特許行政年次報告書2019年版294第2章グローバルな知的財産環境の整備に向けて(1)ODAのスキームを活用した取組①ジャパン・トラスト・ファンド(世界知的所有権機関(WIPO)) WIPOに対して1987年から任意拠出金を支出しており、この拠出金を基に信託基金「WIPOジャパン・トラスト・ファンド」が組まれ、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)地域のWIPOメンバー途上国を対象として、産業財産権に関する技術支援を実施。2008年には当該ファンドの対象地域をアフリカにまで拡大した。 本ファンドによる支援は2018年で創設30年となり、ワークショップ等の開催、研修、専門家派遣、知的財産権庁の情報化支援等を通じて、開発途上国の知的財産に対する意識の向上、知的財産制度の整備に貢献している。 2018年2月に開催された「WIPOハイレベルフォーラム」においてWIPOジャパン・トラスト・ファンドを活用した協力を全世界に広げることが紹介された。②技術協力プロジェクト1等(独立行政法人国際協力機構(JICA)) 現在、インドネシアにおいて、「ビジネス環境改善のための知的財産権保護・法的整合性向上プ3.開発途上国等に対する取組ロジェクト」(2015年12月-2020年12月)が実施されており、JPOから職員1名を長期専門家として派遣するとともに、案件に応じた短期専門家の派遣、研修生の受入れを通じて、知的財産制度整備の支援、人材育成協力、普及啓発活動を行っている。 また、ミャンマーでは、知的財産法の成立後に円滑に知的財産制度を運用するために、2015年3月よりJPOから職員1名を長期専門家として派遣し、出願・審査・登録を担う知的財産庁の設立、知的財産制度運用にあたっての実務上の細則の整備、組織内の業務フローの確立や職員の育成に関する支援を行っている。(2)人材育成に関する協力 JPOでは、人材育成に係る協力として、ワークショップ開催、研修生の受入れ、専門家派遣等を実施している[3-2-1図]。 人材育成に関する2018年度の主な活動は以下のとおり。①専門家派遣 WIPOジャパン・トラスト・ファンド及びJICA 技術協力プロジェクト等のスキームを活用して、JPO職員等を開発途上国の知的財産庁等へ派遣し、 知的財産制度は開発途上国にとってもビジネスの発展に有効なツールであり、かつ、必要なインフラであることから、これらの国における知的創造サイクルの確立に向けた取組を支援し、知的財産制度の法制度・運用整備を促すことは、開発途上国経済自体の自立的な発展を通じて、世界経済の持続的な成長に寄与するものである。加えて、知的財産制度の確立は、貿易・投資環境の改善につながり、開発途上国で事業活動を行う我が国企業のビジネスコストを引き下げるだけではなく、対内直接投資の拡大を促進するという観点からも、開発途上国の発展につながるものである。このような観点から、日本国特許庁(JPO)は開発途上国に対して、知的財産権の保護強化及び執行強化の観点から人材育成や情報化等を積極的に支援している。 また、開発途上国においては国ごとに知的財産権の保護水準や我が国との貿易・投資実態が大きく異なるため、協力の実施に当たっては、我が国産業界のニーズを踏まえ、対象国・分野等の優先度を十分吟味するとともに、各国の状況に応じたきめの細かい計画を策定することが不可欠である。 本節では、政府開発援助(ODA)のスキームの活用を中心とした我が国の取組について、その概要を紹介する。1 技術協力プロジェクトは、専門家の派遣、研修員の受入れ、機材の供与という3つの協力手段(協力ツール)を組み合わせ、一つのプロジェクトとして一定の期間に実施される事業形態。
元のページ ../index.html#324