特許行政年次報告書2019年版268● シンガポールでの実体審査体制構築、 国際機関としての体制整備 シンガポール知的財産庁(IPOS)は従来は特許性に否定的な見解を含む審査報告書が発行された場合でも、出願人が申請すれば特許可能になる制度(セルフ・アセスメントシステム)を採用していたが、2014年、審査報告書で特許性に対し肯定的な意見が示された出願にのみ特許査定されるポジティブ・グラントシステム(実体審査)を導入した。IPOSは先行技術調査と審査の能力を急速に獲得し、早くも2015年からは国際調査機関/国際予備審査機関(ISA/IPEA)としての活動を開始している。IPOSのISA/IPEAとJPOの協力日本貿易振興機構 シンガポール事務所Column 23 JPOは2014年から審査官協議、短期審査官派遣やそのフォローアップ協議、さらに2014年からの長期審査官派遣を通じてこれらの活動への支援を行ってきた。これらの支援にはISA/IPEAの具体的な処理フローについての支援や、IPOSの強みを生かせるよう、コンピューター・ソフトウェア分野で問題となる保護適格性について、JPO審査基準を含めた世界各国の審査基準の比較研究や協議等が含まれる。このような地道な協力に支えられ、IPOSのISR受理件数、作成件数もともに順調な伸びを示している。● ベトナムとの特許審査ハイウェイ申請受付件数の上限拡大交渉 「ASEAN×日本の知財ステークスホルダー」として、弊所が事務局を務める「東南アジア知財ネットワーク(SEAIPJ)」がある。SEAIPJは、ASEAN各国当局と頻繁に意見交換を行い、日本の知財ユーザーの代表として様々な働きかけを行っている。 ベトナムでは、2016年4月から開始された特許審査ハイウェイ(PPH)は早期権利化の重要なツールとなっていたが、2018年度までベトナム知財庁が受け付けるPPH申請件数に年間100件という上限が設けられていた。実際、2018年度は4月3日に上限に達する等、申請が殺到する事態となり、多くの我が国の出願人から上限拡大が要望されていた。このような状況のもと、2018年10月に、JPOのPPH交渉団と一緒にSEAIPJメンバーがベトナム知財庁に赴き、我が国企業として「ベトナムにおいてビジネスを行う上で早期権利化がいかに重要か」、「PPHが早期権利化にいかに有効な手段であるか」を説いた上で、上限件数の拡大日本の官民一体となったASEANでの取組日本貿易振興機構 バンコク事務所を要望した。このような活動の甲斐もあり、2019年度からは上限が200件に倍増することとなった。これは、ベトナム知財庁に対して官民一体となった働きかけを行った結果であり、目に見える大きな成果であったと言えよう。● ASEANの特許審査官向け技術説明会 SEAIPJは、我が国企業の知財担当者・技術者、さらには現地法人の技術スタッフが実際に特許出願を行った最新技術について直接説明を行う「技術説明会」を実施している。ASEANでは、これまで、タイ、ベトナム、インドネシアにおいて合計20回以上開催し、現地の特許審査官の審査能力の向上に貢献してきた。ASEANの特許審査官からの評判も良く、継続的に実施をしてほしいとの要望を受けている。また、実績として技術説明会で説明した出願は早期に権利化される傾向が認められている等、SEAIPJメンバー企業としても有益な取組であるほか、このような技術説明会を現地法人の協力のもとで行うことで、現地人スタッフの知財教育にも効果があると言われている。Column 24
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