第Ⅰ部 審査総論 第2章 審査の手順
この章の第1節から第6節までにおいて、審査全般について説明する。前置審査については第7節において説明する。第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知の取扱いについては、「第Ⅵ部第1章第2節 第50条の2の通知」の3.及び4.を参照。
以下に、審査の流れの概略とこの章との関係を示す。
発明の特許要件(「第Ⅲ部 特許要件」参照)についての判断をする前提として、審査官は、まず発明の技術内容を把握して確定する必要がある。この作業を発明の認定という。
審査官は、請求項に係る発明の認定を、請求項の記載に基づいて行う。この認定において、審査官は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項に記載されている用語の意義を解釈する。
また、審査官は、この認定に当たっては、本願の明細書、特許請求の範囲及び図面を精読し、請求項に係る発明の技術内容を十分に理解する。
明細書、特許請求の範囲又は図面(以下この部において「明細書等」という。)について補正がされている場合は、審査官は、補正の内容についても、十分に理解する。
審査官は、請求項に係る発明の新規性、進歩性等の判断をするに当たって、先行技術調査をする。
審査官は、先行技術調査をする際は、まず本願の請求項に係る発明から、先行技術調査の対象(以下この部において「調査対象」という。)となる発明を決定する。
そして、本願の発明の詳細な説明に、関連する先行技術文献に関する情報が開示されている場合や、外国特許庁の調査結果若しくは審査結果、登録調査機関の調査結果又は情報提供により提供された情報が確認できる場合は、審査官は、これらの内容を検討した上で、先行技術調査をする。
審査官は、先行技術調査の結果を踏まえて、新規性、進歩性等の判断を行う。
一回目の審査においては、審査官は、請求項に係る発明(注)のうち、「第Ⅱ部第2章第5節 特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件」の2.及び「第Ⅱ部第3章 発明の単一性」の4.に示したところに照らして審査対象となる範囲を調査対象とする。二回目以降の審査においては、審査官は、上記「第Ⅱ部第2章第5節 特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件」、「第Ⅱ部第3章 発明の単一性」及び「第Ⅳ部第3章 発明の特別な技術的特徴を変更する補正」の3.に示したところに照らして審査対象となる範囲を調査対象とする。
(注)発明を特定するための事項(以下この部において「発明特定事項」という。)が選択肢で表現されている請求項に係る発明については、選択肢から把握される発明。以下2.及び3.において同じ。
以下の類型(ⅰ)から(ⅵ)まで(以下この部において「除外対象」という。)のいずれかに該当する発明は、調査対象から除外され得る。
しかし、審査官は、第36条第6項第4号及び特許法施行規則24条の3第5号、第37条並びに第17条の2第4項以外の要件の審査対象とした発明については、調査対象から除外する発明ができる限り少なくなるように留意する。
走行中の自車と、前方を走行する車との間の距離dが、以下の条件を満たした場合に、自動的にブレーキをかける制御を行うことを特徴とする自動ブレーキシステム。
d ≧ th(ⅴ) th(ⅴ)は、自車の速度に応じて決定される閾値
d ≦ th(ⅴ) を満たした場合に、自動的にブレーキをかける制御を行うことが記載されている。
請求項に係る発明は、数式中の不等号の向きが発明の詳細な説明の記載と異なるため、その記載上は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。しかし、発明の詳細な説明の記載や、自動的にブレーキをかける制御は、自車と前方の走行する車との間の距離が所定の距離以下となった場合に行われるという出願時の技術常識を考慮すると、請求項中の不等号は誤記であり、正しくは、d ≦ th(ⅴ) であると認められる。したがって、請求項に係る発明をそのように把握して先行技術調査をする。
…を有効成分として含む医薬を使用したヒトの疾病Aの治療方法。
請求項に係る発明は、ヒトを治療する方法であるため「産業上利用することができる発明」には該当しない。しかし、「…を有効成分として含む疾病A治療用医薬」というようなカテゴリーを変更する補正により、除外対象とならない発明になることが合理的に予測できるので、請求項に係る発明をそのように把握して先行技術調査をする。
X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中のエネルギー効率がa~b%であるハイブリッドカー。
ベルト式無段変速機に対してY制御を行う制御手段を備えたハイブリッドカーのみが記載されており、X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中の当該ハイブリッドカーのエネルギー効率が、a~b%の範囲内であることが示されている。また、ベルト式無段変速機は、無段変速機の下位概念であるが、ベルト式以外の形式の無段変速機に対してY制御を行う制御手段を採用してもよいことが記載されている。X試験法の定義についても記載されている。
