特許庁における取組第2部特許行政年次報告書2019年版175第8章を「点」で報告します。しかし特許というのは、一つ上の階層で「面」を押さえていないと役に立ちません。点で権利関係を押さえても世界中の企業・研究所から簡単にすり抜けられ、類似技術に気づいても特許侵害の訴えができませんでした。くわえて、論文は、その時点の最先端成果を報告できればよいのですが、知財は期限が切れるまで、その権利が有効でなくてはいけませんので、先見性が非常に求められます。第二の「死の谷」を越えられない 日本の研究者──日本のアカデミアは特許についてどのような課題を抱えているとお考えですか。遠藤 6年前、特許庁の依頼で、特許出願技術動向調査(スピントロニクスデバイスとアプリケーション技術)に取り組んでいました。そこで痛感したのは、「技術が市場に出るまでには、なかなか越えられない『死の谷』が二つあり、日本の研究者は二つ目の『死の谷』を越える人が極端に少ない」ということです。 最初の「死の谷」は新しい技術の黎明期に存在します。少数の研究者の思いつきが技術として成り立つかどうか、各方面から基礎研究が行われます。日本はこの黎明期には強く、多数の特許が申請されます。 技術として成り立つという見込みが立つと、次は「市場はあるのか」という問いが待っています。この答えが出るまでには10年ぐらいかかることが多いですが、その間に世界中で当該技術への特許件数は停滞するか、減少します。これが第二の「死の谷」です。いよいよ市場が見えてくると、イノベーションの段階に入り、二段ロケットのように加速的にさらなる知財出願が産学一体となってなされます。しかし、日本は停滞期に息切れしてしまって、第二の「死の谷」を越えることができないのです。 アメリカは、黎明期の基礎研究に強く、さらに市場立ち上げ後の応用研究にも途切れることなく世界の特許出願数をリードしています。中国、韓国は、応用研究が得意であり、市場が見えてくる第二の「死の谷」時期に一気に特許出願が増えて、日本を抜き去ります。 よく言われますが、iPhoneの内部を見てみると、構成されている部品はほとんど日本製なのに、なぜ日本でiPhoneが生まれなかったのか。技術を統合したプラットフォーマーになることが、日本はなかなかうまくできていません。この傾向は2000年代にさらに顕著になってきました。私は、この意味からも、産学連携のさらなる高度化が本当に必要だと感じています。世界のプラットフォーマーを目指す CIESの取り組み──プラットフォーマーとなるために、日本はどのような取り組みをすべきでしょうか。遠藤 政策的な取り組みを含めて、企業もアカ【特許出願技術動向調査】特許庁では、市場創出に関する技術分野、国の政策として推進すべき技術分野を中心に、今後の進展が予想される技術テーマを選定して調査を実施している。2018年度の技術動向調査の結果については、「第1部第5章1.(2)2018年度特許出願技術動向調査結果」を参照されたい。遠藤哲郎(えんどう・てつお)東京大学理学部卒業後、東芝に入社。NANDメモリの開発、事業化に携わった後、1995年に東北大学電気通信研究所へ。学際科学国際高等研究センター教授、大学院工学研究科教授などを経て2012年より現職。縦型構造デバイス、SRAM・DRAM・3D NAND・STT-MRAMなどの高集積メモリ、モバイル・AI・IoTシステムに要求されるスピントロニクスベース超低消費電力化技術、GaN on Siベースパワーエレクトロニクス技術に関する研究に従事するなど、多方面で活躍。
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