第Ⅲ部 特許要件 第2章 新規性・進歩性
特許法第29条第1項各号には、日本国内又は外国において、特許出願前に公然知られた発明(第1号)、公然実施をされた発明(第2号)、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第3号)が掲げられている。そして、同項は、これらの公知(注)の発明(新規性を有していない発明。以下この章において「先行技術」という。)については、特許を受けることができない旨を規定している。
特許制度は発明公開の代償として特許権を付与するものであるから、特許権が付与される発明は新規な発明でなければならない。同項は、このことを考慮して規定されたものである。
この節では、審査の対象となっている特許出願(以下この章において「本願」という。)に係る発明の新規性の判断について取り扱う。
(注)「公知」という用語は、一般に、第29条第1項第1号に該当するときを指す場合と、同項第1号から第3号までのいずれかに該当するときを指す場合とがあるが、以下この部においては、後者の意味で用いる。
新規性の判断の対象となる発明は、請求項に係る発明である。
審査官は、請求項に係る発明が新規性を有しているか否かを、請求項に係る発明と、新規性及び進歩性の判断のために引用する先行技術(引用発明)とを対比した結果、請求項に係る発明と引用発明との間に相違点があるか否かにより判断する。相違点がある場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していると判断する。相違点がない場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断する。
審査官は、特許請求の範囲に二以上の請求項がある場合は、請求項ごとに、新規性の有無を判断する。
特許法第29条第2項は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下この部において「当業者」という。) が先行技術に基づいて容易に発明をすることができたときは、その発明(進歩性を有していない発明)について、特許を受けることができないことを規定している。
当業者が容易に発明をすることができたものについて特許権を付与することは、技術進歩に役立たず、かえってその妨げになるからである。
この節では、特許を受けようとする発明の進歩性の判断、すなわち、その発明が先行技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かの判断を、どのようにするかについて取り扱う。
進歩性の判断の対象となる発明は、請求項に係る発明である。
審査官は、請求項に係る発明の進歩性の判断を、先行技術に基づいて、当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたことの論理の構築(論理付け)ができるか否かを検討することにより行う。
当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたか否かの判断には、進歩性が否定される方向に働く諸事実及び進歩性が肯定される方向に働く諸事実を総合的に評価することが必要である。そこで、審査官は、これらの諸事実を法的に評価することにより、論理付けを試みる。
以下この部において「当業者」とは、以下の(ⅰ)から(ⅳ)までの全ての条件を備えた者として、想定された者をいう。当業者は、個人よりも、複数の技術分野からの「専門家からなるチーム」として考えた方が適切な場合もある。
論理付けを試みる際には、審査官は、請求項に係る発明の属する技術分野における出願時の技術水準を的確に把握する。そして、請求項に係る発明についての知識を有しないが、この技術水準にあるもの全てを自らの知識としている当業者であれば、本願の出願時にどのようにするかを常に考慮して、審査官は論理付けを試みる。
ここで、「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、以下のようなものをいう。
審査官は、先行技術の中から、論理付けに最も適した一の引用発明を選んで主引用発明とし、以下の(1)から(4)までの手順により、主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判断する。審査官は、独立した二以上の引用発明を組み合わせて主引用発明としてはならない。
審査官は、特許請求の範囲に二以上の請求項がある場合は、請求項ごとに、進歩性の有無を判断する。
上記(2)の手順に関し、例えば、請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明がなく、相違点が設計変更等でもない場合は、論理付けはできなかったことになる。
他方、上記(4)後段の手順に関し、例えば、請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明があり、かつ、主引用発明に副引用発明を適用する動機付け(論理付けのための一要素。上図を参照。)があり、進歩性が肯定される方向に働く事情がない場合は、論理付けができたことになる。
主引用発明(A)に副引用発明(B)を適用したとすれば、請求項に係る発明(A+B)に到達する場合(注1)には、その適用を試みる動機付けがあることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。
主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの有無は、以下の(1)から(4)までの動機付けとなり得る観点を総合考慮して判断される。審査官は、いずれか一つの観点に着目すれば、動機付けがあるといえるか否かを常に判断できるわけではないことに留意しなければならない。
(注1)当業者の通常の創作能力の発揮である設計変更等(3.1.2(1)参照)は、副引用発明を主引用発明に適用する際にも考慮される。よって、主引用発明に副引用発明を適用する際に、設計変更等を行いつつ、その適用をしたとすれば、請求項に係る発明に到達する場合も含まれる。
主引用発明の課題解決のために、主引用発明に対し、主引用発明に関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。例えば、主引用発明に関連する技術分野に、置換可能又は付加可能な技術手段があることは、当業者が請求項に係る発明に導かれる動機付けがあるというための根拠となる。
審査官は、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの有無を判断するに当たり、(1)から(4)までの動機付けとなり得る観点のうち「技術分野の関連性」については、他の動機付けとなり得る観点も併せて考慮しなければならない。
ただし、「技術分野」を把握するに当たり(注2)、単にその技術が適用される製品等の観点のみならず、課題や作用、機能といった観点をも併せて考慮する場合は、「技術分野の関連性」について判断をすれば、「課題の共通性」や「作用、機能の共通性」を併せて考慮したことになる。このような場合において、他の動機付けとなり得る観点を考慮しなくても、「技術分野の関連性」により動機付けがあるといえるならば、動機付けの有無を判断するに当たり、改めて「課題の共通性」や「作用、機能の共通性」について考慮する必要はない。
(注2)技術分野は、適用される製品等に着目したり、原理、機構、作用、機能等に着目したりすることにより把握される。
例1:アドレス帳の宛先を通信頻度に応じて並べ替える電話装置。
アドレス帳の宛先をユーザが設定した重要度に応じて並べ替える電話装置。
アドレス帳の宛先を通信頻度に応じて並べ替えるファクシミリ装置。
主引用発明の装置と、副引用発明の装置とは、アドレス帳を備えた通信装置という点で共通する。このことに着目すると、両者の技術分野は関連している。
さらに、ユーザが通信をしたい宛先への発信操作を簡単にする点でも共通していると判断された場合には、両者の技術分野の関連性が課題や作用、機能といった観点をも併せて考慮されたことになる。
主引用発明と副引用発明との間で課題が共通することは、主引用発明に副引用発明を適用して当業者が請求項に係る発明に導かれる動機付けがあるというための根拠となる。
