特許行政年次報告書 2019年版
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特許庁における取組第2部特許行政年次報告書2019年版177第8章余計な作業で面倒」。そう感じているとしたら、明らかに認識不足です。 学生時代、私は理学部に在籍しており、指導教授の塚田捷先生と井野正三先生から「理学部の研究は100年の計、工学部の研究は10年の計であり、それぞれ時間軸が少し違うのみで、いずれも目指すべき最終地点は社会実装である」と教わりました。この教えもあって、「研究成果をどう社会実装して国民に還元していくのか」を念頭に日々の研究をしなければいけないと考えています。 それはつまり、論文を出版することで、「人類の宝」として科学技術の足跡として残していくと同時に、特許を出願・登録することで、「国の宝」として日本の国際競争力の原動力を日々強化していくことであると考えています。知財を蓄積すること、特許申請を書くこと、これも研究者の大事な仕事であり、責務です。 論文は日々実験したことをデスクワークでまとめていきますが、知財は「自分がやったことにはどのような意味があるのか」と一つ上の階層から見直し、昇華させることで生まれます。特許を書く過程で次の実験計画が生まれることもあり、特許は次の研究の糧になるのです。──民間企業に劣らず、アカデミアも積極的に特許を取得していかなければなりませんね。遠藤 ただし、論文や特許の数だけで、大学の価値を測ろうというのは間違ったアプローチです。同様に、民活は大事ですが、企業利益の視点だけが大きくなりすぎるのもいけません。アカデミアがまず大事にすべきは、基礎研究の根っこの強化・活性化です。大学で最も価値あるものは、その時の流行に流されることなく、長期的科学技術戦略を力強く支えられるダイバーシティ(多様性)でしょう。大学は、上下左右に広がりがあり、さまざまな革新的科学技術の芽が創出され、その中で学生や若者がいろいろなことを吸収・感受しながら学び、次世代を担う人材が育成されるからこそ、存在意義があるのです。(取材・文/長谷部葉子)●東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センターの概要国内初の100%民間拠出によるサイエンスパーク型産学連携拠点⃝知財の先駆的管理と戦略的運用⃝グローバルスタンダード対応の共同研究契約材料(川上)からシステム(川下)まで大学の革新的コア技術を統合⃝国際産学連携拠点の構築⃝次世代集積エレクトロニクスに資する革新的技術の開発ミッション&ビジョン平成28年度産学官連携功労者表彰「内閣総理大臣賞」受賞コア技術ハードソフト【大学への支援施策】特許庁では、イノベーションの源泉である大学の研究を社会に橋渡しするための支援を行っている。支援の詳細については、 「第2部第8章3.大学への支援」を参照されたい。国際産学連携オープンイノベーションの推進⃝民間共同研究費と競争的資金等による自立経営(外部資金のみでの運営資金を確保)⃝世界最大規模の産学コンソーシアムを構築産業界と大学が協力して研究開発を推進する研究拠点「サイエンスパーク」の第一号。材料・装置・デバイス・回路・システムなど多様な国内外の企業、そして地方公共団体(宮城県、仙台市、岩手県など)とも連携して、CIESコンソーシアム(共創の場)を運営。日本で初めて、大学キャンパス内に300mmウエハ対応のプロセスライン、共通評価分析装置、デバイス特性評価装置等を完備した。

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