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みんなのギモン?
世界市場において、ASEANの重要度は年々高まりつつあります。知財に対する意識改革もスピード感が求められているなか、日本国特許庁(JPO)も様々な支援活動を行ってきました。今回は2020年10月に一部オープンした、ミャンマーの知的財産庁の開設に関する支援活動についてお知らせします。
特許・意匠・商標・著作権の出願に対する登録・審査審判に関する業務を行います。日本の特許庁の業務に著作権の登録業務を追加したイメージです。
ミャンマーは1995年に世界貿易機構(WTO)に加盟し、ルールに沿った知的財産の保護を行う必要がありましたが、当時は特許や意匠、商標を登録及び保護するための法律がなく、特許等の権利を登録する機関もありませんでした。そこで世界知的所有権機関(WIPO)の支援を受けて、2004年から「特許法」「意匠法」「商標法」の作成が始まります。
その後、2011年に総選挙の結果に基づき民政移管が実現され、2012年にはWIPOとの法案の協議が再開されました。2015年に初めて法案が国会に提出され、長年にわたる国会内での議論を経て、2019年に法律が制定されています。
JPOは2015年からJICAを通じて長期専門家を派遣し、ミャンマーの知財庁設立を支援してきました。初代として3年間派遣されたのが、現在審判官の上田真誠さんで、その後派遣されたのが、現在の長期専門家である高岡裕美さんです。ミャンマー知財庁の業務を適切に行っていくには、実務を念頭においた法の理解が欠かせません。JPOからは専門家を派遣して、実務を踏まえた上での法案への助言や、知財庁の機能、出願手続に関する業務フロー、審査ガイドライン等の策定支援のためにJPOが持つ知見やノウハウの共有を行いました。そのなかでも制度設計やITシステム構築に対するサポートを中心に支援しています。
最初に施行される「商標」はその他の法律施行のモデルケースにもなるので特に注力した支援分野です。商標規則の作成や審査フローの策定の支援においては、講師である日本の商標審査官出身者と商標弁理士がミャンマー知財庁の職員と議論を重ねて、審査側・ユーザー側の双方の実務経験をミャンマー側に分かりやすく伝えられるよう努めました。ITシステム構築は知財庁の業務効率化に欠かせないものですから、ミャンマー知財庁のキーマンである商業省副大臣を日本に招へいし、JPOのITシステム見学を通して、安全・安定なITシステムのための環境整備の重要性を理解していただきました。
民政移管されたミャンマーでは経済改革の機運が高まり、日本企業からは熱い視線が注がれるとともに、ミャンマーからは経済成長に必要なインフラや制度の整備等について日本に支援が求められていました。知財制度の整備もその一つです。
それを受けて、2013年2月に、当時の特許庁長官と知財を担当していたミャンマー科学技術大臣及び副大臣との会談がミャンマーの首都ネピドーで行われ、ミャンマーに対する本格的な協力が開始されました。
歴史や文化、法制度、国民性が日本と異なるので、制度の検討にあたって当初想定していなかった点で苦労しているのではと感じることがありました。例えば、ミャンマーの担当者からすると、法律に書いてあることそれ自体は理解していても、その背景が理解できないということもありました。そのため、日本の法律や運用の背景などを工夫して説明しました。国民性という観点では当初、ミャンマーの皆さんは同じトピックを全員で考え、結論を出す傾向がありました。そうなると人が増えても時間が足りなくなってしまいます。そのため、グループで作業を分担することを推奨しましたが、日本のように情報共有の習慣がほぼないことも背景にあり、同じ事案でも担当者ごとに異なる判断や考えとなってしまう場合があることに後になって気づきました。
また、ミャンマーは長い間軍政であったことも手続などの検討の際に大きな影響がありました。我々からみて、かなり強権的な手続の検討がなされるときもあり、その考えを払拭することに苦労しました。知財制度は、ユーザーがあって初めて成立するものなので、その成功にはユーザーの関与が不可欠です。そのためには、国内外いずれも等しく透明性があり、分かりやすい手続であるべきだと繰り返し説明しました。
その際には、知的創造物を尊重する国になることで、質の高い外国投資が集まることが期待できるというような未来像を繰り返し伝えてきました。
このように、簡単に言い表すことのできないようなことも色々とありますが、ミャンマーの担当者の方たちはとても勉強熱心で質問も多く、知財制度の全体像や社会に与えるインパクトを繰り返し説明することを通じて、自分たちにとっても大いに学ばせていただくとともに、とても充実した支援ができていると感じています。
国際的に遜色のない知財制度が整備されることで、現地に進出する日本企業も知財の権利を適切に取得・保護できることとなりました。知財侵害に対する罰則も設けられたことで模倣品対策の実効性もあがり、現地でのビジネスリスクの軽減が期待できます。
審査官には適切なスピードとばらつきのない判断で審査できる能力が求められます。ミャンマーの審査官がこれまで学んだ知識を実際の審査で十分に活用して実務能力を磨いていけるよう、JPOはマラソンの伴走者のようにきめ細かい支援を行っていきます。
ミャンマー知的財産庁のポイントは2つ
詳細はこちらからご覧ください
日本国特許庁のアセアンに対する知的財産協力(外部サイトへリンク)
ミャンマー商標法および意匠法の概要(外部サイトへリンク)