特許行政年次報告書2019年版230*3ネットでサーバーなどを介さずに、ユーザー同士のPCが直接つながること。*4ナップスターは1999年に提訴され、2001年に敗訴。グロックスターは2003年に提訴され、サービス中止に同意した。り続けた。さらに一流の全国紙に「What time is it now?」という見出しを掲げたタイムシフトを訴える意見広告を掲載した。 創業時の会社設立趣意書で、「会社設立の目的」の第一条に「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」を掲げたソニーには、知的財産権が持つ価値を尊重し、それを経営に組み込むDNAが受け継がれていた。「ソニーでは、事業と開発と知財はまさに三位一体である」との証言も多い。 そんなソニーにあって盛田氏は、ユニバーサルの著作権侵害の主張を排斥するのではなく、新技術との両立を模索していた。裁判に負ければ膨大な賠償金が発生し、ソニーというブランド(これも重要な知的財産権)が毀損する。裁判で戦いつつも、法整備が新技術に追いついていない現実をなんとか改めようとしたのがベータマックス訴訟の“真意”だったのではないか。ナップスター事件と グロックスター事件の教訓 新技術と私的利用の折り合いをつけた「大憲章」だったが、デジタル技術の高機能化が進めば進むほど“限界”が明らかになってくる。 詳細は割愛するが、90年代後半から2000年代初頭にかけて、楽曲や映像をデジタル化してデータ圧縮したうえで、ネットを通じてやり取りできる技術が相次いで登場した。ナップスターは、ユーザーがデジタル圧縮してパソコンに保管している楽曲のリストをネットで検索でき、ユーザー同士で楽曲をコピーできる無料交換の場を提供した。グロックスターも、ナップスターとは異なる技術で無料交換を可能にした。 デジタルデータは何度複製しても音質や画質の劣化はない。これを放置すればコンテンツ業界は壊滅的な打撃を受ける。両社は、全米レコード協会やMGMから提訴されるが、そのときに正当性の論拠としたのが「ソニー判決ルール=大憲章」だった。ソニーの「時間のシフト」がフェアユースと認められるのであれば、自分たちがやっている「楽曲の存在する場所のシフト」も同様である、というわけだ。 しかし両社とも敗訴してサービス停止に追い込まれた。特に最高裁まで争ったグロックスター訴訟で最高裁が示した判決が注目される。「ソニー判決のルール=大憲章」は適用されず、「違法行為を誘発する意図があったこと」が判断の論拠になった。「グロックスターは、著作権に接触するファイルをキーワードで排除するソフトを開発しようとしたことはなく、配布したソフトウェアによる著作権侵害行為を減少させる仕組みの開発も試みていない。これはユーザーの著作権侵害の意図的な促進である」と断じた。 違法行為の誘発という概念が示されたことでP2P*3によるファイル共有は難しくなり、「大憲章」時代が転機を迎えることとなる。ジョブズ氏が結実させた 新技術と知財権保護の共存モデル レコード業界は、ナップスターとグロックスターの両訴訟で勝訴した*4が、一方で両社に勝るとも劣らない「合法的な配信システム」の構築が急務であることもすでに認識していた。そこにチャンスを見出したのがアップルの「iTunes Store」だった。 2001年に携帯音楽プレイヤー「iPod」を発売して成功を納めていたアップル(スティーブ・ジョブズ氏)は、レコード業界に、購入前の試聴やアルバム単位ではなく1曲ごとのアラカルト販売などさまざま提案を持ちかける。レコード業界は当初、提案に腰が退けていたが、ジョブズ氏の「iTunes StoreはまずMacのみで展開する。Macのパソコン市場でのシェアは3%
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