発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項に記載されている用語の意義を解釈しても、請求項の記載から発明を明確に把握することができない場合であっても、発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、請求項に係る発明には、少なくとも、無段変速機に対してY制御を行う制御手段を備え、X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中のエネルギー効率がa%からb%までであるハイブリッドカーが含まれることが把握される。したがって、請求項に係る発明をそのように把握して先行技術調査をする。
明細書に記載された発明。
発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識を参酌しても、請求項の記載が具体的にどのような発明を意図しているかを審査官が把握することができない。
上記請求項の記載では、発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識を参酌しても、発明を明確に把握できるほどに、請求項の記載が明確ではない。また、除外対象に該当しなくなる補正を合理的に予測することもできない。したがって、上記請求項を除外対象としてもよい。
100万ドルの価値がある私の発明。
発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識を参酌しても、請求項の記載が具体的にどのような発明を意図しているかを審査官が把握することができない。
上記請求項の記載では、発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識を参酌しても、発明を明確に把握できるほどに、請求項の記載が明確ではない。また、除外対象に該当しなくなる補正を合理的に予測することもできない。したがって、上記請求項を除外対象としてもよい。
審査官は、新規性(第29条第1項)、進歩性(第29条第2項)、拡大先願(第29条の2)及び先願(第39条)の審査基準(「第Ⅲ部第2章 新規性・進歩性」から「第Ⅲ部第4章 先願」までを参照。)に留意しつつ先行技術調査をして、関連する先行技術を漏れなく発見するように努める。
なお、先行技術文献に関する情報の開示要件(第36条第4項第2号)については、「第Ⅱ部第1章第3節 先行技術文献情報開示要件」を参照。
審査官は、特許請求の範囲に記載された発明について、補正により請求項に繰り入れられることが合理的に予測される事項も考慮しながら先行技術調査をして、関連性の高い先行技術文献等が十分に得られた場合又は調査範囲において、より有意義な関連先行技術文献等を発見する蓋然性が極めて低くなったと判断した場合は、先行技術調査を終了することができる(注)。
なお、請求項に係る発明及びその発明の実施例について、単独で新規性又は進歩性を否定する先行技術文献等を発見した場合は、審査官は、その請求項に関する限り、先行技術調査を終了することができる。
ただし、過度の負担なく他の実施例についても先行技術調査をすることができる場合は、審査官は、更に先行技術調査を続行することが望ましい。
なお、この場合において、拒絶理由通知をするときは、審査官は、全ての調査対象について先行技術調査をすることなく先行技術調査を終了した旨と、先行技術調査をした範囲を「先行技術文献調査結果の記録」に記載する。
審査官は、最初に先行技術調査をした後、拒絶理由通知をする場合は、「先行技術文献調査結果の記録」に、先行技術調査をした技術分野を記載する。
審査官は、先行技術調査をした技術分野としては、先行技術調査をした範囲を示す国際特許分類等を記載する。
また、拒絶理由を構成するものではないが、出願人にとって補正の際に参考になる先行技術文献等、有用と思われる先行技術文献がある場合は、審査官は、その先行技術文献の情報を併せて記録することができる。
審査官は、先行技術調査をした後、発見した先行技術文献に記載された先行技術が、請求項に係る発明に対し、新規性、進歩性等に関する拒絶理由を構成するものであるか否かについて判断する。
先行技術文献等の公知日は、拒絶理由を構成する上で極めて重要である。したがって、審査官は、新規性、進歩性に関する検討をする際は、それぞれの先行技術文献等の公知日と、本願の出願日(又は優先日)との関係を必ず確認する。
また、審査官は、拡大先願(第29条の2)の適用を検討する場合は、本願の出願日と先願の出願日及び公開日の関係並びに本願と先願の発明者及び出願人が同一でないか否かを必ず確認する。審査官は、先願(第39条) の適用を検討する場合は、本願と先願の出願日の関係を必ず確認する。
新規性、進歩性等の具体的な判断手法については、「第Ⅲ部第2章 新規性・進歩性」から「第Ⅲ部第4章 先願」までを参照。
拒絶理由通知に対する応答として明細書等について補正がされ、又は意見書等が提出された結果、それまでの先行技術調査において調査した範囲では調査範囲が十分ではなくなったと判断した場合は、審査官は、改めて先行技術調査をする。
なお、意見書、補正書等が提出された場合であっても、新たな先行技術調査をするまでもなく審査を進めることができるときは、審査官は、改めて先行技術調査をしなくてもよい。
この場合は、審査官は、外国特許庁における審査経過及び審査結果(引用発明の認定、拒絶理由の内容、最終的な審査結果及び特許された請求項の記載)を参考としつつ、その先行技術文献の内容が、請求項に係る発明に対し、新規性、進歩性等に関する拒絶理由を構成するものであるか否かについて検討する。その際は、審査官は、我が国と他国の制度及び運用の違いに留意する。
