特許行政年次報告書 2019年版
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国際的な動向と特許庁の取組第3部第1章特許行政年次報告書2019年版249(1) 我が国との関係 我が国と欧州は、EU、EPO、EUIPO、各国知的財産庁を通じて様々な関わりを持っている。 特許の分野においては、日本国特許庁(JPO)とEPOの間で、日米欧三極協力、日米欧中韓五庁協力を通して交流を図っている。意匠分野においては、日米欧中韓の意匠五庁(ID5)会合を通じて、EUIPOと協力を行っている。商標の分野においては、日EU商標専門家会合や日米欧中韓の商標五庁(TM5)会合を通じてEUIPOと協力を行っている。その他、JPOと欧州各国の知的財産庁の間においても、政策、人材交流等を通じて積極的に関わりを持っている。 2013年から交渉が開始された日・EU経済連携協定(EPA)は、2019年2月に発効した。当該EPA発効を通じて我が国と欧州の関係がより深まることが期待されている。(2)近年の知的財産政策の動向①欧州特許制度改革の動き 現在、欧州の複数の国において特許を取得する場合には、各国の知的財産庁に対してそれぞれ直接出願を行うほかに、欧州特許条約(EPC)に基づく出願を行うことが可能であり、EPOにおいて出願及び審査を一元的に行うことができる。しかし、EPCに基づく出願を行う際は、英語、ドイツ語、フランス語を手続言語とするものの、各国で特許権を有効なものとするためには、EPOにおいて特許査定がなされた後に、原則として、特許請求の範囲と明細書を各国の言語に翻訳する必要がある[3-1-7図]。また、各国の権利は独立しているため、特許権を行使する際には、各国で訴訟を提3.欧州における動向起する必要がある。これら出願人に課される翻訳費用や訴訟費用の負担を軽減すべく、欧州委員会のイニシアチブの下、2012年12月、欧州議会及びEU理事会は統一的な効力を有する欧州単一効特許(以下、「単一特許」)を創設するため規則を採択、また、2013年2月には、特許権成立後の侵害や有効性についての訴訟手続を一元的なものとする統一特許裁判所(UPC)を創設する協定がEU各国の署名により成立した。 単一特許の制度においては、既存の欧州特許と同様に、EPOで出願から審査までの手続を経た後、2019年3月末時点で参加を表明していないスペイン、クロアチアを除き最大で26のEU加盟国の間で単一的な効力が与えられる[3-1-8図]。また、新たに創設されるUPCは、批准した協定締約国において、単一特許のみならず、欧州特許についても専属管轄を有することとされている。単一特許規則については、UPC協定と同時に適用が開始されることになっており、そして、UPC協定の発効には、英独仏を含む13か国以上による批准が必要と規定されている。2019年3月時点では、オーストリア、フランス、スウェーデン、ベルギー、デンマーク、マルタ、ルクセンブルク、ポルトガル、フィンランド、ブルガリア、オランダ、イタリア、エストニア、リトアニア、ラトビア、英国(正式批准の完了順に記載)の16か国が批准済みである。一方、2017年に生じたドイツのUPC協定批准に係る違憲訴訟の影響により、ドイツの同協定への批准が現時点では不透明な状況であり、UPC協定がいつ施行されるのか、タイムラインを予測することは困難な状況である。 欧州では近年、欧州特許制度改革の動きが活発であり、単一効特許制度と統一特許訴訟制度の導入に向けて前進している一方、英国の欧州連合(EU)離脱問題(いわゆるBrexit)との関係で、本制度の施行について不透明性が生じている。 本節では、我が国との関係に加え、欧州における近年の知的財産政策の動向、及びEU、欧州特許庁(EPO)、欧州連合知的財産庁(EUIPO)、各国知的財産庁の各種取組について紹介する。

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