本願の出願時において、当業者にとって自明な課題又は当業者が容易に着想し得る課題が共通する場合も、課題の共通性は認められる。審査官は、主引用発明や副引用発明の課題が自明な課題又は容易に着想し得る課題であるか否かを、出願時の技術水準に基づいて把握する。
審査官は、請求項に係る発明とは別の課題を有する引用発明に基づき、主引用発明から出発して請求項に係る発明とは別の思考過程による論理付けを試みることもできる。試行錯誤の結果の発見に基づく発明等、請求項に係る発明の課題が把握できない場合も同様である。
例2:表面に硬質炭素膜が形成されたペットボトル。
表面に酸化ケイ素膜が形成されたペットボトル。
(主引用発明が記載された刊行物には、酸化ケイ素膜のコーティングがガスバリア性を高めるためのものであることについて記載されている。)
表面に硬質炭素膜が形成された密封容器。
(副引用発明が記載された刊行物には、硬質炭素膜のコーティングがガスバリア性を高めるためのものであることについて記載されている。)
膜のコーティングがガスバリア性を高めるためのものであることに着目すると、主引用発明と副引用発明との間で課題は共通している。
握り部に栓抜き部が備えられた調理鋏。
握り部に殻割部が備えられた調理鋏。
握り部に栓抜き部が備えられたペティーナイフ。
調理鋏やナイフ等の調理器具において多機能化を図ることは、調理器具における自明の課題であり、主引用発明と副引用発明との間で課題は共通している。
主引用発明と副引用発明との間で、作用、機能が共通することは、主引用発明に副引用発明を適用したり結び付けたりして当業者が請求項に係る発明に導かれる動機付けがあるというための根拠となる。
例4:膨張部材を膨張させて洗浄布を接触させ、ブランケットシリンダを洗浄する印刷機。
カム機構を用いて洗浄布を接触させ、ブランケットシリンダを洗浄する印刷機。
膨張部材を膨張させて洗浄布を接触させ、凹版シリンダを洗浄する印刷機。
主引用発明のカム機構も、副引用発明の膨張部材も、洗浄布を印刷機のシリンダに接触又は離反させる作用のために設けられている点に着目すると、主引用発明と副引用発明との間で作用は共通している。
引用発明の内容中において、主引用発明に副引用発明を適用することに関する示唆があれば、主引用発明に副引用発明を適用して当業者が請求項に係る発明に導かれる動機付けがあるというための有力な根拠となる。
例5:エチレン/酢酸ビニル共重合体及び当該共重合体中に分散された受酸剤粒子を含み、当該共重合体が、さらに架橋剤により架橋されている透明フィルム。
エチレン/酢酸ビニル共重合体及び当該共重合体中に分散された受酸剤粒子を含む透明フィルム。
(主引用発明が記載された刊行物には、エチレン/酢酸ビニル共重合体が太陽電池の構成部品と接触する部材として用いられることについて言及されている。)
太陽電池用封止膜に用いられ、エチレン/酢酸ビニル共重合体からなる透明フィルムであって、当該共重合体が架橋剤により架橋された透明フィルム。
主引用発明が記載された刊行物の前記言及は、主引用発明に、太陽電池用封止膜として用いられる透明フィルムに関する技術を適用することについて、示唆しているものといえる。
請求項に係る発明と主引用発明との相違点について、以下の(ⅰ)から(ⅳ)までのいずれか(以下この章において「設計変更等」という。)により、主引用発明から出発して当業者がその相違点に対応する発明特定事項に到達し得ることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。さらに、主引用発明の内容中に、設計変更等についての示唆があることは、進歩性が否定される方向に働く有力な事情となる。
これらは、いずれも当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないからである。
先行技術の単なる寄せ集めとは、発明特定事項の各々が公知であり、互いに機能的又は作用的に関連していない場合をいう。発明が各事項の単なる寄せ集めである場合は、その発明は当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内でなされたものである。先行技術の単なる寄せ集めであることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。さらに、主引用発明の内容中に先行技術の寄せ集めについての示唆があることは、進歩性が否定される方向に働く有力な事情となる。
引用発明と比較した有利な効果は、進歩性が肯定される方向に働く要素である。このような効果が明細書、特許請求の範囲又は図面の記載から明確に把握される場合は、審査官は、進歩性が肯定される方向に働く事情として、これを参酌する。ここで、引用発明と比較した有利な効果とは、発明特定事項によって奏される効果(特有の効果)のうち、引用発明の効果と比較して有利なものをいう。
請求項に係る発明が、引用発明と比較した有利な効果を有している場合は、審査官は、その効果を参酌して、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理付けを試みる。そして、請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有していても、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理付けられた場合は、請求項に係る発明の進歩性は否定される。
しかし、引用発明と比較した有利な効果が、例えば、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)のような場合に該当し、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることは、進歩性が肯定される方向に働く有力な事情になる。(参考) 最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)69号)「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」(ヒト結膜肥満細胞安定化剤事件判決)
特に選択発明(「第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の7. 参照)のように、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属するものについては、引用発明と比較した有利な効果を有することが進歩性の有無を判断するための重要な事情になる。
以下の(ⅰ)又は(ⅱ)の場合は、審査官は、意見書等において主張、立証(例えば、実験結果の提示)がなされた、引用発明と比較した有利な効果を参酌する。
しかし、審査官は、意見書等で主張、立証がなされた効果が明細書に記載されておらず、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない場合は、その効果を参酌すべきでない。
阻害要因の例としては、副引用発明が以下のようなものであることが挙げられる。
水道水のオゾンによる滅菌処理において、水流部を主流部と支流部とに分岐し、支流部から陽極に水道水を導入し、これを電解して直接オゾン水とする方法。
(主引用発明の記載された刊行物には、気体と液体との混合に関する高価な装置(気液接触装置)の使用を避けるという主引用発明の目的が記載されている。)
純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、当該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスを被処理水に注入することによりオゾン水とする方法。
気体と液体との混合に関する高価な装置(気液接触装置)の使用は、主引用発明の目的に反する。したがって、主引用発明において、副引用発明を適用し、一旦オゾン含有ガスを陽極液から取り出し、これを再び支流又は主流に注入し、溶解させる構成を採用することには、阻害要因がある。
所定の構造を有するベーンポンプ。
所定の形状を有するガスケット。
