第Ⅵ部 特殊な出願 第1章 特許出願の分割
特許法第44条は、特許出願の分割に関する規定である。同条は、出願人が二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とすることができる旨を規定している。また、同条は、特許出願の分割が適法になされた場合には、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなされる旨を規定している。
特許出願の分割制度は、公開の代償として一定期間独占権を付与するという特許制度の趣旨を踏まえ、特許出願に含まれる、発明の単一性の要件を満たさない発明等にもできるだけ保護の道を開くべきであることから、設けられたものである。
この章では、特許出願の分割が適法になされたか否かにかかわらず、「もとの特許出願」及び「新たな特許出願」を、それぞれ「原出願」及び「分割出願」という。
特許出願の分割が適法になされたと認められるためには、特許出願の分割の要件(以下この章において「分割要件」という。)が満たされる必要がある。分割要件は、形式的要件(2.1参照)と実体的要件(2.2参照)とに分けられる。分割要件が満たされると、特許出願の分割の効果(2.3参照)が認められる。
特許出願の分割をすることができる者は、その特許出願の出願人である(第44条第1項)。すなわち、原出願の出願人と分割出願の出願人とは、特許出願の分割時において一致していなければならない。
特許出願の分割は、以下の(i)から(iii)までのいずれかの時期にすることができる。
特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものであるから、以下の(要件1)及び(要件3)が満たされる必要がある。また、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという特許出願の分割の効果を考慮すると、以下の(要件2)も満たされる必要がある。
ただし、原出願の明細書等について補正をすることができる時期(注)に特許出願の分割がなされた場合は、(要件2)が満たされれば、(要件3)も満たされることとする。これは、原出願の分割直前の明細書等に記載されていない事項であっても、原出願の出願当初の明細書等に記載されていた事項については、補正をすれば、原出願の明細書等に記載した上で、特許出願の分割をすることができるからである。
分割要件が満たされている場合は、分割出願は、原出願の時にしたものとみなされる。他方、分割要件のうち実体的要件が満たされていない場合は、分割出願は、原出願の時にしたものとはみなされずに、現実の出願時にしたものとして取り扱われる。なお、形式的要件が満たされていない場合は、分割出願は、出願自体が却下される。
(要件1)は、通常、満たされている。
通常、明細書等からは多面的、段階的に様々な発明が把握されるから、明細書等には二以上の発明が記載されているといえる。原出願の明細書等に記載された二以上の発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされることとは、原出願の明細書等から把握されるあらゆる発明が分割出願の特許請求の範囲に記載されることである。しかし、そのようなことは通常考えられない。よって、(要件1)が満たされていないことは、通常考えられない。
したがって、単に分割出願の特許請求の範囲の記載が原出願の特許請求の範囲の記載と同一であることのみでは、(要件1)が満たされていないことにはならない。なお、分割出願の請求項に係る発明と分割後の原出願の請求項に係る発明が同一である場合には、6.2を参照。
審査官は、分割出願の明細書等が「原出願の出願当初の明細書等」に対する補正後の明細書等であると仮定した場合に、その補正が「原出願の出願当初の明細書等」との関係において、新規事項を追加する補正であるか否かで判断する(注)。
審査官は、分割出願の明細書等が「原出願の分割直前の明細書等」に対する補正後の明細書等であると仮定した場合に、その補正が「原出願の分割直前の明細書等」との関係において、新規事項を追加する補正であるか否かで判断する(注)。
審査官は、実体的要件が満たされていないと判断した場合は、実体的要件が満たされていない旨及びその理由を拒絶理由通知、拒絶査定等に具体的に明記する。
なお、出願人から、これらについて説明した上申書が提出されている場合には、審査官は、その内容を精査した上で、説明書類の提出を求めるか否かを検討する。
出願人は、特許出願(親出願)を原出願として分割出願(子出願)をし、更に子出願を原出願として分割出願(孫出願)をすることができる。
