特許行政年次報告書2019年版264● 台湾の審判制度 台湾の知財制度は先進諸国とほぼ同等の水準に整備され、日本の制度とも多くの点で調和していることから、日系企業の知財戦略の基盤となっている。 一方、審判制度には台湾との相違もある。例えば、(i)智慧財産局(TIPO,特許庁相当)の審決に不服がある場合、智慧財産法院(知財高裁相当)で争う前に台湾経済部の「訴願」というステップがあること、(ii)無効審判(及びその審決取消訴訟)が当事者対立構造でないこと等が挙げられる。これらの制度に対し、台湾産業界からは特許紛争の迅速な解決の足かせとの指摘もある。● 制度改正の議論の開始 2019年2月、台湾審判制度改革の素案がTIPOから公表された。素案では(i)知財事件の訴願をTIPOの再審査に吸収し日本の審判部に相当する「争議審議組」を創設、併せて、前置審査や合議制を導入すること、(ii)無効審判において当事者対立構造とすることが提案された。なお、TIPOの説明資料では日本の審判制度を引用・対比して解説されている。 同月25日には、この素案に対する意見聴取の場としてTIPO主催の公聴会が開催された。公聴会には、著名な法学者、企業、弁理士等多くの知財関係者が参集し、予定時間を超過して議論されるなど関心の高さをうかがわせた。会場では、素案を支持する意見が多数あった一方、訴願と審判をTIPOに統合し独立・公正な判断ができるのか、前置審査が台湾になじむのか、行政処分と当事者対立構造の法的な解釈等の懸案も活発に議論された。 審判制度改革の議論は始まったばかりであり、今後関係当局を巻き込んだ議論がなされるとのことである。また、2020年1月に台湾総統選を控え、選挙の影響を受ける可能性もあり、素案どおりの展開にはならない場合がある。しかし、公聴会でのTIPOの発言は、本取組み推進への強い決意を表すものであった。 この素案が導入されれば台湾の制度の国際調和がまた一歩前進する。同様の制度を有する日本の経験も参考にしつつ検討がなされ、日本のユーザーにもなじみやすい制度となるか注目したい。台湾における審判制度改革日本台湾交流協会 台北事務所Column 222019年2月25日公聴会の様子
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