主引用発明のベーンポンプのシール用に、副引用発明のガスケットを用いた場合に、間隙が生じ、ベーンポンプとしての機能を果たしえなくなるときは、主引用発明に副引用発明を適用することについて、阻害要因がある。
液冷媒が通る通路と、気相冷媒が通る通路とを有する樹脂性の弁本体と、制御機構とを固定するために、かしめ固定による連結という手法を採用した温度式膨張弁。
(主引用発明が記載された刊行物には、先行技術の課題として、螺着の場合には、雄ねじの形成にコストがかかり、かつ、取付けに当たり接着剤を使用する必要があり、取付作業が面倒になることを挙げ、その課題を解決するために、かしめ固定という方法を採用したと記載されている。)
二つの部材を固定するために、ねじ結合による螺着という手法を採用した圧力制御弁。
主引用発明は、ねじ結合による螺着という方法を積極的に排斥しており、主引用発明に、副引用発明のねじ結合による螺着という技術を適用することには、阻害要因がある。
合成繊維の仮撚加工中の合成繊維を所定の糸導ガイドを走行させつつ、一の非接触式加熱装置で加熱する方法。
(主引用発明が記載された刊行物には、染斑を低減させることが目的として記載されている。)
合成繊維の仮撚加工中の合成繊維を複数の非接触式加熱装置で加熱する方法。
(副引用発明が記載された刊行物には、いくつかの態様が記載され、そのうち、全ての非接触式加熱装置を温度aで運転する態様については、他の態様よりは、染斑が発生しやすい態様として記載されている。)
副引用発明の前記態様は、主引用発明が達成しようとする染斑の低減という点では劣る例として示されたものである。したがって、主引用発明に副引用発明を適用し、主引用発明の非接触式加熱装置を温度aで運転することには、阻害要因がある。
請求項に係る発明とは技術分野又は課題が大きく異なる主引用発明を選択した場合には、論理付けは困難になりやすい。そのような場合は、審査官は、主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことについて、より慎重な論理付け(例えば、主引用発明に副引用発明を適用するに当たり十分に動機付けとなる事情が存在するのか否かの検討)が要求されることに留意する。
(注1)自明な課題や当業者が容易に着想し得る課題を含む。
また、ここで検討されるのは、請求項に係る発明と主引用発明との間で課題が大きく異なるか否かである。ここで請求項に係る発明と主引用発明との間で検討される課題は、3.1.1(2)の課題(主引用発明と副引用発明との間で共通するか否かが検討される課題)と同一である必要はない。
(注2)例外としては、物自体の発明が用途発明(「第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の3.1.2参照)である場合における、その物の製造方法が挙げられる。
審査官は、新規性及び進歩性の判断をするに当たり、請求項に係る発明の認定と、引用発明の認定とを行い、次いで、両者の対比を行う。対比の結果、相違点がなければ、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断し(第1節)、相違点がある場合には、進歩性の判断を行う(第2節)。
審査官は、請求項に係る発明を、請求項の記載に基づいて認定する。この認定において、審査官は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項に記載されている用語の意義を解釈する。
審査官は、請求項の記載に基づき認定した発明と明細書又は図面に記載された発明とが対応しないことがあっても、請求項の記載を無視して明細書又は図面の記載のみから請求項に係る発明を認定し、それを審査の対象とはしない。審査官は、明細書又は図面に記載があっても、請求項には記載されていない事項は、請求項には記載がないものとして請求項に係る発明の認定を行う。反対に、審査官は、請求項に記載されている事項については必ず考慮の対象とし、記載がないものとして扱ってはならない。(参考) 最二小判平成3年3月8日(昭和62年(行ツ)3号・民集45巻3号123頁)「トリグリセリドの測定法」(リパーゼ事件判決)
この場合は、審査官は、請求項の記載どおりに請求項に係る発明を認定する。また、審査官は、請求項の用語の意味を、その用語が有する通常の意味と解釈する。
ただし、請求項に記載されている用語の意味内容が明細書又は図面において定義又は説明されている場合は、審査官は、その定義又は説明を考慮して、その用語を解釈する。なお、請求項の用語の概念に含まれる下位概念を単に例示した記載が発明の詳細な説明又は図面中にあるだけでは、ここでいう定義又は説明には該当しない。
この場合において、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項中の用語を解釈すると請求項の記載が明確になるのであれば、審査官は、それらを考慮してその用語を解釈する。
この場合は、審査官は、請求項に係る発明の認定を行わない。なお、このような発明について、先行技術調査の除外対象になり得ることについて、「第Ⅰ部第2章第2節 先行技術調査及び新規性・進歩性等の判断」の2.3を参照。
審査官は、先行技術を示す証拠に基づき、引用発明を認定する。
先行技術は、本願の出願時より前に、日本国内又は外国において、3.1.1から3.1.4までのいずれかに該当したものである。本願の出願時より前か否かの判断は、時、分、秒まで考慮してなされる。外国で公知になった場合については、日本時間に換算した時刻で比較してその判断がなされる。
「頒布された刊行物に記載された発明」とは、不特定の者が見得る状態に置かれた(注1)刊行物(注2)に記載された発明をいう。
(注1)現実に誰かが見たという事実を必要としない。
(注2)「刊行物」とは、公衆に対し、頒布により公開することを目的として複製された文書、図面その他これに類する情報伝達媒体をいう。
審査官は、刊行物に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握することができない発明を「引用発明」とすることができない。そのような発明は、「刊行物に記載された発明」とはいえないからである。
刊行物に 発行時期が記載されているか |
推定される頒布時期 | |
記載されている(注) | 発行の年のみが記載されているとき | その年の末日の終了時 |
発行の年月が記載されているとき | その年月の末日の終了時 | |
発行の年月日まで記載されているとき | その年月日の終了時 | |
記載されていない | 外国刊行物で国内受入れの時期が判明しているとき | その受入れの時期から、発行国から国内受入れまでに要する通常の期間さかのぼった時期 |
その刊行物につき、書評、抜粋、カタログ等を掲載した他の刊行物があるとき | 当該他の刊行物の発行時期から推定されるその刊行物の頒布時期 | |
その刊行物につき、重版又は再版があり、これに初版の発行時期が記載されているとき | その記載されている 初版の発行時期 |
|
その他の適当な手掛かりがあるとき | その手掛かりから推定 又は認定される頒布時期 |
|
(注)刊行物に記載されている発行時期以外に、適当な手掛かりがある場合は、審査官は、その手掛かりから推定又は認定される頒布時期を、その刊行物の頒布時期と推定することができる。 |
特許出願の日と刊行物の発行日とが同日の場合は、審査官は、刊行物の発行の時が特許出願の時よりも前であることが明らかな場合のほかは、頒布時期を特許出願前であると取り扱わない。
「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」とは、電気通信回線(注1)を通じて不特定の者が見得るような状態に置かれた(注2)ウェブページ等(注3)に掲載された発明をいう。
「ウェブページ等に掲載された発明」とは、ウェブページ等に掲載されている事項及びウェブページ等に掲載されているに等しい事項から把握される発明をいう。
審査官は、ウェブページ等に掲載された発明を、3.1.1(1)に準じて認定する。ただし、その発明を引用するためには、ウェブページ等に掲載されている事項が掲載時期にその内容のとおりにそのウェブページ等に掲載されていたことが必要である。