この場合は、審査官は、以下の(i)から(iii)までの全ての条件を満たすときに、孫出願を親出願の時にしたものとみなして審査をする。
原出願について拒絶査定不服審判が請求された日と同日に特許出願の分割がなされた場合には、審査官は、特許出願の分割が拒絶査定不服審判の請求と同時(補正をすることができる時期)になされたものとして、特許出願の分割の実体的要件を判断する(2.2参照)。ただし、当該特許出願の分割がなされた時が、拒絶査定不服審判が請求された時と同時でないことが明らかである場合は、この限りでない。
審査官は、特許出願及びその特許出願に基づく分割出願群(注)のうちの一の出願(例えば、子出願)について審査する際に、当該特許出願及び当該分割出願群のうちの他の出願(例えば、親出願)に係る審査、審判等の内容を確認する。
分割出願が適法であり、分割出願の請求項に係る発明と分割後の原出願の請求項に係る発明とが同一である場合には、第39条第2項の規定が適用される。
審査官は、第39条第2項の規定の適用を、「第III部第4章 先願」に従って行う。
特許法第50条の2は、分割出願等の審査における審査官の通知について規定したものである。同条は、審査官が特許出願について拒絶理由を通知しようとする場合において、その拒絶理由が原出願等についての拒絶理由と同一であるときに、その旨を併せて通知することを規定している。
第50条の2(及び第17条の2第5項)の規定の趣旨は、出願人に対し原出願等の審査において通知された拒絶理由を十分に精査することを促すことにより、原出願等において既に拒絶理由通知がされている発明について、その拒絶理由を解消しないまま出願を分割するといった行為を抑止することにある。
特許出願について、拒絶理由通知と併せて第50条の2の規定に基づく通知(以下この節において「第50条の2の通知」という。)がなされた場合において、明細書等について補正をするときは、最後の拒絶理由通知後に補正をする場合と同様に、その補正は、第17条の2第3項から第6項までに規定された要件を満たす必要がある。これらの要件を満たしていない補正は、却下の対象となる。
なお、以下の(i)、(ii)等の場合には、審査官は、第50条の2の規定を必要以上に形式的に運用することがないようにする。
審査官は、拒絶理由を通知しようとする特許出願(以下この節において「本願」という。)に対して、他の特許出願に通知された拒絶理由に基づいて、第50条の2の通知をするか否かを、以下の(要件1)から(要件3)までが全て満たされているか否かで判断する。
第44条第2項の規定が適用されるためには、本願及び他の特許出願の少なくともいずれかが分割出願である必要がある。したがって、審査官は、本願と他の特許出願が以下の(i)から(iii)までのいずれかの関係を満たすか否かを判断する。
さらに、第44条第2項の規定が適用されるためには、特許出願の分割の実体的要件が満たされている必要がある。したがって、審査官は、本願及び他の特許出願のうち分割出願として出願されたものが特許出願の分割の実体的要件を満たすことで、本願と他の特許出願とが同時にされたこととなっているか否かについても確認する(注1)。
本願の拒絶理由が、他の特許出願の拒絶理由通知(注1)に係る拒絶理由と同一であるとは、本願と他の特許出願の拒絶理由の根拠となる条文が同一であって、具体的な内容が実質的に同一であることをいう(注2)。
具体的には、審査官は、(要件2)が満たされているか否かを、次のように判断する。本願の明細書等が他の特許出願の拒絶理由通知に対する補正後の明細書等であると仮定した場合に、本願の明細書等が他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶理由を解消したか否かで判断する。審査官は、拒絶理由が解消されていないと判断した場合は、(要件2)が満たされていると判断する。
補正の却下の決定、拒絶査定等は、「拒絶理由通知」ではない。そのため、本願の拒絶理由が、他の特許出願の補正の却下の決定、拒絶査定等のみに記載されている内容と同一であっても、審査官は、第50条の2の通知をしてはならない。
審査官は、(要件3)が満たされているか否かを、当該他の特許出願の拒絶理由通知が以下の(i)又は(ii)に該当するか否かで判断する。
これは、本願の出願人と他の特許出願の出願人とが異なるか否かにかかわらない。出願人が異なる場合は、他の特許出願の拒絶理由通知が本願の出願人に発送されることはないが、他の特許出願が出願公開されていれば、本願の出願人は他の特許出願の拒絶理由通知を閲覧することができるからである。
