特許行政年次報告書2019年版274第1章国際的な知的財産制度の動向(1)ブラジル①我が国との関係 日本国特許庁(JPO)とブラジル産業財産庁(INPI)とは2010年4月に、知的財産分野における協力覚書に署名を行った。2017年8月、この協力覚書を改定し、INPIとの協力関係を拡大しており、2018年9月には、INPIの特許審査官を対象とした特許審査実務研修を開催するため、JPOの国際研修指導教官をブラジルへ派遣し、同年12月には、マドリッド協定議定書への加入を検討するINPIの要請を受けて、JPOによるマドリッド協定議定書に関するワークショップをブラジルにて開催している。 また、我が国とブラジルの間の官民による情報交換及びビジネス環境の改善、両国の貿易・投資の促進、産業協力を目的とした日伯貿易投資促進・産業協力合同委員会が年1回の頻度で開催されており、知的財産分野においても協議が行われている。同会合において、特許審査のワークシェアリングについて検討するワーキンググループが設けられ、議論がなされた結果、特許審査ハイウェイ(PPH)開始の合意に至り、2017年4月1日から2019年3月31日までの2年間、日伯PPH試行プログラムの第1フェーズを実施した。第1フェーズにおいては、INPIが受け付けるPPH申請には、「対象となる技術分野」及び「一出願人あたりの申請可能件数」に制限があったが、「対象となる技術分野」については、試行プログラムの第2フェーズでは対象を拡大することに合意した。その結果、2019年4月1日から2021年3月31日までの2年間、「対象となる技術分野」が従前のIT分野及び自動車関連技術を中心とした機械分野に加え、高分子化学、冶金、材料、農芸化学、微生物、酵素などにも拡大された日伯PPH試行プログラムの第2フェーズを実施することとなった。②近年の知的財産政策の動向及びINPIの取組 ブラジルでは、一次審査通知までの期間が平均8年1(2017年時点)と、審査の遅延が課題となっており、INPIは、特許・商標・意匠の処理件数について具体的な数値目標を定めた年間行動計画を2018年1月に発表し、特許審査官の増員や各国特許庁とのPPHの活用などによる特許審査バックログの削減に取り組んでいる。 また、INPIは、特許審査バックログを削減するための特例措置として、特許の出願・認可手続きを簡素化する規則案について、2017年7月にパブリックコメントを募集した。この規則案は、バックログに関して実体審査を行うことなく自動的に特許を付与する法案であるが、2019年3月時点で、規則案成立に向けた表立った動きは見られない。 INPIは、中南米諸国の中小規模特許庁と特許審査等で協力を進めるプラットフォーム「産業財産における地域協力システム(PROSUR)2」の構築を提案するなど、同地域における特許庁間の協力強化を進め、2018年7月には、PROSUR間でのPPHの第2フェーズの試行を開始している。10.中南米における動向1 World Intellectual Property Indicators 2018:http://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo_pub_941_2018.pdf2 PROSUR:2010年に設立された南米知財庁間の審査協力等を中心とした知的財産協力の枠組み。2018年6月時点で、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、エルサルバドル、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、コスタリカ、ニカラグア、パナマ、ドミニカ共和国の13か国が参加しているが、PPHに参加しているのは、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、パラグアイ、ペルー、ウルグアイの9か国のみ。3 CADOPAT:2007年に設立された、メキシコが参加国の特許サーチを支援するシステム。2017年時点での参加国は、コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、パナマ、ドミニカ、キューバ、ベリーズ、コロンビア、パラグアイ、エクアドル、アフリカ地域知的所有権機関(ARIPO)。1
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