特許行政年次報告書2019年版304第2章グローバルな知的財産環境の整備に向けて(1)環太平洋パートナーシップ(TPP)協定 TPP協定の知的財産章はTRIPS協定を上回る水準の知的財産権の保護と権利行使について規定することで、知的財産権の保護と利用の推進を図る内容となっており、包括的かつハイレベルな規定を設けたモデルケースとして位置づけられる。 TPP協定は2016年2月に署名されたものの、2017年1月に米国が離脱宣言をしたため、米国以外の参加国11カ国は、TPP協定のうち一部の項目(特許期間延長制度等)の凍結を含む環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)に合意、2018年12月に発効に至った。 産業財産権分野の主な規定は以下のとおりである。(特許)・特許期間延長制度(販売承認の手続の結果による有効な特許期間の短縮について特許権者に6.経済連携協定を通じた知的財産保護の取組補償するために特許期間の延長を認める制度、及び、出願から5年、審査請求から3年を超過した特許出願の権利化までに生じた不合理な遅滞につき、特許期間の延長を認める制度)の導入。ただし,TPP11では凍結。・新規性喪失の例外規定(特許出願前に自ら発明を公表した場合等に、その者が公表日から12月以内にした特許出願に係る発明は、その公表によって新規性等が否定されないとする規定)の導入。(商標)・国際的な商標の一括出願を規定した標章の国際登録を定めるマドリッド協定議定書又は商標出願手続の国際的な制度調和と簡略化を図るための商標法シンガポール条約の締結。・商標の不正使用について法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度を設けることを規定。 我が国は、幅広い経済関係の強化を目指して、アジア諸国を中心に経済連携協定(EPA)の締結を積極的に行っており、貿易・投資拡大に資する環境整備の一環として知的財産についても交渉分野に含めている。我が国の発効・署名済みの18のEPAのうち、日ASEAN包括的EPAを除き、知的財産に関する規定を設けており、TRIPS協定の保護水準を上回る義務も規定されている。 知的財産分野での交渉において、我が国は、相手国との通商関係や知的財産問題の大きさ等を考慮しつつ、(ⅰ)十分、効果的かつバランスの取れた知的財産保護、(ⅱ)知的財産保護制度の効率的で透明性のある運用、(ⅲ)十分かつ効果的なエンフォースメント、が確保されることを目指している。また、発効済のEPAについて、相手国に対して適切かつ確実な履行を求める取組を行っている。
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