以下の(i)又は(ii)の場合には、他の特許出願の拒絶理由通知は、本願の出願審査の請求前に本願の出願人が知り得る状態になかったものとする。ただし、他の特許出願の拒絶理由通知が到達した時又はその拒絶理由通知が閲覧可能となった時が、本願の出願審査の請求がされた時より前であることが明らかな場合は、この限りでない。
審査官は、本願が分割出願又は分割出願の原出願である場合に、第50条の2の通知をするか否かの判断をする。上申書において、本願の明細書等が他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶理由を解消している旨の説明がなされている場合には、審査官は、その内容を参酌することとする。
審査官は、2.に照らして、(要件1)から(要件3)までの全てを満たしていると判断した場合には、本願について拒絶理由通知と併せて第50条の2の通知をする。
他方、上記(要件1)から(要件3)までの一つでも満たしていない場合には、本願について第50条の2の通知を行わない。
1.に示したとおり、以下の(i)、(ii)等の場合には、審査官は、第50条の2の規定を必要以上に形式的に運用することがないようにする。
審査官は、第50条の2の通知をする際は、その通知において、拒絶理由が同一であると判断した他の特許出願についての拒絶理由通知に係る拒絶理由を特定できる情報を記載する。
審査官は、第50条の2の通知において他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶理由を特定する情報を記載することによって、本願の拒絶理由通知において拒絶理由の具体的内容を省略してはならない。本願が分割出願等であったとしても、原出願等とは別個の出願手続であり、他の特許出願の拒絶理由通知を参酌しなければ本願の拒絶理由通知の内容を理解できないような記載とすることは、不適切であるからである。
審査官は、第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知が「最初の拒絶理由通知」であるか「最後の拒絶理由通知」であるかに応じて、以下のとおり審査を進める。
なお、第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知の応答時に補正がされた場合の審査の手順を、後掲の図に示す。
第50条の2の通知を伴う「最初の拒絶理由通知」に対して補正がされたときは、審査官は、第50条の2の通知をすることが適当であったか否かを、意見書等における出願人の主張を勘案して再検討する(注)。
審査官は、第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知に対してされた補正が第17条の2第3項から第6項までのいずれかの要件に違反していないか否かについて検討する。審査官は、その補正がこれらのいずれかの要件を満たしていないと判断した場合には、補正の却下の決定をする。補正がこれらの要件を満たしているか否かの具体的運用については、「第IV部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」を参照。
第50条の2の通知をした時点で第50条の2の通知をすることが適当であった場合には、その後の補正により本願が分割の実体的要件を満たさなくなり、本願と他の特許出願とが同時にされたこととはならなくなったとしても、その補正は、第17条の2第3項から第6項までの要件を満たす必要がある。
本願に対して第50条の2の通知をした後に、他の特許出願が補正され、他の特許出願が分割の実体的要件を満たさなくなった結果、本願と他の特許出願とが同時にされたこととはならなくなった場合も、同様である。
第50条の2の通知をすることが適当であった場合の具体的な審査については、審査官は、「第I部第2章第6節 補正の却下の決定」の3.から5.までに従う。
その際、審査官は、「最後の拒絶理由通知」を「第50条の2の通知を伴う最初の拒絶理由通知」と読み替える。
なお、「第I部第2章第6節 補正の却下の決定」の 4.(3)又は5.(3)に従って改めて拒絶理由通知をする場合には、審査官は、2.及び3.に照らして、第50条の2の通知を併せて通知するか否かを検討する。
この場合は、審査官は、補正の却下の決定をすることなく、補正を受け入れる。
そして、補正後の出願に対し、先に通知した拒絶理由が解消されていない場合であっても、審査官は、直ちに拒絶査定をすることなく、再度「最初の拒絶理由通知」をする。