審査官は、公衆に利用可能となった時が出願前か否かを、引用しようとするウェブページ等に表示されている掲載時期に基づいて判断する(注4)。
この場合は、具体的根拠が示されていないので、審査官はその反論を採用しない。
審査官は、その掲載、保全等に権限及び責任を有する者に問い合わせて掲載時期又は掲載内容についての確認を求める。その際、審査官はウェブページ等への掲載時期又は掲載内容についての証明書の発行を依頼する。
出願人からの反論等を検討した結果、その疑義があるとの心証が変わらない場合は、審査官は、そのウェブページ等に掲載された発明を引用しない。
「公然知られた発明」とは、不特定の者に秘密でないものとしてその内容が知られた発明をいう(注)。
(注) 守秘義務を負う者から秘密でないものとして他の者に知られた発明は、「公然知られた発明」である。このことと、発明者又は出願人の秘密にする意思の有無とは関係しない。
学会誌等の原稿は、一般に、その原稿が受け付けられても不特定の者に知られる状態に置かれるものではない。したがって、その原稿の内容が公表されるまでは、その原稿に記載された発明は、「公然知られた発明」とはならない。
「公然知られた発明」は、通常、講演、説明会等を介して知られたものであることが多い。その場合は、審査官は、講演、説明会等において説明された事実から発明を認定する。
説明されている事実の解釈に当たって、審査官は、講演、説明会等の時における技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項も、「公然知られた発明」の認定の基礎とすることができる。
「公然実施をされた発明」とは、その内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施をされた発明をいう(注)。
(注) その発明が実施をされたことにより、公然知られた事実もある場合は、第29条第1項第1号の「公然知られた発明」にも該当する。
「公然実施をされた発明」は、通常、機械、装置、システム等を用いて実施されたものであることが多い。その場合は、審査官は、用いられた機械、装置、システム等がどのような動作、処理等をしたのかという事実から発明を認定する。
その事実の解釈に当たって、審査官は、発明が実施された時における技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項も、「公然実施をされた発明」の認定の基礎とすることができる。
この場合は、下位概念で表現された発明が示されていることにならないから、審査官は、下位概念で表現された発明を引用発明として認定しない。ただし、技術常識を参酌することにより、下位概念で表現された発明が導き出される場合には(注2)、審査官は、下位概念で表現された発明を引用発明として認定することができる。
(注1)「上位概念」とは、同族的若しくは同類的事項を集めて総括した概念又はある共通する性質に基づいて複数の事項を総括した概念をいう。
(注2)概念上、下位概念が上位概念に含まれる、又は上位概念の用語から下位概念の用語を列挙することができることのみでは、下位概念で表現された発明が導き出される(記載されている)とはしない。
この場合は、先行技術を示す証拠が発明を特定するための事項として「同族的若しくは同類的事項又はある共通する性質」を用いた発明を示しているならば、審査官は、上位概念で表現された発明を引用発明として認定できる。なお、新規性の判断の手法としては、上位概念で表現された発明を引用発明として認定せずに、対比、判断の際に(4.及び5.1、特に4.2を参照。)、その上位概念で表現された請求項に係る発明の新規性を判断することができる。
審査官は、請求項に係る発明の知識を得た上で先行技術を示す証拠の内容を理解すると、本願の明細書、特許請求の範囲又は図面の文脈に沿ってその内容を曲解するという、後知恵に陥ることがある点に留意しなければならない。引用発明は、引用発明が示されている証拠に依拠して(刊行物であれば、その刊行物の文脈に沿って)理解されなければならない。
審査官は、認定した請求項に係る発明と、認定した引用発明とを対比する。請求項に係る発明と引用発明との対比は、請求項に係る発明の発明特定事項と、引用発明を文言で表現する場合に必要と認められる事項(以下この章において「引用発明特定事項」という。)との一致点及び相違点を認定してなされる。審査官は、独立した二以上の引用発明を組み合わせて請求項に係る発明と対比してはならない。
審査官は、選択肢(注1)中のいずれか一の選択肢のみを、その選択肢に係る発明特定事項と仮定したときの請求項に係る発明と、引用発明とを対比することができる(注2)。
「形式上の選択肢」とは、請求項の記載から一見して選択肢であることがわかる表現形式の記載をいう。
「事実上の選択肢」とは、包括的な表現によって、実質的に有限の数の、より具体的な事項を包含するように意図された記載をいう。
審査官は、請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比し、両者の一致点及び相違点を認定することができる(注)。
請求項に係る発明の下位概念には、発明の詳細な説明又は図面中に請求項に係る発明の実施の形態として記載された事項等がある。この実施の形態とは異なるものも、請求項に係る発明の下位概念である限り、対比の対象とすることができる。
この対比の手法は、例えば、以下のような請求項における新規性の判断に有効である。
(注)4.1.1(注2)を参照。
審査官は、刊行物等に記載又は掲載されている事項と請求項に係る発明の発明特定事項とを対比する際に、本願の出願時の技術常識を参酌し、刊行物等に記載又は掲載されている事項の解釈を行いながら、一致点と相違点とを認定することができる。ただし、この手法による判断結果と、これまでに述べた手法による判断結果とが異なるものであってはならない。
審査官は、請求項に係る発明と、引用発明とを対比し、請求項に係る発明が新規性(「第1節 新規性」参照)及び進歩性(「第2節 進歩性」参照)を有しているか否かを判断する。
一の選択肢のみを、その選択肢に係る発明特定事項と仮定したときの請求項に係る発明と、引用発明との対比の結果、両者に相違点がない場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断する。
また、一の選択肢のみを、その選択肢に係る発明特定事項と仮定したときの請求項に係る発明と、引用発明とを対比し、論理付けを試みた結果、論理付けができた場合は、審査官は、請求項に係る発明が進歩性を有していないと判断する。
審査官は、「第1節 新規性」の2. に基づいて、請求項に係る発明が新規性を有していないとの心証を得た場合は、請求項に係る発明が第29条第1項各号のいずれかに該当し、特許を受けることができない旨の拒絶理由通知をする。
出願人は、新規性を有していない旨の拒絶理由通知に対して、手続補正書を提出して特許請求の範囲について補正をしたり、意見書、実験成績証明書等により反論、釈明をしたりすることができる。
補正や、反論、釈明により、請求項に係る発明が新規性を有していないとの心証を、審査官が得られない状態になった場合は、拒絶理由は解消する。審査官は、心証が変わらない場合は、請求項に係る発明が第29条第1項各号のいずれかに該当し、特許を受けることができない旨の拒絶理由に基づき、拒絶査定をする。
出願人は、進歩性を有していない旨の拒絶理由通知に対して、手続補正書を提出して特許請求の範囲について補正をしたり、意見書、実験成績証明書等により反論、釈明をしたりすることができる。
なお、進歩性が肯定される方向に働く要素(「第2節 進歩性」の3.2参照)に係る事情については、意見書等により明らかとなる場合が多い。そのような場合は、審査官は、その事情も総合的に評価して、論理付けを試みなければならない。
審査官は、新たな証拠を追加的に引用しなければ論理付けができない場合は、拒絶理由通知で示した拒絶理由は維持されないと判断する。ただし、既に示した論理付けに不備はなかったが、その論理付けを補完するために、周知技術又は慣用技術を示す証拠を新たに引用する場合を除く。
(注1)ここでの当業者の知識とは、技術常識等を含む技術水準についての知識をいう。
