国際的な動向と特許庁の取組第3部特許行政年次報告書2019年版289第2章④商標a. マドリッドシステムの法的発展に関する作業部会 標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書には2019年3月現在、日本を含む103の締約国がある。 標章の国際登録に関するマドリッド協定及び議定書(マドリッドシステム)については、制度の見直しを行うため、2005年からWIPOマドリッドシステムの法的展開に関する作業部会(なお、第4回会合までアドホックな会合とされていた。)が開催されている。 2018年7月に開催された第16回作業部会においては、主に、国際登録による国内・広域登録の代替1の範囲や効力発生日等に関する問題や、国際登録の国内登録への変更手続に関する改善、新しいタイプの標章及び新しい表現手段等について議論がなされた。b. 商標・意匠・地理的表示の法律に関する常設委員会(SCT) 商標分野では、主に国名の保護について議論が行われている。 国名の保護については、2014年3月の第31回会合で、ジャマイカから、国名の保護強化のために、国名と誤認混同のおそれのない場合でも国名と抵触する商標の使用を禁じる規定や、国名を含む商標の登録に際して当該国の許認可を必要とさせる規定を含む共同勧告案が提案された。また、2016年4月の第35回会合からは、ジャマイカによる共同勧告案と併せて、事務局は、国名の保護について、将来的に各国実務の調和の可能性が高い6つの分野(収束可能範囲)を提示した。さらに、第39回会合では、ジョージア・アイスランド・インドネシア等をはじめとした複数の国による国名及び国家的重要性のある地理的名称の保護、ペルーから国ブランドの保護の提案がなされ、2018年第39回会合、第40回会合で議論がなされているが、引き続き検討することとされている。 地理的表示(GI)については、2015年10月のWIPO加盟国総会で、各国・地域におけるGIの保護制度についての調査をSCTにおいて行うことが決定された。これを受けて、当該調査の内容及び進め方について議論されてきたが、第38回会合(2017年10月)において、各国・地域のGI保護制度に関する調査についての作業計画が採択され、今後はこの作業計画に沿って各国への調査が行われることとなった。⑤その他a. 知的財産と遺伝資源・伝統的知識・フォークロアに関する政府間委員会(IGC)2 途上国が、自国に豊富に存在している遺伝資源(GR)・伝統的知識(TK)・伝統的文化表現(TCEs)3に対して、国際的な保護の枠組を知的財産制度の中に設けることを強く求めるようになったことを受け、2000年に、知的財産と遺伝資源等の関係について知的財産の側面から専門的に議論を行うため、WIPO内にIGCが設置された。これまでに39回の会合が開催されている。 これまで、効果的な保護を確保する国際的な法的文書に合意することを目的にテキストベースの交渉を行うというマンデートに基づき、具体的なテキストを用いて議論が行われてきた。しかし、国際的な保護枠組の創設を求める途上国と、それに慎重な先進国の意見の懸隔は依然大きいままである。 2018年6月に行われた第36回会合では遺伝資源について集中的な議論が行われ、政策目的、保護対象、出所開示及び誤った特許付与防止のためのデータベースを含む防御的措置といった論点について検討がされた。途上国は、遺伝資源の不正使用防止のためには遺伝資源の出所を特許出願において開示させ、不遵守の場合には特許無効等の制裁を科すことが必要であり、データベースは出所開示を補完するものにすぎないものと主張とした。一方、先進国(日本・米国等)は、遺伝資源の出所は特許制度とは直接関係ないばかりか、出所開示の義務化は特許制度に悪影響1 ある締約国において既に商標登録が存在する場合に、同一の商標が国際登録され、その締約国を領域指定すると、当該締約国における国内登録を国際登録に置き換えることができる仕組み。代替により、複数の締約国において別個に存在する国内登録を国際登録として一元管理できるようになる。2 Intergovernmental Committee on Intellectual Property and Genetic Resources, Traditional Knowledge and Folklore3 最近のWIPO における議論では、「フォークロア」ではなく、「伝統的文化表現」との用語を使用している。
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