ここから本文です。
注目のあの話題を徹底解説!
特許や意匠、商標など知的財産にまつわる注目の最新ニュースを弁理士の栗原潔先生がわかりやすく解説!
今回はチキンラーメンのあの"しましま"の話題です。
栗原潔先生
弁理士、コンサルタント。日本IBM、ガートナージャパンでSE、ITアナリストとしての勤務を経て、2005年より現職。弁理士業務と先進IT分野を中心とした知的財産コンサルティング業務を並行して行う。寄稿・講演・ビジネス書翻訳など多数。
世界初のインスタントラーメン・チキンラーメン。発売当時からパッケージに使われ親しまれてきた「セピア・白・オレンジ」の色の組合せが今年3月、色彩のみからなる商標として登録された。色彩のみからなる商標は審査のハードルが高く、国内登録は9件のみ(2022年6月現在)。3年半以上をかけ、ようやく登録に至った。
チキンラーメンを製造・販売する日清食品は、2018年に発売60周年を迎えたことをきっかけに色彩のみからなる商標を出願。ロゴなどがなくても配色のみで多くの人が当商品だと認識するだけの認知度を得ていることから、登録が認められた。この登録は、模倣品対策はもちろん、親しまれているブランドであることを世間にアピールするという点でも意義深い。同社は、カップヌードルの帯型の図形について位置商標の登録に成功している。
色を見ただけで「あの会社の商品だ」と認識できることがありますよね。これは、文字やマークがなくても色だけで、自己と他人の商品とを識別する自他商品識別機能という、商標に求められる機能が果たされていることを意味します。こうした商品やサービスでは、色や色の組合せで商標を認める「色彩のみからなる商標」の登録が、2015年4月から可能となっています。
これまでに約560件の色彩のみからなる商標の出願が行われていますが、登録されているものは9件にすぎません(2022年6月現在)。なかなか登録されないのは、同商標の登録には、商標法第3条第2項に定められた「使用による識別性」(使用により識別力を有するに至ったということ)を出願人が立証する必要があるから。しかも、色彩だけで識別性を獲得していることを立証しなければならないからです。
この立証のためには、商標の使用の歴史や商品市場シェア、メディアでの扱い、広告宣伝活動、消費者の認知度アンケート調査など、膨大な証拠の提出が必要になります。しかし、商標として色彩の使用を独占できるというのは非常に強力な権利であり、ハードルが高いことは当然ともいえます。
そうした色彩のみからなる商標について、一番最近登録されたのが、日清食品のチキンラーメンのパッケージの配色です。この件でも、2018年7月に出願、2022年3月に登録と長い期間を要しています。
ほかにも、トンボ鉛筆のMONO消しゴムのケースなどの「青・白・黒」、セブン-イレブンの看板の「白・オレンジ・緑・赤」などの配色が登録されていますが、十分な識別性を獲得しているという点に異論のある消費者は少ないのではないでしょうか。
色彩のみからなる商標を登録することにより、例えば、店頭で商品の色を見て「これだ」と思い購入したけれど、実はまったく別の模倣品であったというような、巧妙な模倣被害を防ぐことができます。同商標はそのように、企業のブランド保護に極めて有効であり、登録までの苦労に十分見合うものだと考えられます。