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「冷却ジェルシート」小林製薬(株)

「あったらいいなをカタチにする」をキャッチフレーズとして掲げる小林製薬は、世の中にはないニーズを発見し、新たな商品と市場を創出してきました。

その一例である冷却ジェルシートが、生まれた経緯をご紹介します。

(写真)冷却ジェルシート
冷却ジェルシート

きっかけは、ある社員の困りごと
【きっかけや認識した課題】

冷却ジェルシート開発の出発点は、ある社員のこんな発言でした。「発熱時、額に乗せた濡れタオルが、寝ている間にずれ落ちて困る」。

早速、社員や消費者にヒアリングをしてみると、多くの人が同様の悩みを持っていることが分かりました。さらに、どのような商品だったら購入したいか調査をしてみると、「水に濡らさずすぐに使える」「ずれ落ちない」「冷却時間が持続する」という3つのニーズが見えてきました。

そこで、額に貼って熱を発散でき、これらのニーズに応えるシート状の商品を目指し、開発がスタート。それは今から25年以上前のことでした。

特に意識したユーザーは子どもとその保護者です。子どもが発熱で苦しんでいると親も辛い。この商品が、親子の辛さを少しでも和らげる存在になれたらとの思いから冷却ジェルシートは生まれました。

冷却ジェルシート
【発明・デザインの具体的内容】

冷却ジェルシートは、水分をたっぷり含んだジェルと、そのジェルを額に貼るための粘着性シートで構成されています。

このジェルに含まれた水分が額の熱で蒸発することで、皮膚の温度をおよそ8時間にわたり―2℃冷却。ジェルに含まれる水分量を絶妙に設定するとともに、 メントールを含んだカプセルの配合により、冷感を長く保つことが可能になりました。

また、最適な粘着力を追求し、使用時には剝がれにくく、外したいときには容易に剥がれるシートを実現。

(図1)ジェルに含まれた水分が蒸発
図1 ジェルに含まれた水分が蒸発

(図2)メントールを含んだカプセルを配合
図2 メントールを含んだカプセルを配合

子どもの発熱用として開発した冷却ジェルシートは、今や大人用から赤ちゃん用までバリエーションを拡大。小林製薬は発売当初、子どもが発熱しやすい冬に売れる商品を想定していましたが、実際には夏も売れ行きが好調でした。調べてみると、暑さ対策として使われていることがわかったため、以降は「暑さ対策商品」として積極的にアピール。今では冬より夏の方が売れる商品となりました。

冷却方法のヒントをくれた刺身こんにゃく
【完成するまでの苦労】

商品コンセプトが固まってから、担当者はずっと冷却する方法を考えていました。
2か月ほどたっても良いアイディアが思い浮かばない中、転機が訪れます。それは開発担当者3人で訪れた居酒屋でのことです。

話をしているときに偶然、刺身こんにゃくが腕の上に落ち、ひんやり気持ち良い冷たさを感じたのです。担当者はこのときに冷却ジェルを活用することをひらめいたと言います。

そこから保水性の高いジェルを探し出し、それを肌に優しい不織布の粘着シートに付着させ、基本的な構造ができました。

(図3)刺身こんにゃくが腕の上に落ちて
図3 刺身こんにゃくが腕の上に落ちて

しかし、商品はこれで完成ではありません。子どもたちが使いやすいサイズ感、貼り心地、発熱時に汗をかいてもずり落ちない粘着力、冷却効果を持続させるジェルの水分量を実現する必要があったのです。

まずは、社員の子どもたちの「額の面積調査」を行い、たくさんのオデコのデータを集め、子どもたちが使いやすいサイズ感を割り出します。そして、オデコに貼った時の負担や違和感をなくすために、重さや肌ざわりに配慮しつつも、しっかり冷やせる安心感ある厚みを考えました。さらに、室温40℃湿度75%程度に設定した実験室で、30人程度の社員が汗をかきながら繰り返し実験を行った結果、ついに最適な粘着力とジェルの水分量を発見しました。その実験パターンは実に200に上ったそうです。このような肉体を酷使する実験は、予想以上に大変な苦労だったようです。

全社員が毎月アイディアを応募

「あったらいいなをカタチにする」とは、裏を返せば「世の中にない新しい商品を作る」ということです。

小林製薬の特徴は、全社員が商品開発に関わっていることです。全社員が毎月、新商品のアイディアを考えて応募。その数は年間で4万件にもなり、10~20件が商品化に結びついているそうです。実際に開発担当部署以外の経理担当社員のアイディアが採用され、商品化されたこともあります。

アイディアを生み出すのは難しそうですが、毎月1件以上、新商品のアイディア応募を習慣化すれば脳が鍛えられ、日常生活の中で困りごとに気付くアンテナの感度が高くなると言います。

さらに注目すべきは、年間4万件も寄せられるアイディアを一つ一つ評価し、採用された場合はその結果を応募した社員に伝えていることです。

毎月アイディアを出しても、反応がなければ人は次第に意欲を失いますが、きちんと評価を受けるとモチベーションとなり、次のアイディアを生む意欲が湧きます。小林製薬が独創的な新商品を生み出し続けることができる秘密は、ここにあるのかもしれません。