外国語書面出願の外国語書面又は外国語特許出願の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下この部において「外国語書面等」という。)と翻訳文の内容とは一致している蓋然性が極めて高い。したがって、審査官は、通常は、日本語に翻訳された部分のみを先行技術調査の対象とすれば足りる。
ただし、翻訳された部分に、外国語書面等の記載と相違しているとの疑義が生じた場合は、審査官は、外国語書面等にまで調査範囲を拡大する必要がある。
審査官は、拒絶査定をしようとするときは、出願人に対し拒絶理由通知をし、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない(第50条)。
審査官が、拒絶理由があるとの心証を得た場合においても、何らの弁明の機会を与えずに直ちに拒絶査定をすることは出願人にとって酷である。また、審査官が過誤を犯すおそれがないわけではない。このような理由から、出願人に、意見を述べる機会や、明細書等について補正をして拒絶理由を解消する機会を与え、同時に、意見書等を資料として審査官に再考するきっかけを与えることで、特許出願手続の適正かつ妥当な運用を図るために、この規定は設けられている。(参考)東京高判平成5年3月30日(平成3年(行ケ)199号)「着色方法」
拒絶理由通知は、手続上、以下の二種類に分けられる。
「最初の拒絶理由通知」とは、一回目の審査において通知すべき拒絶理由を通知する拒絶理由通知をいう。
したがって、一回目の拒絶理由通知は必ず「最初の拒絶理由通知」である。また、二回目以降であっても、一回目の審査において通知すべきであった拒絶理由を含む場合は、原則として「最初の拒絶理由通知」である(例外については、3.2.1(2)を参照。)。
なお、明細書等についての補正は、常に第17条の2第3項の要件を満たす必要があるが、最初の拒絶理由通知を受けた後の特許請求の範囲についてする補正は、同条第3項の要件に加えて、同条第4項の要件を満たす必要がある。
「最後の拒絶理由通知」とは、原則として「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知をいう。
二回目以降の拒絶理由通知を「最後の拒絶理由通知」とするか否かは、拒絶理由通知の形式的な通知回数によってではなく、実質的に判断する。
「最初の拒絶理由通知」とするか「最後の拒絶理由通知」とするかの具体的な判断は、3.を参照。
「最後の拒絶理由通知」を受けた後の特許請求の範囲についての補正は、第17条の2第3項及び第4項の要件に加えて、第17条の2第5項及び第6項の要件を満たす必要がある。
拒絶理由通知を受けるたびに特許請求の範囲を自由に変更できることとすると、その都度はじめから審査をし直すことになりかねない。これは、審査の遅延をもたらす一因となるだけでなく、適切に補正がされた出願とそうでない出願との間の取扱いの公平性を損なう一因ともなる。そこで、出願間の公平性を確保しつつ、迅速な審査を達成するために、最後の拒絶理由通知及びそれに対する補正の内容的制限についての制度を設け、最後の拒絶理由通知の応答時にする補正については、既になされた審査の結果を有効に活用できる範囲に制限することとした。
なお、拒絶理由通知と併せて第50条の2の通知がされた場合は、特許請求の範囲についてする補正は、「最後の拒絶理由通知」を受けた後の補正と同じ要件を満たす必要がある (「第Ⅵ部第1章第2節 第50条の2の通知」参照)。
審査官は、拒絶理由通知を、原則二回を限度(「最初の拒絶理由通知」及び「最後の拒絶理由通知」各一回)として通知し、手続全体の効率性に配慮しながら審査を進める。
ただし、ある拒絶理由を通知するだけで、その拒絶理由のみならず他の拒絶理由も同時に解消するような補正がされる可能性が高い場合においては、必ずしも複数の拒絶理由を重畳的に通知する必要はない。例えば、進歩性欠如の拒絶理由を通知するだけで、当該進歩性欠如の拒絶理由のみならず記載要件違反の拒絶理由も解消するような補正がされる可能性が高い場合においては、必ずしも記載要件違反の拒絶理由を通知する必要はない。
審査官は、二回目以降の拒絶理由通知に際しては、「最後の拒絶理由通知」とするか、「最初の拒絶理由通知」とするかを、以下に従って判断し、その上で拒絶理由通知をする。
以下の3.2.1及び3.2.2の具体例に該当せず、「最初の拒絶理由通知」とするか、「最後の拒絶理由通知」とするかが直ちに明らかでない場合は、審査官は、出願人に対して、補正の機会を不当に制限することのないよう、制度の趣旨(2.2(説明)参照)に立ち返って判断する。
「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知は、「最後の拒絶理由通知」とする。
新規性、進歩性等についての審査をしなかった発明(先行技術調査の除外対象に該当するため、新規性、進歩性等についての審査をしなかったことを、理由とともに明記した場合に限る。)について補正がされた場合は、当該補正後の発明を審査することは、補正により追加した請求項について改めて審査をすることと実質的に同じであるため、「最後の拒絶理由通知」とする。
意見書等を参酌した結果、補正前の請求項に係る発明を先行技術調査の除外対象とすべきではなかったと判断した場合に、補正後のその請求項に係る発明について通知する新規性、進歩性等についての拒絶理由は、「最初の拒絶理由通知」とする。
