護・活用の促進に貢献することが求められている。このような状況下で、知的財産に関する専門技術的な知見を有する弁理士のさらなる育成および活用を図るべく、弁理士法について所要の改正を行ってきた。より詳細については、「第2部第9章1.(2)①弁理士の育成」を参照されたい。
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