(注2)ここでの当業者の能力とは、研究開発のための通常の技術的手段を用いる能力又は通常の創作能力をいう。
新規性及び進歩性判断の基準時(特許出願の時)は、下表のように取り扱われる。
出願の種類 | 特許出願の時 |
---|---|
分割出願、変更出願又は実用新案登録に基づく特許出願 | 原出願の出願時(第44条第2項、第46条第6項又は第46条の2第2項) |
国内優先権の主張を伴う出願 | 先の出願の出願時(第41条第2項) |
パリ条約(又はパリ条約の例)による優先権の主張を伴う出願 | 第一国出願の出願日(パリ条約第4条B)(注) |
国際特許出願 | 国際出願日(第184条の3第1項)(注)。ただし、優先権の主張を伴う場合は、上欄のとおり。 |
(注) 例外的に、「出願時」ではなく、「出願日」で新規性及び進歩性が判断される。 |
本節では、以下の(ⅰ)から(ⅴ)までに掲げられた記載を有する請求項に係る発明及び(vi)選択発明について、新規性及び進歩性の審査をする際に、前節までの事項に加え、審査官が更に留意すべき事項を取り扱う。
請求項中に作用、機能、性質又は特性(以下この項(2.)において「機能、特性等」という。)を用いて物を特定しようとする記載がある場合は、審査官は、原則として、その記載を、そのような機能、特性等を有する全ての物を意味していると解釈する。例えば、「熱を遮断する層を備えた壁材」について、審査官は「断熱という作用又は機能を有する層」という「物」を備えた壁材と認定する(注)。ただし、審査官は、機能、特性等を用いて物を特定しようとする記載の意味内容が明細書又は図面において定義又は説明されており、その定義又は説明により、機能、特性等を用いて物を特定しようとする記載が通常の意味内容とは異なる意味内容と認定されるべき場合があることに留意する。
また、審査官は、2.1.1に従って、請求項に係る発明を認定しなければならないことがある点に留意する。
(注) 出願時の技術常識を考慮すると、そのような機能を有する全ての物を意味しているとは解釈されない場合がある。具体的には、請求項に「木製の第一部材と合成樹脂製の第二部材を固定する手段」が記載されている場合が挙げられる。文言上は排除されていないが、出願時の技術常識を考慮すると、この手段に、溶接等のような金属に使用される固定手段が含まれないことは、明らかである。
この場合は、請求項中に機能、特性等を用いて物を特定しようとする記載があったとしても、審査官は、その記載を、その物自体を意味しているものと認定する。その機能、特性等を示す記載はその物を特定するのに役に立っていないからである。
抗癌性が特定の化合物Xの固有の性質であるとすると、「抗癌性を有する」という記載は、物を特定するのに役に立っていない。したがって、化合物Xが抗癌性を有することが知られていたか否かにかかわらず、審査官は、例1の記載が「化合物X」そのものを意味しているものと認定する。
「高周波数信号をカットし、低周波数信号を通過させる」点は、「RC積分回路」が固有に有する機能である。したがって、審査官は、例2の記載が一般的な「RC積分回路」を意味しているものと認定する。
しかし、「・・Hz以上の高周波数信号をカットし、・・Hz以下の低周波数信号を通過させるRC積分回路」という請求項の場合は、一般的な「RC積分回路」が固有に有する機能による特定ではない。この場合には、この請求項の記載は、物を特定するのに役立っており、「一般的なRC積分回路のうち特定の周波数特性を有するもの」を意味しているものとして、請求項に係る発明を認定する。
請求項中に記載された機能、特性等を有する物が公知であるならば、審査官は、請求項中の機能、特性等の記載により特定される物について、新規性を有していないと判断する。例えば、「熱を遮断する層を備えた壁材」について、審査官は、「断熱という作用又は機能を有する層」という「物」を備えた何らかの壁材が公知であれば、「熱を遮断する層を備えた壁材」は新規性を有していないと判断する。ただし、審査官は、2.2.1のように判断すべき場合があることに留意する。
この場合は、その物が公知であるならば、審査官は、その物について、新規性を有していないと判断する。請求項中に記載された機能、特性等は、その物を特定するのに役に立っていないからである。
請求項に係る発明は、「化合物X」そのものを意味しているものと認定される。したがって、化合物Xが公知である場合は、この請求項に係る発明の新規性は否定される。
請求項に係る発明は、一般的な「RC積分回路」を意味しているものと認定される。したがって、一般的な「RC積分回路」が公知であることを理由として、この請求項に係る発明の新規性は否定される。
しかし、「・・Hz以上の高周波数信号をカットし、・・Hz以下の低周波数信号を通過させるRC積分回路」という請求項の場合は、「一般的なRC積分回路のうち特定の周波数特性を有するもの」を意味しているものとして、請求項に係る発明が認定される。よって、この請求項に係る発明の新規性は、一般的なRC積分回路により否定されない。
この場合は、請求項に係る発明の新規性又は進歩性が否定されるとの一応の合理的な疑いを抱いたときに限り、審査官は、新規性又は進歩性が否定される旨の拒絶理由通知をする。ただし、その合理的な疑いについて、拒絶理由通知の中で説明しなければならない。
請求項中に、「~用」といった、物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合は、審査官は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して、その用途限定が請求項に係る発明特定事項としてどのような意味を有するかを把握する。
用途限定が付された物が、その用途に特に適した物を意味する場合は、審査官は、その物を、用途限定が意味する形状、構造、組成等(以下この項(3.)において「構造等」という。)を有する物であると認定する(例1及び例2)。その用途に特に適した物を意味する場合とは、用途限定が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮して、その用途に特に適した構造等を意味すると解釈される場合をいう。
他方、用途限定が付された物が、その用途に特に適した物を意味していない場合は、3.1.2の用途発明に該当する場合を除き、審査官は、その用途限定を、物を特定するための意味を有しているとは認定しない。
「クレーン用」という記載がクレーンに用いるのに特に適した大きさ、強さ等を持つ構造を有するという、「フック」を特定するための意味を有していると解釈される場合がある。このような場合は、審査官は、請求項に係る発明を、このような構造を有する「フック」と認定する。したがって、「~の形状を有するクレーン用フック」は、同様の形状の「釣り用フック(釣り針)」とは構造等が相違する。
「ピアノ線用」という記載がピアノ線に用いるのに特に適した、高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合がある。このような場合は、審査官は、請求項に係る発明を、このような組織を有する「Fe系合金」と認定する。したがって、「組成Aを有するピアノ線用Fe系合金」は、このような組織を有しないFe系合金(例えば、「組成Aを有する歯車用Fe系合金」)とは構造等が相違する。
用途発明とは、(ⅰ)ある物の未知の属性を発見し、(ⅱ)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう。以下に示す用途発明の考え方は、一般に、物の構造又は名称からその物をどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野(例:化学物質を含む組成物の用途の技術分野)において適用される。
この場合は、審査官は、用途限定が請求項に係る発明を特定するための意味を有するものとして、請求項に係る発明を、用途限定の点も含めて認定する。
