特許行政年次報告書2019年版290第2章グローバルな知的財産環境の整備に向けてを及ぼし、イノベーションを阻害しかねないとの懸念から、その導入に反対した。双方の主張の懸隔は埋まらず、第40回会合にテキストが送付されることとなった。 2018年8月、12月及び2019年3月に行われた第37~39回会合では伝統的知識・伝統的文化表現について集中的な議論が行われ、テキストの保護対象、保護範囲、受益者、保護アプローチといった論点について検討がされた。b. WIPO「開発アジェンダ」 2007年WIPO加盟国総会において、45項目からなる開発アジェンダに関する勧告が採択された。さらに、これらの勧告を実施するための作業プログラムの策定、及びその実施状況の評価等を行うため、「開発と知的財産に関する委員会(CDIP)1」の設立が合意された。CDIPは、2008年以降、毎年2回開催され、主にWIPO加盟国総会で合意された45項目の勧告に係る作業プログラムの内容及び実施について議論を行っている。これまでに、「知的財産と競争政策」、「知的財産とパブリックドメイン」等のプロジェクトが承認されている。 本会合に関する我が国の取組としては、「IP Advantage」データベースがある。本データベースは、途上国における知的創造サイクル促進のため、ビジネスと知的財産との関係に係る成功事例を入手できるワンストップ・サービスを提供し、途上国との情報共有を図ることを狙いとするものであり、2010年9月よりWIPOのウェブサイト2上で公開している。我が国がWIPOに任意拠出を行っているジャパンファンド事業の一環として、WIPO日本事務所において、当該データベースに投入される成功事例の調査・収集作業が継続して進められており、2019年3月現在、219件の事例が公開されている。c. WIPO標準委員会(CWS) CWSは、2009年9月のWIPO一般総会でその設置が承認されて以来、出願番号の記載方法、国コード及びXML等、産業財産権情報の国際的なデータ交換形式の標準であるWIPO標準に関する議論が行われてきた。 2018年10月に開催された第6回会合では、産業財産権情報をXMLを用いて処理するためのWIPO標準であるST.96の適用範囲の拡大や、XMLを使用したヌクレオチド等の配列表の表記に関するWIPO標準ST.26の改訂に向けた議論がなされるとともに、3DモデルやWeb APIといった技術に関するWIPO標準の策定に向けた検討が開始された。d. WIPO GREEN WIPOでは、規範設定のほかにも、グローバルな課題(特に公衆衛生、気候変動、食料安全)の解決に向けて知的財産が果たすべき役割を重要視し、知的財産の面から課題解決に貢献すべく様々な検討・取組を行っている。そして、我が国としても同課題解決に貢献すべく、WIPOの取組を支援している。 とりわけ「WIPO GREEN」は、日本知的財産協会(JIPA)の構想に端を発した取組であり、我が国としてもこれを支援している。この取組は、主に途上国への環境技術移転を促進するプラットフォーム作りを目指し、提供側の技術情報、及び導入側のニーズ情報の双方をデータベースとして蓄積し、技術提供側と導入を希望する側を引き合わせるハブとしての役割を果たす、いわゆるマッチング・データベースを整備するものである。環境技術に関する特許のライセンスのみならず、ノウハウや生産プロセス、資金調達、人的役務支援等を「技術パッケージ」として提供することで技術移転取引の促進を図ろうとするものであり、実際のライセンス等の交渉は当事者同士に委ねられるが、WIPOによって契約ひな形の提供等の取引支援も行われる予定とされている。我が国政府はWIPOへの任意拠出金(WIPOジャパン・トラスト・ファンド)を通じて、データベース構築等に係る費用の一部負担、特定分野における技術ニーズ調査事業3の費用負担等、「WIPO GREEN」事業を1 Committee on Development and Intellectual Property2 http://www.wipo.int/ipadvantage/en/3 提供側の技術情報に比して、登録数が極端に少ないニーズ情報を増やす目的で2014年度にWIPOが実施した調査事業。2
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