特許行政年次報告書 2019年版
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特許庁における取組第2部特許行政年次報告書2019年版231第9章ほどで、失敗しても取り返しはきく」という説得を受け入れ、iTunes Storeへの協力を決断する。iTunes Storeは2003年4月28日にサービスが開始された。 その結果は、サービス開始1週間で100万曲ダウンロード。以後、スマホの登場もあり、音楽配信サービスは当たり前のものとして定着した。現在は、定額制による聴き放題にまでサービスは“拡充”した(上のグラフ参照)。 動画投稿サイトの「YouTube」も当初は「違法ダウンロードサイト」と批判されたが、楽曲の有料販売や、映画などの違法投稿を監視する仕組みを備えることで、プロモーションサイトとして活用されるビジネスモデルを確立した。 革新的な新技術は、古い既成の市場に衝撃をもたらし、著作権者に壊滅的なダメージを与えるものと考えられていた。しかし、それを理由に新技術の開発を阻害してはならない。ベータマックス訴訟でソニーと盛田氏が挑み、最高裁が示そうとしたのは新技術に呼応できる社会のあり方だった。 それから30年を経ていま進むのは、新技術を積極的に取り入れ、活用することで著作権を保護し、ビジネスとしても持続性を確保する「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)である。半導体から始まったデジタルの歴史は、CDやビデオに複製防止の技術が取り入れられるようになったように、やっと新技術と知的財産権保護の対立軸から「共存の軸」へと移行しようとしている。実際、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などグローバル企業戦略はDXが前提であるし、DXを実現するスタートアップも増えている。 音楽の有料ネット配信という新たなビジネスモデルを構築したジョブズ氏が、「アップルはコンピュータ業界のソニーになることをめざしている」と畏敬の念を抱いているのを語ったのは99年の新製品発表会でのことだ。そのジョブズ氏がのちに、盛田氏が提起した新技術と知的財産権保護の課題に一つの解を示したのは、歴史の偶然であったのだろうか、必然であったのだろうか。(構成・文/船木春仁)※このコラムで紹介しているエピソードや判決文などは、以下の資料を参考にしています。ソニーHP「Sony History」文部科学省審議会資料「ベータマックス事件の概要」森健二『ソニー 盛田昭夫“時代の才能”を本気にさせたリーダー』ダイヤモンド社、2016年三浦基・小林憲一「フェアユースをめぐる20年」『放送研究と調査』NHK放送文化研究所、2005年11月号●ストリーミングが牽引する世界の音楽市場(2001年-2018年)出所:IFPI(国際レコード連盟)「Global Music Report 2019」23.9売上規模22.420.820.820.219.618.417.116.015.115.015.114.814.314.816.217.419.12001252015105020022003200420052006200720082009201020112012201320142015201620172018(十億ドル)(年)■ストリーミング ■デジタル(ダウンロード含む) ■CDなど■パフォーマンス・ライツ(楽曲使用料) ■シンクロナイゼーション(楽曲使用で発生する売上)

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