第Ⅰ部 審査総論 第1章 審査の基本方針と審査の流れ
審査官は、特許出願について、特許権が付与されるべきものか否かに関する実体的な審査、すなわち、特許出願が拒絶理由を有しないかどうかの審査をする。審査官には、高度な専門知識の下に、公正な判断をすることが求められる。
審査官は、審査に当たっては、特に以下の点に留意する。
特許出願について審査請求がなされた場合は、審査官は、以下の流れで審査をする。審査における各手順の詳細は、「第2章 審査の手順」を参照。また、審査の流れについては、第1図を参照。
審査官は、まず審査の対象となっている特許出願(以下この部において「本願」という。)の明細書、特許請求の範囲及び図面を精読し、発明の技術内容を十分に理解する。一回目の審査前に補正書等(ここでいう「等」には、意見書、補正書以外の書類等(例:実験成績証明書、上申書)が含まれる。以下この部における「補正書等」及び「意見書等」の「等」について同じ。)が提出されている場合は、審査官は、これらの内容も十分に理解する。
そして、審査官は、本願の特許請求の範囲の請求項の記載に基づき、本願の請求項に係る発明を認定する。
審査官は、次に、特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件(第36条第6項第4号及び特許法施行規則24条の3第5号)、発明の単一性の要件(第37条)、記載要件(第36条)等の調査の除外対象に関わる要件について検討し、本願の請求項に係る発明のうち、先行技術調査の対象とする発明を決定する。
そして、審査官は、調査対象とした請求項に係る発明について、新規性(第29条第1項)、進歩性(第29条第2項)、拡大先願(第29条の2)及び先願(第39条)(以下この部において「新規性、進歩性等」という。)に関する先行技術調査をする。
審査官は、先行技術調査の終了後、その結果を踏まえて、調査対象とした本願発明の新規性、進歩性等について検討する。また、そのほかの拒絶理由の有無についても検討する。
審査官は、発明の単一性の要件、記載要件、新規性、進歩性等の検討及びそのほかの拒絶理由の有無の検討をした結果、拒絶理由を発見しなかった場合は、特許査定をする(第51条)。
審査官は、拒絶理由を発見した場合は、拒絶理由通知をする(第50条)。拒絶理由通知には、「最初の拒絶理由通知」及び「最後の拒絶理由通知」の二種類があるが、一回目の拒絶理由通知は必ず「最初の拒絶理由通知」である。
意見書、補正書等が提出された場合は、審査官は、提出された意見書、補正書等の内容を十分に検討して審査を進める。
そして、審査官は、意見書、補正書等の内容を参酌して、拒絶理由通知において示した拒絶理由が適切であったか否かを確認し、その上で、通知した拒絶理由が解消されたか否か、また、他に拒絶理由がないか否かを判断する。
審査官は、意見書、補正書等の内容を検討した結果、通知した拒絶理由が解消されたと判断した場合であって、他に拒絶理由を発見しなかったときは、特許査定をする(第51条)。
審査官は、意見書、補正書等の内容を検討しても、通知した拒絶理由が解消されていないと判断した場合は、拒絶査定をする(第49条)。
審査官は、通知した拒絶理由は解消されたと判断したが、他に拒絶理由を発見した場合は、改めて拒絶理由通知をする(第50条)。この場合において、先の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知するときは「最後の拒絶理由通知」とする。
意見書、補正書等が提出された場合は、審査官は、提出された意見書、補正書等の内容を十分に検討し、まず「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であったか否かを判断する。
審査官は、「最後の拒絶理由通知」とすることが不適当であったと判断した場合は、その補正書による補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて審査を進める。
審査官は、「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であったと判断した場合は、その補正書による補正が適法か否かを判断する。審査官は、補正が適法であると判断した場合は、その補正書による補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて審査を進める。
審査官は、補正が不適法であると判断した場合は、補正を却下すべきものと判断し、補正書が提出される前の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて審査を進める。
(「最後の拒絶理由通知」に対する応答として補正がされた場合の審査の流れについては、第2図を参照。)
意見書等は提出されたが補正書は提出されなかった場合は、審査官は、提出された意見書等の内容を十分に検討して、審査を進める。
審査官は、通知した拒絶理由が解消されたと判断した場合であって、他に拒絶理由を発見しなかったときは、特許査定をする(第51条)。
審査官は、通知した拒絶理由が解消されていないと判断した場合は、拒絶査定をする(第49条)。
審査官は、通知した拒絶理由は解消されたと判断したが、他に拒絶理由を発見した場合は、審査官は、「最初の拒絶理由通知」とすべきか「最後の拒絶理由通知」とすべきかを検討した上で、拒絶理由通知をする(第50条)。
なお、審査官は、補正書が提出された場合であって、当該補正書による補正を却下すべきものと判断したときは、補正の却下の決定(第53条第1項)をした上で、査定又は拒絶理由通知をする。
拒絶査定がされた特許出願に対して、拒絶査定不服審判の請求(以下この部において「審判請求」という。)がされ、その審判請求時に補正がされた場合は、審査官は、その審判請求に係る出願について審査をする(第162条)。この審査を「前置審査」という。
前置審査の概要は、以下のとおりである(前置審査の流れについては、「第2章第7節 前置審査」及び第3図を参照。)。
前置審査においては、審査官は、まず審判請求時の補正が適法であるか否かについて検討する。
そして、審査官は、その補正が適法であると判断した場合は、補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて前置審査を進め、その補正が不適法である場合は、拒絶査定時の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて前置審査を進める。
審査官は、前置審査の結果に応じて特許査定、拒絶理由通知又は前置審査の結果の特許庁長官への報告(第164条第3項)(以下この部において「前置報告」という。)をする。