また、補正によって通知することが必要となった拒絶理由のみを通知する場合であっても、審査官は、「最後の拒絶理由通知」とせずに、再度「最初の拒絶理由通知」とする。さらに、他の出願の拒絶理由通知に係る拒絶理由と同一の拒絶理由を通知する場合であっても、審査官は、第50条の2の通知を行わない。
他の特許出願の拒絶理由と同一ではない等、第50条の2の通知をすべきでなかったことを出願人が主張し、それを前提に補正をしていると認められるものについては、審査官は、第50条の2の通知を行わなかったものとして取り扱う。
すなわち、補正後の出願に対し、先に通知した拒絶理由が解消されていない場合には、審査官は、拒絶査定をする。
また、その補正によって通知することが必要となった拒絶理由のみを通知する場合には、「最後の拒絶理由通知」とすることができる。さらに、他の出願の拒絶理由通知に係る拒絶理由と同一の拒絶理由を通知する場合には、審査官は、併せて第50条の2の通知をする。
第50条の2の通知を伴う「最後の拒絶理由通知」に対して補正がされたときは、審査官は、第50条の2の通知をすること及び「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であったか否かを、意見書等における出願人の主張を勘案して再検討する(4.1(注)参照)。
「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であったか否かの判断については、審査官は、「第I部第2章第3節 拒絶理由通知」の3.2.1に基づいて行う。
審査官は、第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知に対してされた補正が第17条の2第3項から第6項までいずれかの要件に違反していないか否かについて検討する。審査官は、その補正がこれらのいずれかの要件を満たしていないと判断した場合には、補正の却下の決定をする。補正がこれらの要件を満たしているか否かの具体的運用については、「第IV部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」を参照。
「最後の拒絶理由通知」とすることが不適当であったものの、第50条の2の通知をした時点で第50条の2の通知をすることが適当であった場合には、その後の補正により本願が分割の実体的要件を満たさなくなり、本願と他の特許出願とが同時にされたこととはならなくなったとしても、その補正は、第17条の2第3項から第6項までの要件を満たす必要がある。
本願に対して第50条の2の通知をした後に、他の特許出願が補正され、他の特許出願が分割の実体的要件を満たさなくなった結果、本願と他の特許出願とが同時にされたこととはならなくなった場合も、同様である。
第50条の2の通知をすること及び「最後の拒絶理由通知」とすることの少なくともいずれか一方が適当であった場合の具体的な審査については、審査官は、「第I部第2章第6節 補正の却下の決定」の3.から5.までに従う。
その際、審査官は、「最後の拒絶理由通知」を「第50条の2の通知を伴う最後の拒絶理由通知」と読み替える。
なお、「第I部第2章第6節 補正の却下の決定」の 4.(3)又は5.(3)に従って改めて拒絶理由通知をする場合には、審査官は、「最後の拒絶理由通知」とするか否かを検討するとともに、2.及び3.に照らして、第50条の2の通知を併せて通知するか否かについても検討する。
この場合は、審査官は、補正の却下の決定をすることなく、補正を受け入れる。
そして、補正後の出願に対し、先に通知した拒絶理由が解消されていない場合であっても、審査官は、直ちに拒絶査定をすることなく、再度「最初の拒絶理由通知」をする。
また、補正によって通知することが必要となった拒絶理由のみを通知する場合であっても、審査官は、「最後の拒絶理由通知」とせずに、再度「最初の拒絶理由通知」とする。さらに、他の出願の拒絶理由通知に係る拒絶理由と同一の拒絶理由を通知する場合であっても、審査官は、第50条の2の通知を行わない。
他の特許出願の拒絶理由と同一でない等、第50条の2の通知をすべきでなかったこと及び「最初の拒絶理由通知」とすべきであったことの両方を出願人が主張し、それを前提に補正をしていると認められるものについては、審査官は、第50条の2の通知をしておらず、かつ、「最初の拒絶理由通知」をしたものとして取り扱う。
すなわち、補正後の出願に対し、先に通知した拒絶理由が解消されていない場合には、審査官は、拒絶査定をする。
また、その補正によって通知することが必要となった拒絶理由のみを通知する場合には、「最後の拒絶理由通知」とすることができる。さらに、他の出願の拒絶理由通知に係る拒絶理由と同一の拒絶理由を通知する場合には、審査官は、併せて第50条の2の通知をする。