第Ⅵ部 特殊な出願  第3章 実用新案登録に基づく特許出願

第3章 実用新案登録に基づく特許出願(特許法第46条の2)

1. 概要

特許法第46条の2は、実用新案権者が一定の条件の下で実用新案権の設定登録後に実用新案登録に基づいて特許出願をすることができる旨を規定している。また、同条は、実用新案登録に基づく特許出願が適法になされた場合は、その特許出願は、その実用新案登録に係る実用新案登録出願の時にしたものとみなされる旨を規定している。

実用新案登録出願は、特許出願へ出願の変更をすることが認められている。しかし、実用新案登録出願は実体審査を経ることなく登録されるので、実際に出願の変更をすることができる期間は非常に短い。そのような状況においては、技術動向の変化等により特許出願へ出願の変更を行いたいときであっても、出願人は、対応することが困難となる。実用新案登録に基づく特許出願制度は、このような観点から設けられたものである。

2. 実用新案登録に基づく特許出願の要件

実用新案登録に基づく特許出願が適法になされたと認められるためには、実用新案登録に基づく特許出願の要件が満たされる必要がある。実用新案登録に基づく特許出願の要件は、形式的要件(2.1参照)と実体的要件(2.2参照)とに分けられる。実用新案登録に基づく特許出願の要件が満たされると、実用新案登録に基づく特許出願の効果(2.3参照)が認められる。

2.1 実用新案登録に基づく特許出願の形式的要件

2.1.1 実用新案登録に基づく特許出願をすることができる者

実用新案登録に基づく特許出願をすることができる者は、その実用新案登録に係る実用新案権者である(第46条の2第1項)。すなわち、実用新案権者と実用新案登録に基づく特許出願の出願人とは、実用新案登録に基づく特許出願の出願時において一致していなければならない。

なお、実用新案権者は、専用実施権者、質権者又は通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得ることが必要である(第46条の2第4項)。

2.1.2 実用新案登録に基づく特許出願をすることができる時期

実用新案登録に基づく特許出願は、以下の(i)から(iv)までの場合を除き、することができる。

(注)この期間には、救済規定がある(第46条の2第3項)。

2.1.3 実用新案権の放棄

実用新案登録に基づく特許出願をするときは、実用新案権者は、その実用新案権を放棄しなければならない(第46条の2第1項及び特許法施行規則第27条の6)。

2.2 実用新案登録に基づく特許出願の実体的要件

実用新案登録に基づく特許出願がその実用新案登録に係る実用新案登録出願の時にしたものとみなされるという実用新案登録に基づく特許出願の効果を考慮すると、以下の(要件1)に加えて、以下の(要件2)も満たされる必要がある。

(要件1)において、実用新案登録後に明細書等の訂正があったときは、「訂正後の」明細書等が、実用新案登録に係る実用新案登録出願の登録時の明細書等となる(実用新案法第14条の2第11項)。

2.3 実用新案登録に基づく特許出願の効果

実用新案登録に基づく特許出願の要件が満たされている場合は、実用新案登録に基づく特許出願は、その実用新案登録に係る実用新案登録出願の時にしたものとみなされる。他方、実用新案登録に基づく特許出願の要件のうち実体的要件が満たされていない場合は、実用新案登録に基づく特許出願は、その実用新案登録に係る実用新案登録出願の時にしたものとはみなされずに、現実の出願時にしたものとして扱われる。なお、形式的要件が満たされていない場合は、実用新案登録に基づく特許出願は、出願自体が却下される。

3. 実用新案登録に基づく特許出願の要件についての判断とその判断に係る審査の進め方

審査官は、「第1章第1節 特許出願の分割の要件」の3.及び4.に準じて審査を進める。

4. 実用新案登録に基づく特許出願の審査についての留意事項

実用新案登録に基づく特許出願の請求項に係る発明と、その実用新案登録の請求項に係る考案とが同一であっても、第39条第4項の規定は実用新案登録に基づく特許出願に適用されないことに、審査官は留意する(同項括弧書き)。