特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件(第36条第6項第4号及び特許法施行規則24条の3第5号)以外の要件についての審査をしなかった発明(前記委任省令要件以外の要件について審査をしなかったことを、理由とともに明記した場合に限る。)について補正がされた場合は、当該補正後の発明を審査することは、補正により追加した請求項について改めて審査をすることと実質的に同じであるため、「最後の拒絶理由通知」とする。
意見書等を参酌した結果、補正前の請求項に係る発明について、上記委任省令要件違反とすべきではなかったと判断した場合に、補正後のその請求項に係る発明について通知する拒絶理由は、「最初の拒絶理由通知」とする。
通常、軽微な記載不備であれば、新規性、進歩性等についての拒絶理由通知に対する応答時の補正の際に、併せて是正されることが期待される。また、仮にこれらの記載不備が是正されずに、「最後の拒絶理由通知」で指摘することになったとしても、第17条の2第5項第3号又は第4号の「誤記の訂正」又は「明りょうでない記載の釈明」に相当すると認められる程度のものについては、「最後の拒絶理由通知」後の補正として許容されるため、このように取り扱う。
二回目以降の拒絶理由通知であっても、一回目の拒絶理由通知において審査官が指摘しなければならなかった拒絶理由を通知する場合は、その拒絶理由は補正によって生じたものではないから、審査官は、「最初の拒絶理由通知」を通知する。
したがって、以下の(1)又は(2)に該当する場合は、審査官は、「最初の拒絶理由通知」を通知する。
なお、一回目の拒絶理由通知において指摘しなければならなかった拒絶理由と、拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要となった拒絶理由とを同時に通知する場合も、審査官は、「最初の拒絶理由通知」を通知する。
拒絶理由通知書には、拒絶理由を、出願人がその趣旨を明確に理解できるように具体的に記載しなければならない。また、拒絶理由とそれに対する出願人の応答は、特許庁における手続においてのみならず、後に特許発明の技術的範囲を確定する際にも重要な資料となる。したがって、拒絶理由は、第三者から見ても明確でなければならない。
審査官は、具体的には、以下の点に留意して拒絶理由通知をする。
その際には、出願人が特許権取得に向けた補正をすることができるように、必要以上に冗長に記載することなく、拒絶理由の要点を理解できるように記載する。
なお、拒絶理由における本願発明と引用発明との対比、判断等の説明が共通する請求項については、まとめて記載することができる。
ただし、審査官は、先行技術調査の除外対象とする発明ができる限り少なくなるように留意する必要がある(「第2節 先行技術調査及び新規性・進歩性等の判断」参照)。
すなわち、その拒絶理由通知に対して行った補正が、第17条の2第3項から第6項までのいずれかの要件を満たしていなかったとしても、審査官は、補正の却下の決定をしてはならない。
審査官は、拒絶理由を発見した場合は、所定の期間を指定して拒絶理由通知をしなければならず、出願人は、審査官から拒絶理由通知を受けた場合は、意見書を提出することができる(第50条)。
また、出願人は、その所定の期間内であれば、明細書等について補正をすることができる(第17条の2)。
審査官は、出願人から意見書、補正書等が提出された場合は、その内容を十分に検討した上で審査をする。
出願人から意見書、補正書等が提出された場合は、審査官は、以下の要領で審査を進める。
意見書及び実験成績証明書は、明細書における発明の詳細な説明に代わるものではない。しかし、これらは、出願人が出願当初の明細書等 (以下、この部において「当初明細書等」という。)に記載されていた事項が正しくかつ妥当なものであることを釈明又は立証するために提出されるものである。したがって、審査官は、意見書及び実験成績証明書が提出された場合は、これらの内容を十分に考慮する。
一回目の審査前に、又は最初の拒絶理由通知に対する応答時に、補正書が提出された場合は、審査官は、その補正書による補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて審査をする。
最後の拒絶理由通知に対する応答時に補正書が提出された場合は、審査官は、「最後の拒絶理由通知」としたことが不適当である、又は補正が適法であるときは、その補正書による補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて審査をする。「最後の拒絶理由通知」としたことが適当であり、かつ補正が不適法であれば、審査官は、補正を却下し、補正書が提出される前の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて審査をする(「第6節 補正の却下の決定」参照)。
一回目の審査前に補正書が提出された場合は、審査官は、補正書の内容を十分に検討した上で、先行技術調査及び拒絶理由がないか否かについての検討をする。
拒絶理由通知に対する応答として意見書、補正書等が提出された場合は、審査官は、これらの内容を十分に検討し、拒絶理由通知において示した拒絶理由が適切であったか否かを確認し、その上で、(ⅰ)通知した拒絶理由が解消されたか否か及び(ⅱ)他に拒絶理由がないか否かについて検討する。
拒絶理由通知に対する応答として補正がされず、意見書等が提出された場合は、審査官は、意見書等の内容を十分に考慮し、通知した拒絶理由が適切であったか否かを確認する。その上で、審査官は、(ⅰ)通知した拒絶理由が解消されたか否か及び(ⅱ)他に拒絶理由がないか否かを検討する。
