特許行政年次報告書 2019年版
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特許庁における取組第2部特許行政年次報告書2019年版239第10章知財高裁も、*4私の特許内容とiPodに搭載されている技術が一致すると判決し、最高裁が特許侵害を認めました。*5ただ、金額は残念です。*6――勝因はなんだと思いますか。齋藤 この事件について『iPod特許侵害訴訟』を書いた新井信昭先生が、「勝つための3要件」として、次の三つをあげています。1.筋の良い特許であること2.権利者が特許という武器の使い方を知っていること3.最後まで戦い抜く信念と戦い続けるための資金を調達できること 最も重要なのは、筋の良い特許であることだと思います。筋が良かったからこそ、発明協会が協力してくれたし、上山先生は成功報酬で引き受けてくれた。特許という武器を手に入れることもできたのです。――特許庁に対して、要望はありませんか。齋藤 特許のアーカイブがありますが、あれが専門家や頼れる組織に紐づいているといいと思います。それから、現在、私は新たな発明で世界特許を取得しようと動いているのですが、相変わらず大変で、特許権のシステムは発明家への負担が大きすぎます。先進国と後進国の綱引きに、人々に有益な研究に追われる世界中の発明家を巻き込まないでほしい。ですから特許庁には、世界の発明家がスムーズに活躍できる仕組みづくりをリードしてもらいたいです。――最後に、日本の発明家にメッセージをお願いします。齋藤 私は発明と特許について懸命に勉強してきました。アップル事件は一人では戦えなかったし、専門家の手を借りることも必要でしたが、たとえそうであっても、特許の勉強はするべきです。自分で考えた発明の、世界一のスペシャリストは自分だからです。(構成・文/木原洋美)齋藤憲彦氏の特許出願・審決(16年)ならびにアップル事件(11年)の経緯出所:新井信昭『iPod特許侵害訴訟 アップルから3.3億円を勝ち取った個人発明家』日本経済新聞出版社、2018年*■は出願特許関連、■はアップル事件関連の重要事項。1998.1.6齋藤特許出願(特願平10-12010)2月〜齋藤と日本企業のライセンス交渉1999.7.21齋藤特許出願公開(特開平11-194872)2003.10月〜齋藤とアップルのライセンス交渉2005.2.17齋藤が上山浩弁護士と出会う5.2齋藤特許分割出願(特願2005-133824後の齋藤特許)●訴訟前交渉2006.9.15齋藤特許登録(特許3852854)●訴訟前交渉2007.1.24齋藤→税関 輸入差止申立 ※5.16不受理2.6アップル→斎藤訴訟提起:債務不存在確認訴訟3.13齋藤→アップル 反訴提起:損害賠償請求 訴額1億円(一部請求) ●侵害論の主張立証2008.2.7東京地裁→双方 和解の打診(心証=本件特許に無効理由あり) ●和解協議9.4東京地裁 口頭弁論終結宣言●和解協議2009.3.5齋藤→特許庁 訂正審判請求3.13齋藤→東京地裁 口頭弁論再開申立3.17アップル→特許庁 無効審判請求※5.18請求取り下げ3.31特許庁 訂正を認める審決※4.11確定 ●侵害論の主張立証2010.11.4東京地裁→双方 心証開示(心証=侵害) ●損害論の主張立証2011.6.23齋藤→東京地裁 計算鑑定申立書 ●損害論の主張立証10.19東京地裁 計算鑑定決定●損害論の主張立証2012.12.18東京地裁 計算鑑定意見書●和解協議2013.2.20齋藤→東京地裁 請求額増額1億円→100億円(一部請求) 9.26東京地裁 判決言渡し3億3664万1920円を認容9.26アップル→知的財産高等裁判所へ控訴10.9齋藤→知的財産高等裁判所へ控訴2014.4.24知的財産高等裁判所 判決言渡し2015.9.9最高裁判所 確定*5 1審2審とも、「本件特許権は無効である」「そうでなくても権利侵害に当らない」というアップルの反論をすべて排斥して、齋藤氏の特許に対するアップルによる侵害を認め、齋藤憲彦氏への賠償を認める判決。最高裁で確定した。*6 齋藤氏の100億請求に対し、裁判所は「平成18年11月16日時点におけるデジタルミュージックプレーヤー市場におけるiPodの国内シェアは約60%に達しているが,それには原告の販売努力が相当程度貢献していることが認められる」として、3億3664万1921円と算出した。

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