この組成物と、「特定の4級アンモニウム塩を含有する電着下塗り用組成物」とにおいて、両者の組成物がその用途限定以外の点で相違しないとしても、「電着下塗り用」という用途が、部材への電着塗装を可能にし、上塗り層の付着性をも改善するという属性に基づく場合がある。そのような場合において、審査官は、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)の両方を満たすときには、「船底防汚用」という用途限定も含め、請求項に係る発明を認定する(したがって、両者は異なる発明と認定される。)。この用途限定が、「組成物」を特定するための意味を有するといえるからである。
「成分Aを有効成分とする二日酔い防止用食品組成物」と、引用発明である「成分Aを含有する食品組成物」とにおいて、両者の食品組成物が「二日酔い防止用」という用途限定以外の点で相違しないとしても、審査官は、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)の両方を満たすときには、「二日酔い防止用」という用途限定も含め、請求項に係る発明を認定する(したがって、両者は異なる発明と認定される。)。この用途限定が、「食品組成物」を特定するための意味を有するといえるからである。
請求項に係る発明の認定についてのこの考え方は、食品組成物の下位概念である発酵乳製品やヨーグルトにも同様に適用される。
未知の属性を発見したとしても、その技術分野の出願時の技術常識を考慮し、その物の用途として新たな用途を提供したといえない場合は、請求項に係る発明は、用途発明に該当しない。審査官は、その用途限定が請求項に係る発明を特定するための意味を有しないものとして、請求項に係る発明を認定する。請求項に係る発明と先行技術とが、表現上、用途限定の点で相違する物の発明であっても、その技術分野の出願時の技術常識を考慮して、両者の用途を区別することができない場合も同様である。
「成分Aを有効成分とする肌の保湿用化粧料」は、角質層を軟化させ肌への水分吸収を促進するとの整肌についての属性に基づくものである。他方、「成分Aを有効成分とする肌のシワ防止用化粧料」は、体内物質Xの生成を促進するとの肌の改善についての未知の属性に基づくものである。しかし、両者はともに皮膚に外用するスキンケア化粧料として用いられるものである。そして、保湿効果を有する化粧料は、保湿によって肌のシワ等を改善して肌状態を整えるものであって、肌のシワ防止のためにも使用されることが、この技術分野における技術常識である場合には、両者の用途を区別することができない。したがって、審査官は、「シワ防止用」という用途限定が請求項に係る発明を特定するための意味を有しないものとして、請求項に係る発明を認定する。
記載表現の面から用途発明をみると、用途限定の表現形式をとるもののほか、いわゆる剤形式(例:「・・・を有効成分とするガン治療剤」)をとるもの、使用方法の形式をとるもの等がある。上記(1)及び(2)の取扱いは、このような用途限定の表現形式でない表現形式の用途発明にも適用され得る。ただし、請求項中に用途を意味する用語がある場合(例えば、「~からなる触媒」、「~合金からなる装飾材料」、「~を用いた殺虫方法」等)に限られる。
「~用」といった用途限定が付された化合物(例えば、用途Y用化合物Z) については、3.1.1及び3.1.2に示される考え方が適用されない。その化合物について、審査官は、用途限定のない化合物(例えば、化合物Z)そのものと解釈する。このような用途限定は、一般に、化合物の有用性を示しているにすぎないからである。この考え方は、微生物、動物及び植物にも同様に適用される。
審査官は、「殺虫用の化合物Z」という記載を、用途限定のない「化合物Z」そのものと認定する。明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮すると、「殺虫用の」という記載はその化合物の有用性を示しているにすぎないからである。なお、「化合物Zを主成分とする殺虫剤」という記載であれば、このようには認定しない。
通常、3.1.2の用途発明の考え方が適用されることはない。通常、その物と用途とが一体であるためである。
この場合において、請求項に係る発明の発明特定事項と、引用発明特定事項とが、用途限定以外の点で相違しない場合であっても、用途限定が意味する構造等が相違するときは、審査官は両者を異なる発明と判断する。したがって、審査官は、請求項に係る発明は新規性を有していると判断する。
請求項の記載がクレーンに用いるのに特に適した大きさ、強さ等を持つ構造を有するという、「フック」を特定するための意味を有していると解釈される場合は、同様の形状の「釣り用フック(釣り針)」が公知であっても、請求項に係る発明は新規性を有している。
この場合において、請求項に係る発明の発明特定事項と、引用発明特定事項とが、用途限定以外の点で相違しない場合は、審査官は、両者を異なる発明であると判断しない。したがって、審査官は、請求項に係る発明は新規性を有していないと判断する。
この場合は、たとえその物自体が公知であったとしても、請求項に係る発明は、その公知の物に対し新規性を有している(注)。
(注) 新規性を有している用途発明であっても、既知の属性、物の構造等に基づいて、当業者がその用途を容易に想到することができたといえる場合は、その用途発明の進歩性は否定される。
サブコンビネーションとは、二以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明、二以上の工程を組み合わせてなる製造方法の発明等(以上をコンビネーションという。)に対し、組み合わされる各装置の発明、各工程の発明等をいう。
審査官は、請求項に係る発明の認定の際に、請求項中に記載された「他のサブコンビネーション」に関する事項についても必ず検討対象とし、記載がないものとして扱ってはならない。その上で、その事項が形状、構造、構成要素、組成、作用、機能、性質、特性、方法(行為又は動作)、用途等(以下この項(4.)において「構造、機能等」という。)の観点からサブコンビネーションの発明の特定にどのような意味を有するのかを把握して、請求項に係るサブコンビネーションの発明を認定する。その把握の際には、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮する。
この場合は、審査官は、請求項に係るサブコンビネーションの発明を、そのような構造、機能等を有するものと認定する。
出願時の技術常識を考慮すると、暗号化方式Aに対応した復号手段を用いなければ、クライアント装置において、検索結果を表示することはできない。したがって、検索サーバが返信情報を暗号化方式Aで暗号化した上で送信することは、クライアント装置の復号手段が暗号化方式Aに対応した復号処理を行うという点で、クライアント装置を特定している。よって、サブコンビネーションの発明であるクライアント装置について、そのような特定がなされているものとして請求項に係る発明を認定する。
充電器の給電端子と受光手段との位置関係により、携帯電話機の充電端子とは反対側の側面にランプが設けられるという位置関係が特定されている。よって、サブコンビネーションの発明である携帯電話機について、そのような特定がなされているものとして請求項に係る発明を認定する。
この場合は、審査官は、「他のサブコンビネーション」に関する事項は、請求項に係るサブコンビネーションの発明を特定するための意味を有しないものとして発明を認定する。
検索サーバが検索ワードの検索頻度に基づいて検索手法を変更することは、検索サーバがどのようなものであるのかについて特定する一方で、クライアント装置の構造、機能等を何ら特定していない。したがって、検索サーバが検索ワードの検索頻度に基づいて検索手法を変更する点は、サブコンビネーションの発明であるクライアント装置を特定するための意味を有しないものとして、請求項に係る発明を認定する。
画像形成装置が検出した湿度に応じてインクを吐出する圧力を制御することは、画像形成装置がどのようなものであるかについて特定する一方で、液体インク収納容器の構造、機能等を何ら特定していない。したがって、画像形成装置が湿度センサを備え、その湿度センサにより検出された湿度に応じてインクを吐出する圧力を制御する点は、サブコンビネーションの発明である液体インク収容容器を特定するための意味を有しないものとして、請求項に係る発明を認定する。