また、最後の拒絶理由通知に対する応答として意見書、補正書等が提出された場合であって、当該補正書による補正を却下するときは、審査官は、意見書等と、補正書が提出される前の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて、通知した拒絶理由が適切であったか否かを確認し、その上で、(ⅰ)通知した拒絶理由が解消されたか否か及び(ⅱ)他に拒絶理由がないか否かを検討する。
審査官は、特許出願について拒絶理由を発見しない場合は、特許査定をする(第51条)。
また、審査官は、拒絶理由通知をした後の審査において、通知した拒絶理由が解消されていないと判断した場合は、拒絶査定をする(第49条)。
審査官は、特許出願について、(ⅰ)一回目の審査で拒絶理由を発見しなかった場合又は(ⅱ)拒絶理由通知後の二回目以降の審査において拒絶理由が解消されたと判断し、他の拒絶理由を発見しなかった場合は、速やかに特許査定をする。
審査官は、拒絶理由通知後の審査において、拒絶理由が解消されていないと判断した場合は、拒絶理由通知が「最初」のものであるか「最後」のものであるかにかかわらず、拒絶査定をする。その際、必要であれば、補正の却下の決定をした上で、拒絶査定をする(補正の却下の決定については、「第6節 補正の却下の決定」を参照。)。
ただし、通知した拒絶理由が解消されていない場合であっても、その拒絶理由を解消するために出願人がとり得る対応を審査官が示せる場合であって、その対応をとることについて出願人との間で合意が形成できる見込みがあると判断されるときは、出願人との意思疎通を図り、合意が形成されれば拒絶理由通知をする。
この拒絶理由通知は、原則として、「最後の拒絶理由通知」とする(「第3節 拒絶理由通知」の3.2.1(2)c参照)。
審査官は、拒絶査定の際は、以下の点に留意する。
経済安全保障推進法に基づく保全指定がされる可能性がある出願及び保全指定中の出願は、特許査定及び拒絶査定を行わない(経済安全保障推進法第66条第7項)。
「最後の拒絶理由通知」(第17条の2第1項第3号)に対する応答としてされた補正が第17条の2第3項から第6項までのいずれかの要件を満たしていない場合は、審査官はその補正を却下する(第53条第1項)。
二回目以降の拒絶理由通知に対する応答としてされた補正が不適法である場合についてまで、特許出願の拒絶理由とすると、その補正が不適法である旨の拒絶理由を再度通知し、更にその拒絶理由通知に対しては、補正が可能であるから、更に補正後の特許出願について審査をする必要がある。そのような事態を回避し、二回目の審査以降に通知される「最後の拒絶理由通知」に対する応答としてされた補正が不適法である場合に、その補正を却下するために、第53条の規定は設けられた。
「最後の拒絶理由通知」に対する応答として補正がされた場合は、審査官は、まず直前に通知した拒絶理由通知を「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であったか否かを検討する。「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であったと判断した場合は、その補正が第17条の2第3項から第6項までの要件を満たすか否か(補正が適法にされているか否か)を検討する。そして、補正が不適法である場合は、審査官はその補正を却下する(「最後の拒絶理由通知」に対する応答として補正がされた場合の審査の手順については、第2図も参照。)。
なお、分割出願制度の濫用を抑止する観点から、拒絶理由通知と併せて第50条の2の通知がされた場合であって、その応答としてされた補正が第17条の2第3項から第6項までのいずれかの要件を満たしていないときは、審査官はその補正を却下する(第53条第1項括弧書き。「第Ⅵ部第1章第2節 第50条の2の通知」参照)。
審査官は、まず意見書等における出願人の主張も参酌して、「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であったか否かを再検討する。
「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であった場合は、審査官は、補正が適法にされているか否かを検討する(3.参照)。
「最後の拒絶理由通知」とすることが不適当であった場合は、第53条を適用することができない。したがって、この場合は、審査官は、「最後の拒絶理由通知」に対する応答としてされた補正について、補正の却下の決定をすることなく、補正後の明細書等に基づいて審査を進める。そして、その補正後の出願に対し、先に通知した拒絶理由が解消されていない場合であっても、直ちに拒絶査定をすることなく、再度「最初の拒絶理由通知」をする。また、その補正によって通知することが必要となった拒絶理由のみを通知する場合であっても、「最後の拒絶理由通知」とせずに、再度「最初の拒絶理由通知」とする。
「最初の拒絶理由通知」とすべきであったことを出願人が主張し、それを前提に補正をしていると認められるものについては、審査官は、その拒絶理由は「最初の拒絶理由通知」であったものとして取り扱う。すなわち、拒絶理由が解消されていない場合は、拒絶査定をする。また、その補正によって通知することが必要となった拒絶理由のみを通知する場合は、「最後の拒絶理由通知」とすることができる。
