特許行政年次報告書2019年版176運用に関わりますから、通常は大学総長の専権事項となります。しかしCIESは、創出する知財管理・運用をセンター長である私に権限移譲していただいています。そのため、企業と共同研究を行う際には、特許ライセンスの扱いまで含めて明記して、研究と知財がワンパッケージとして契約できます。 この制度面での改革は大きな成果につながりました。産学連携で大学と企業が取り組む共同研究の1件当たりの予算で見ると、CIESは全国平均の数百倍に達しています。 CIESは、超低消費電力IoT・AIチップ、MRAM、GaN on Siパワーデバイスとそのパワーエレクトロニクスの3分野で、世界最先端の革新的技術を持っているため、世界中の企業が共同研究に集まってくれています。企業は、「いいアイデアがある」だけでは投資しません。投資に確実なリターンを求める民間企業にとって、特許こそは最大の特効薬です。この業績が評価され、産学官連携功労者表彰で、内閣総理大臣賞を受賞しました。──特許は、研究者個人にはどのようなメリットをもたらしますか。遠藤 研究の規模が拡大し、研究者として活躍できる場が広がっていくのがその一つですし、報奨金が得られるのもうれしいことではあります。東北大学に来てから出願した特許群を活用して、最近パワースピン(株)という大学発ベンチャー企業を創業しました。これからこの企業を成長させていくことも楽しみです。研究論文を「国の宝」にする方法が 特許の出願・登録──日本の若手研究者は、知財や特許にどのように取り組むべきでしょうか。遠藤 若手研究者は、特許の食わず嫌いが多いのではないかと感じます。「研究で忙しいのに、デミアも第二の「死の谷」を越える方法を考えなければなりません。研究目標を将来の具体的な社会実装*2に想定し、そこに到達するにはいま何をすべきかを考えるバッグキャスティングの発想も、日本の基礎研究者には必要でしょう。ただし、私は悲観していません。日本はまだまだ基礎研究が盛んであり、研究開発の根っこは健全です。根っこさえしっかりしていれば、必ず産業を再生できます。──遠藤先生がセンター長を務めている東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター(以下、CIES)は、国際的な産学連携の下、世界のプラットフォームとなるような研究開発の拠点を目指しているとうかがいました。遠藤 CIESは、東北大学のさまざまな部局で創出された基本技術や、センター自身が生み出した革新的技術を、より大規模に社会実装していくことを目指しています。ひらめいた技術はおもしろいけれど、市場が見えないのでPOC(Proof of Concept:概念実証)だけで立ち消えになってしまう、という事態が日本は多すぎます。これを避け、産業界がきちんと成果を受け取れるところまで責任を持って研究開発するのがCIESのコンセプトです。 CIESは、大型設備投資は民間企業にしてもらい、運営も民間投資など外部資金のみで行う研究拠点です。アメリカ・スタンフォード大学や中国・清華大学のマイクロソフト棟やグーグル棟などと共通する取り組みといえます。──CIESが取り組む高度な産学連携において、特許はどのような役割を果たしますか。遠藤 特許取得は、産学連携の大型化、大規模化というメリットにつながります。 実はCIESは、知財を管理する部門をセンター自前で持っています。東北大学に限らず、特許は組織としての資産です。その特許を売却するのかライセンシングするのかは、組織の資産*2研究などの成果を社会的な問題の解決や経済的な発展に生かすこと。
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