ネーミングは分かりやすさをとことん追求
【発明に対する産業財産権の寄与】

これまで世になかった商品を宣伝する際に重要なのは、「顕在化していない困りごと」を「解決するイメージ」が瞬時に伝わること。こうした分かりやすさを追求する小林製薬には、「熱さまシート」「糸ようじ」をはじめユニークなネーミングの商品が揃っており、テレビCMなどでもおなじみです。

これは大阪の企業ならではのしゃれということではなく、商品の分かりやすさを極めた結果生みだされたもの。商品のネーミングを決める会議では全員が真剣そのもので、笑いが出る場面は全くないそうです。

このネーミングの功績が認められ、小林製薬は商標知財活用企業として、令和2年度知財功労賞「特許庁長官表彰」を受賞しました。

(写真)令和2年度知財功労賞「特許庁長官表彰」を受賞
令和2年度知財功労賞「特許庁長官表彰」を受賞

有名になり過ぎても困る?

小林製薬は新たな商品を生み出すたびに、商品名を商標として出願しています。商標とは自社の商品であることを示すマークで、登録された商標は、他者が勝手に使用することはできません。

これまで世の中になかった商品がヒットすると、時間とともに商品名が普通名称として定着してしまうことがあります。例えば、エスカレータ(Escalator)は、元々はアメリカの登録商標でした。

「熱さまシート」も同様に、商品カテゴリー名だと誤認されがちなので、普通名称のように使用されている事態を発見した場合は、使用者に対して登録商標であることをお伝えし、記載の変更をお願いする等注意を払っているそうです。なぜなら、「熱さまシート」が小林製薬の商標として登録されても、商品名が普通名称化してしまうと、商標権の効力がなくなってしまうためです。

小林製薬だからイノベーションを起こせたの?

小林製薬は革新的な商品を生み出すために「小さな池の大きな魚」戦略を推進しています。
「小さな池の大きな魚」とは、釣り人が多い大きな池では小さな魚しか釣れないが、釣り人が少ない小さな池では大きな魚が釣れる、という意味合いで、池の大きさは市場の規模を、魚は利益を表しています。
競合の多い商品よりも、どこにもない新商品を開発して新しい池(市場)をつくり、そこで大きな魚(利益)を得るというのがこの戦略の狙いです。

(図4)「小さな池の大きな魚」戦略
図4 「小さな池の大きな魚」戦略

しかし苦労して新しい池を作っても、大きな魚がいると分かると多くの釣り人が集まってくるため、池を独占することは困難です。
他者が池に入らないよう柵で囲む対策として、特許や意匠があります。

小林製薬も特許等の出願を考えましたが、熱さまシートの場合、特許等で池の周囲を完全に囲むことは難しいと判断したそうです。
そこで小林製薬は、自社の特徴的な部分を他社に真似されないよう特許等で守り、競合他社との差別化を図ることにしました。熱さまシートの場合、冷感を長持ちさせるためにメントール入りのカプセルを配合している部分を意匠権で保護しました。

一方、新しい市場に他社が参入することは悪いことばかりではありません。競合商品が増えることで市場全体が活気づくからです。
新しく市場を作ったときにはオンリーワン、他社が参入してきたら常にナンバーワンであり続けるのが小林製薬のポリシー。
これを実現するためには、商品も進化し続けなければなりません。熱さまシートの場合は、開発当初は2時間だった冷却持続時間が現在では8時間と機能性を向上させています。

発熱時の新しい習慣を作った!!
【発明によってもたらされた効果】

熱さまシートが販売されてから25年以上がたち、販売枚数は4億枚を超えています。

昔は、発熱したら冷たいタオルや氷のうなどを額に当てていましたが、熱さまシートが認知されてからは「熱が出たら冷却シートを額に貼る」というように、習慣自体が変化しました。

今では日本だけでなく、約20か国で販売され、売り上げの50%以上を海外が占めているそうです。かゆいところに手が届くニッチな商品開発は日本独特の強みです。

あるデータによると、訪日外国人が購入するお土産TOP10にも入るという熱さまシートが作った発熱時の新習慣は、海外でも根付いてきましたが、安価な模倣品が多く出回っているのも実情。特に海外に向けた知財戦略として、完全な市場のコントロールは困難ですが、月次で模倣品対策などの課題について、社長決裁を待つまでもなく迅速・機敏に対応を重ね、小林製薬ブランドを守るための対策を実施しているそうです。

小林製薬からのメッセージ

熱さまシートは、会社を代表するブランドとなり、社屋には「熱さまくん」のモニュメントがあります。
新しい商品は、自社の持つ技術を活かすだけではなく、消費者のニーズに基づいていることが大切です。
常にアンテナを張って、「あったらいいな」を探し続けることが重要だと思います。

(写真)「熱さまくん」のモニュメント
「熱さまくん」のモニュメント

[更新日 2022年6月30日]

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