補正の却下の対象となる補正は、以下の(1)から(4)までのいずれかに該当する補正である。
「最後の拒絶理由通知」に対する応答としてされた補正であって、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)に該当する補正は、「新規事項を追加する補正」に該当するため、補正の却下の対象となる。
「最後の拒絶理由通知」をする際に新規事項が存在していたが、その新規事項に基づいて拒絶理由通知をしていなかった場合は、「最後の拒絶理由通知」に対する応答としてされた補正がその新規事項を含んでいたとしても、その補正を却下することなく、補正後の明細書等に基づいて審査を進める。そして、新規事項を追加する補正である旨の拒絶理由通知をする。
「最後の拒絶理由通知」に対する応答としてされた補正であって、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)に該当する補正は、「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」に該当するため、補正の却下の対象となる。
このような事情に鑑み、審査官は、補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であるか否かの判断を必要以上に厳格に行うことがないように留意する。
特許請求の範囲についてする補正であって、次の(ⅰ)から(ⅳ)までのいずれの事項も目的としないものは補正の却下の対象となる。
第17条の2第5項の規定は、迅速な権利付与の実現及び出願間の公平性の確保の観点から、既になされた審査結果を有効に活用して審査を進められるようにするために設けられたものである。これを満たしていないことが後に認められた場合であっても、特許を無効とするような実体的な不備があるわけでないので、無効理由とはされていない。
したがって、審査官は、既になされた審査結果を有効に活用して審査を迅速に行うことができる場合において、本来保護されるべき発明についてまで、同項の規定を、必要以上に厳格に運用することがないように留意する。
「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とする補正がされた請求項に係る発明が独立して特許を受けることができないものである場合は、その補正は独立特許要件を満たさないので、補正の却下の対象となる。
補正がされた発明が独立して特許を受けることができないものである場合とは、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)の場合である。
請求項に係る発明が、独立して特許を受けることができるか否かの判断において適用される規定は、以下のとおりである。
例えば、「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とする補正がされた請求項に係る発明が進歩性(第29条第2項)を有していない場合は、通常、その補正は却下の対象となる(例外については、以下の(留意事項)(2)を参照。)。
また、「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とする補正がされた請求項に係る発明に関し、明細書等に記載不備(第36条)が存在する場合も、通常、その補正は却下の対象となる(例外については、下記(留意事項)(3)を参照。)。
したがって、特許請求の範囲についてする補正が、請求項の削除(第1号)、誤記の訂正(第3号)又は明瞭でない記載の釈明(第4号)を目的とする補正である場合は、審査官は、第17条の2第6項を適用してはならない。
例えば、「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とする補正がされた請求項に係る発明に進歩性についての拒絶理由が存在する場合であって、「最後の拒絶理由通知」においてその請求項に係る発明について、調査対象から除外せず、かつ、新規性、進歩性等についての拒絶理由を通知していなかったときは、その理由で補正を却下してはならず、補正後の明細書等に基づいて拒絶理由通知をする。
ただし、「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とする補正がされた請求項に係る発明が第39条第2項又は第4項の要件に違反する場合であって、その補正前の請求項に係る発明は第39条第2項又は第4項の要件に違反しておらず、その補正によって第39条第2項又は第4項の要件に違反するものとなったときは、その補正を却下する(第39条第2項又は第4項の要件に違反するか否かの判断及び審査の進め方は、「第Ⅲ部第4章 先願」の3.及び4.を参照。)。
また、その記載不備が軽微であって、簡単な補正でその記載不備を是正することにより、特許を受けることができると認められる場合も、補正を却下することなく、補正後の明細書等に基づいて、その記載不備の拒絶理由を「最後の拒絶理由通知」として通知し、出願人に対して再補正の機会を認めることとする。
審査官は、「最後の拒絶理由通知」に対する応答としてされた補正が、第17条の2第3項から第6項までのいずれかの要件を満たさないと判断した場合は、その補正を却下する。
ただし、出願人が拒絶査定不服審判の請求時に適切な補正をすることができるように、補正の却下に当たっては、その全ての理由を示すことが必要である。そのため、審査官は、補正の適否を、以下の手順に従って検討する。