キーホルダーに防犯ブザーが取り付けられていることは、キーホルダーがどのようなものであるのかについて特定する一方で、キーの構造、機能等を何ら特定していない。したがって、キーホルダーに防犯ブザーが取り付けられている点は、サブコンビネーションの発明であるキーを特定するための意味を有しないものとして、請求項に係る発明を認定する。
ただし、審査官は、サブコンビネーションと、「他のサブコンビネーション」とが異なる物又は方法であることのみに着目し、「他のサブコンビネーション」に関する事項がサブコンビネーションの発明を特定するための意味を有しないものと誤解しないように留意しなければならない。
サブコンビネーションの発明と、引用発明との間に相違点があるときには、審査官は、このサブコンビネーションの発明が新規性を有しているものと判断する。ただし、その相違点がサブコンビネーションの発明の作用、機能、性質、特性、方法(行為又は動作)、用途等に係るものである場合の新規性の判断については、2.、3.及び5.を参照。
検索ワードを検索サーバに送信し、返信情報を受信して検索結果を表示手段に表示するクライアント装置において、暗号化方式Aに対応する復号手段を備えたものが公知でないならば、請求項に係る発明は新規性を有している。
充電端子と充電完了を示すランプとを備えた携帯電話機において、充電端子のある側面とは反対側の側面にランプが設けられているものが公知でないならば、請求項に係る発明は新規性を有している。
この場合は、「他のサブコンビネーション」に関する事項と、引用発明特定事項とに記載上、表現上の相違が生じていても、他に相違点がなければ、サブコンビネーションの発明と引用発明との間で、構造、機能等に差異は生じない。
したがって、審査官は、このサブコンビネーションの発明が新規性を有していないと判断する。
検索ワードを検索サーバに送信し、返信情報を受信して検索結果を表示手段に表示することができるクライアント装置が公知であれば、請求項に係る発明は新規性を有していない。検索サーバが検索ワードの検索頻度に基づいて検索手法を変更する点において、その公知のクライアント装置と、請求項に係る発明のクライアント装置とは、記載上、表現上の相違があるものの、構造、機能等に差異はないからである。
画像形成装置に装着可能な液体インク収納装置が公知であれば、請求項に係る発明は新規性を有していない。画像形成装置が湿度センサを備え、その湿度センサにより検出された湿度に応じてインクを吐出する圧力を制御する点において、その公知の液体インク収納装置と、請求項に係る発明の液体インク収納装置とは、記載上、表現上の相違があるものの、構造、機能等に差異はないからである。
キーホルダーのホルダーリングに吊り下げることができるように穴が設けられたキーが公知であれば、請求項に係る発明は新規性を有していない。操作することで警報音を出力する防犯ブザーがキーホルダーに取り付けられている点において、その公知のキーと、請求項に係る発明のキーとは、記載上、表現上の相違があるものの、構造、機能等に差異はないからである。
この場合は、請求項に係る発明の新規性又は進歩性が否定されるとの一応の合理的な疑いを抱いたときに限り、審査官は、新規性又は進歩性が否定される旨の拒絶理由通知をすることができる。ただし、その合理的な疑いについて、拒絶理由通知の中で説明しなければならない。
請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合は、審査官は、その記載を、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解釈する。したがって、出願人自らの意思で、「専らAの方法により製造されたZ」のように、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、審査官は、生産物自体(Z)を意味しているものと解釈し、請求項に係る発明を認定する。
この場合は、請求項中に記載された製造方法が新規であるか否かにかかわらず、その製造方法に係る発明特定事項によっては、請求項に係る発明は、新規性を有しない。
製造方法Pにより製造されるタンパク質が製造方法Qにより製造される公知の特定のタンパク質Zと同一の物である場合には、製造方法Pが新規であるか否かにかかわらず、請求項に係る発明は新規性を有しない。
この場合は、請求項に係る発明の新規性又は進歩性が否定されるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合に限り、審査官は、新規性又は進歩性が否定される旨の拒絶理由通知をする。ただし、その合理的な疑いについて、拒絶理由通知の中で説明しなければならない。
請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合も、通常の場合と同様に請求項に係る発明を認定する(「第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」の2.参照)。
請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において、主引用発明との相違点がその数値限定のみにあるときは、通常、その請求項に係る発明は進歩性を有していない。実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮といえるからである。
しかし、請求項に係る発明の引用発明と比較した効果が以下の(ⅰ)から(ⅲ)までの全てを満たす場合は、審査官は、そのような数値限定の発明が進歩性を有していると判断する。
なお、有利な効果が顕著性を有しているといえるためには、数値範囲内の全ての部分で顕著性があるといえなければならない。
また、請求項に係る発明と主引用発明との相違が数値限定の有無のみで、課題が共通する場合は、いわゆる数値限定の臨界的意義として、有利な効果の顕著性が認められるためには、その数値限定の内と外のそれぞれの効果について、量的に顕著な差異がなければならない。他方、両者の相違が数値限定の有無のみで、課題が異なり、有利な効果が異質である場合には、数値限定に臨界的意義があることは求められない。
選択発明とは、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明であって、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)に該当するものをいう。
したがって、刊行物等に記載又は掲載された発明とはいえないものは、選択発明になり得る。
選択発明についても、通常の場合と同様に請求項に係る発明を認定する(「第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」の2.参照)。
(注) 「選択肢」については、「第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」の4.1.1(注1)を参照。
請求項に係る発明の引用発明と比較した効果が以下の(ⅰ)から(ⅲ)までの全てを満たす場合は、審査官は、その選択発明が進歩性を有しているものと判断する。
しかし、請求項に係る発明は、殺虫性に関し具体的に公知でない、ある特定の化合物について、人に対する毒性がその一般式中の他の化合物に比べて顕著に少ないことを見いだし、これを殺虫剤の有効成分として選択したものである。そして、これを予測可能とする証拠がない。
この場合は、請求項に係る発明は選択発明として、進歩性を有している。
特許法第29条は、特許出願より前に同条第1項各号に該当するに至った発明(以下この節において「公開された発明」という。)については、原則として、特許を受けることができないことを規定している。しかし、自らの発明を公開した後に、その発明について特許出願をしても一切特許を受けることができないとすると、発明者にとって酷な場合がある。また、そのように一律に特許を受けることができないとすることは、産業の発達への寄与という特許法の趣旨にもそぐわない。したがって、特許法では、特定の条件の下で発明が公開された後にその発明の特許を受ける権利を有する者(以下この節において「特許を受ける権利を有する者」を「権利者」という。)が特許出願した場合には、先の公開によってその発明の新規性が喪失しないものとして取り扱う規定、いわゆる、発明の新規性喪失の例外規定(第30条)が設けられている。