例えば、「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とする補正によって、全ての請求項に係る発明が補正され、補正後の全ての請求項に係る発明が独立して特許を受けられるものでないと判断した場合は、全ての請求項に係る発明について理由を示す。
審査官は、「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とする補正がされた請求項に係る発明が、新規性、進歩性等を有していないため、特許を受けることができないと判断した場合は、以下の点に留意する。
補正を却下すると、出願は補正書が提出される前の状態に戻る。したがって、審査官は、補正書が提出される前の出願に対してされた「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理由が適切なものであったか否かを、確認する。
「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理由が適切なものであったか否かの確認に当たっては、出願人が提出した意見書等の内容を考慮しなければならない。
また、補正の却下の決定とともに拒絶理由通知をすることになるので、通知する拒絶理由が、補正前の出願についての拒絶理由であることを明確にしなければならない。
第159条第1項及び第163条第1項の規定によれば、「最後の拒絶理由通知」に対する補正が不適法であることが拒絶査定後に発見された場合は、審理又は前置審査(前置審査については、「第7節 前置審査」を参照。)の迅速化の観点から、その補正を遡って却下せずそのまま許容することとされている。この趣旨に照らし、「最後の拒絶理由通知」に対する応答としての補正を却下することなく、補正後の明細書等に基づいて新たな拒絶理由通知をした後に、先の「最後の拒絶理由通知」に対する応答としての補正が不適法であったことを発見したときも、同様の取扱いとする。
拒絶査定不服審判の請求のうち、審判請求時に、明細書等について補正があったものは、審判官の合議体による審理に先立ち、再度、審査に付される(第162条)。この審査を「前置審査」という。
拒絶査定不服審判において拒絶査定が覆るものの大部分が、その拒絶査定後に明細書等について補正がされたものである。前置審査制度は、このような実情に鑑み、審判請求時に補正があった場合は、その審判請求の処理を、その拒絶査定をした審査官に再審査させ、審判官が処理すべき事件の件数を減らし、審判の促進を図る趣旨で導入されたものである。
特に、その補正により特許査定をすることができる場合は、拒絶査定をした審査官が再審査することで、その出願に対する知識を十分に活用し、新たに審判官を指定してはじめから審理し直す場合に比べ、事件を容易かつ迅速に処理することができる。
したがって、前置審査は、原則として、その拒絶査定をした審査官が行う。前置審査において、審査官は、原査定(拒絶査定)の理由が解消されたと判断し、他に拒絶理由を発見しない場合は、原査定を取り消し、特許査定をする。
原査定を取り消し、特許査定をすることができない場合は、審査官は、原則として、前置報告をする。
ただし、以下の(1)又は(2)に該当する場合は、審査官は、拒絶理由通知をする。
(注)前置審査は拒絶査定に至るまでの審査をやり直すものではないため、発見した拒絶理由が補正によって新たに通知する必要が生じた拒絶理由のみである場合に限り、拒絶理由通知をすることとする。
前置審査においては、審査官は、まず審判請求時の補正が適法であるか否かについて検討し(3.1参照)、その上で、前置審査を進める(3.2及び3.3参照)。
そして、審査官は、前置審査の結果に応じて、特許査定(原査定は取り消す。)、拒絶理由通知又は前置報告をする。
審査官は、拒絶理由通知をした場合は、3.4に従って前置審査を進め、その結果に応じて、特許査定(原査定は取り消す。)又は前置報告をする。
なお、原査定の理由を解消するために請求人が取り得る対応を示せる場合は、審査官は、3.5に従って前置審査を進める。
審査官は、前置報告をする場合は、前置審査の結果として、以下の(ⅰ)から(ⅴ)までの事項のうち該当するものを前置報告書に記載する。いずれの事項を記載するかについては、3.2及び3.3を参照。
審査官は、まず審判請求時の補正が適法であるか否か(第17条の2第3項から第6項までの要件を満たすか否か)について検討する(注)。
審査官は、この検討を、「第6節 補正の却下の決定」に準じて行う。この場合は、同節における「『最後の拒絶理由通知』に対する応答としてされた補正」は「審判請求時にされた補正」に読み替えられる。
(注)補正が第17条の2第6項の要件(独立特許要件)を満たしていないか否かの検討については、審査官は、特許請求の範囲についてする補正が第17条の2第5項第2号(特許請求の範囲の限定的減縮)を目的とするものである場合に限って行う。
審判請求時の補正が適法である場合、すなわち、第17条の2第3項から第6項までの要件を満たす場合は、審査官は、補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づき、補正の対象が明細書若しくは図面のみであるか否か又は特許請求の範囲についてする補正の目的が第17条の2第5項各号のいずれであるかに応じて、以下のとおり前置審査を進める。
審査官は、原査定の理由が適切であったか否かを確認した上で、審判請求時の適法な補正によって、原査定の理由が解消されたか否かについて検討する。
原査定の理由が解消されたと判断した場合は、審査官は、他に拒絶理由がないか否かを更に検討する。
そして、検討の結果に応じて、以下の(1)から(3)までのとおり特許査定(原査定を取り消す。)、拒絶理由通知又は前置報告をする。
審査官は、原査定の理由が適切であったか否かを確認する。その上で、補正後の請求項に係る発明について、独立して特許を受けることができるか否かの判断において適用される要件以外の要件(例えば、原文新規事項(第49条第6号)(注))について拒絶理由があるか否かを検討する。
そして、検討の結果に応じて、以下の(1)又は(2)のとおり特許査定(原査定を取り消す。)、拒絶理由通知又は前置報告をする。
なお、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正がされた請求項に係る発明が独立して特許を受けることができない場合については、3.3を参照。
(注)審査官は、外国語書面と明細書等の一致性に疑義が生じた場合にのみ、外国語書面と明細書等を照合して、原文新規事項が存在するか否かを検討する(「第Ⅶ部第2章 外国語書面出願の審査」の2.2参照)。
審判請求時の補正が不適法である場合、すなわち、第17条の2第3項から第6項までのいずれかの要件を満たさない場合は、審査官は、原査定時の明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて、原査定の理由が適切であったか否かについて、再度検討するとともに、原査定時の明細書、特許請求の範囲及び図面について、他に拒絶理由がないか否かを検討する。
そして、検討の結果に応じて、以下の(1)から(3)までのとおり前置報告又は原査定を取り消して特許査定をする。
審判請求時の補正が不適法である場合は、審査官は以下の点に留意する。
この場合は、審査官は、原則として、上記3.1から3.3までに準じて審査をする。その際は、3.1から3.3までの「審判請求時の補正」、「拒絶査定の理由」をそれぞれ「拒絶理由通知に対する応答時の補正」、「通知した拒絶理由」と読み替えて審査をする。また、前置報告をする場合には、上記3.2又は3.3に示した事項に加えて、3.に示した(ⅲ)の事項も前置報告書に記載する。
なお、3.2.1(2)及び3.2.2(2)については、3.5に該当する場合を除き、拒絶理由通知をするのではなく、3.に示した(ⅴ)の事項を前置報告書に記載して前置報告をする。
この場合は、審査官は、意見書等の主張を参酌して、通知した拒絶理由が解消されたか否かを判断する。
通知した拒絶理由が解消されたと判断した場合であって、他に拒絶理由を発見しなかったときは、原査定を取り消して特許査定をする。
通知した拒絶理由が解消されなかったと判断した場合は、前置審査の結果として、3.に示した(ⅲ)から(ⅴ)までの事項を前置報告書に記載して前置報告をする。
拒絶理由通知に対する応答がなかった場合は、審査官は、前置審査の結果として、3.に示した(ⅲ)及び(ⅴ)の事項を前置報告書に記載して前置報告をする。
解消していないと判断した拒絶査定の理由や新たに発見した拒絶理由を解消するために請求人がとり得る対応を審査官が示せる場合であって、当該対応をとることについて請求人との間で合意が形成できる見込みがあると判断されるときは、審査官は、請求人との間で意思疎通を図る。そして、合意が形成された場合は拒絶理由通知をする。
この拒絶理由通知は、原則として、「最後の拒絶理由通知」とする(「第3節 拒絶理由通知」の3.2.1(2)c参照)。
審査官は、拒絶理由を解消するために、出願人がどのような対応を行えばよいかを示すことができる場合は、積極的に出願人との間で意思疎通を図る。
意思疎通の手段としては、拒絶理由通知等における補正、分割等の示唆、面接や電話・電子メール等による連絡等(以下この部において「面接等」という。)がある。
また、審査官は、審査上必要と認める場合は、第194条第1項の規定に基づき、審査のために必要な書類その他の物件(以下この部において「書類等」という。)の提出を求めることができる。
審査官は、拒絶理由通知等をする際、拒絶理由を解消するために、出願人のとり得る対応を示すことができる場合は、積極的に補正、分割等の示唆をする。
なお、この示唆により何らかの法律的効果が生じるというものではなく、補正、分割等については、出願人の意思、責任においてなされるべきものである。
補正の示唆が、複数の拒絶理由のうちの一部のみを解消するような示唆である場合は、審査官は、いずれの拒絶理由に関する示唆であるかを識別できるように記載する。
審査官は、出願人との間の意思疎通を円滑に行い、安定した権利の付与に資する場合は、積極的に面接等をする。面接等をする際は、「面接ガイドライン【特許審査編】」に基づいて行う。
審査官は、面接等をした場合は、手続の透明性を確保するために、面接記録又は応対記録を作成して公衆の閲覧に供する。
本願の審査を担当する審査官が変更されても、変更後の審査官は、審査の継続性を維持、確保する運用がなされるように留意する。もし、変更前の審査官と異なる判断をする場合は、出願人に対して「不意打ち」とならないよう、拒絶理由通知又は拒絶査定をする前に、必要に応じ、出願人との意思疎通を図る。
審査官は、審査上必要と認める場合は、第194条第1項の規定に基づき、審査のために必要な書類等を出願人に求めることができる。
なお、審査官は、審査のために必要な書類等の提出の求めを、拒絶理由通知に付記する形で行うこともできる。
提出された書類等は、明細書又は図面に代わるものではなく、審査上の参考資料にすぎないことに、審査官は留意する。