発明の新規性喪失の例外規定の適用対象となる「公開された発明」は、以下の発明であって、発明が公開されてから出願されるまでの期間が1年以内のものである。
また、第2項の規定の適用を受けるためには、「公開された発明」が第2項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(以下この節において「証明する書面」という。)が、特許出願の日から30日以内(注)に提出されていなければならない(第3項)。
(注) 「証明する書面」を提出する者がその責めに帰すことができない理由により特許出願の日から30日以内に「証明する書面」を提出することができない場合は、その理由がなくなった日から14日(出願人が在外者である場合は2月)以内で、特許出願の日から30日の期間の経過後6月以内にその「証明する書面」を特許庁長官に提出することができる(第4項)。
第1項又は第2項は、権利者の意に反して、又は権利者の行為に起因して発明が公開され、その後、その者が特許出願をした場合について規定している。しかし、その発明について、発明が公開されてから1年以内に、特許を受ける権利を承継した者が特許出願をした場合も、第1項又は第2項の規定が適用される。
「公開された発明」について発明の新規性喪失の例外規定が適用されると、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性の要件の判断において、その「公開された発明」は、引用発明とはならない。
審査官は、第2項の規定の適用の判断に当たっては、第3項又は第4項の規定に従って提出された「証明する書面」(以下この節において、単に「証明する書面」という。)によって、以下の二つの要件を満たすことの証明がなされたか否かを判断する。
(注) 平成29年12月9日以降に公開された発明について特許出願する際に適用される。
出願人が第2項の規定の適用を受けることができるものであることを証明しようとした「公開された発明」は、同項の規定が適用できない場合には、本願発明の新規性及び進歩性を否定する証拠となり得る。したがって、審査官は、審査に着手する際にこの規定の適用の可否を判断する。
審査官は、原則として、要件1及び2を満たすことについて証明されたものと判断し、第2項の規定の適用を認める。
ただし、「公開された発明」が第2項の規定の適用を受けることができる発明であることに疑義を抱かせる証拠を発見した場合には、審査官は、同項の規定の適用を認めない。
「証明する書面」の書式
発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための証明書
(②の者の行為に起因して、④の者が公開をしたこと等を記載)
以下この節において、上記「1. 公開の事実」及び「2. 特許を受ける権利の承継等の事実」の欄の内容と同程度の事実を、それぞれ「公開の事実」及び「特許を受ける権利の承継等の事実」という。
審査官は、その提出された「証明する書面」によって要件1及び2を満たすことについて証明されたか否かを判断する。例えば、2.3.1に示した書式に従った「証明する書面」と同程度の内容が記載されていれば、審査官は、原則として、要件1及び2を満たすことについて証明されたと判断し、第2項の規定の適用を認める。
ただし、2.3.1に示した書式に従った「証明する書面」と同程度の内容が記載された「証明する書面」が提出されていても、「公開された発明」が第2項の規定の適用を受けることができる発明であることに疑義を抱かせる証拠を発見した場合には、審査官は、同項の規定の適用を認めない。
「証明する書面」において「公開の事実」が明示的に記載された「公開された発明」について、審査官が、第2項の規定の適用を認めずに拒絶理由通知をした後、出願人から意見書、上申書等により、同項の規定の適用は認められるべきであるとの主張がなされる場合がある。この場合には、審査官は、「証明する書面」に記載された事項と併せて出願人の主張も考慮し、要件1及び2を満たすことについて証明されたか否かを再び判断する。
審査官は、出願人から提出された意見書、上申書等によって、以下の二つの要件を満たすことが合理的に説明されているか否かを判断する。
(注)平成29年12月9日以降に公開された発明について特許出願する際に適用される。
「(要件2) 権利者の意に反して発明が公開されたこと」が「合理的に説明されている」とは、例えば、以下のような場合について具体的な状況が説明されていることを意味する。
審査官は、出願人が第30条第1項又は第2項の規定の適用を受けようとする発明について、その適用を認めない場合は、適用を認めない理由を拒絶理由通知又は拒絶査定において明示する。
権利者が発明を複数の異なる雑誌に掲載した場合等、権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在する場合において、第2項の規定の適用を受けるためには、原則として、それぞれの「公開された発明」について「証明する書面」が提出されていなければならない。しかし、「公開された発明」が以下の条件(ⅰ)から(ⅲ)までの全てを満たすことが出願人によって証明された場合は、その「証明する書面」が提出されていなくても第2項の規定の適用を受けることができる。
審査官は、「証明する書面」において「公開の事実」が明示的に記載された「公開された発明」以外は、拒絶理由通知において引用発明とすることができる。審査官は、意見書、上申書等における出願人の主張を考慮し、上記の条件(ⅰ)から(ⅲ)までの全てを満たすことが証明されたと認められた場合は、その引用発明について第2項の規定の適用を認める。
例えば、先に公開された「第2項の規定の適用が認められた発明」と、その発明の公開以降に権利者の行為に起因して公開された発明とが、以下のような関係にある場合は、先に公開されたその発明の公開以降に公開された発明について「証明する書面」が提出されていなくても、第2項の規定の適用を認める。
(注) 学会発表内容の概略を記載した講演要旨集の発行によって公開された発明と、その後の、学会発表によって公開された発明という関係の場合には、上記条件(ⅰ)の「同一又は同一とみなすことができる」に該当しない場合が多い。したがって、講演要旨集の発行によって公開された発明について第2項の規定の適用が認められても、通常、その後の学会発表によって公開された発明についても特許出願の日から30日以内に「証明する書面」を提出していなければ、第2項の規定の適用は認められない。
「(要件1) 発明が公開された日から1年以内に特許出願をしたこと」を満たしているか否かの判断に当たっては、各種出願の「特許出願をした」日は、以下のように取り扱われる。
国内優先権の主張を伴う特許出願に係る発明が、先の出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下この節において「当初明細書等」という。)に記載されている場合は、優先日(国内優先権の主張の基礎となった先の出願の出願日)である。
ただし、先の出願において「証明する書面」が提出されていない場合は、国内優先権の主張を伴う特許出願出願日である。
また、国内優先権の主張を伴う特許出願に係る発明が、先の出願の当初明細書等に記載されていない場合も、国内優先権の主張を伴う特許出願の出願日である。
パリ条約による優先権の主張を伴う特許出願の場合は、我が国への出願日である。
国内優先権の主張を伴う国際特許出願の場合であって、その国際特許出願に係る発明が、先の出願の当初明細書等に記載されている場合は、優先日である。
ただし、先の出願において「証明する書面」が提出されていない場合は、国内優先権の主張を伴う国際特許出願の国際出願日である。
また、国内優先権の主張を伴う国際特許出願に係る発明が、先の出願の当初明細書等に記載されていない場合も、国際出願日である。
パリ条約による優先権の主張を伴う国際特許出願の場合は、国際出願日である。
そして、パリ条約による優先権の主張を伴わない国際特許出願の場合は、国際出願日である。
分割出願、変更出願及び実用新案登録に基づく特許出願の場合は、原出願の出願日である。
ただし、原出願において「証明する書面」が提出されていない場合は、現実の出願日である。