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注目のあの話題を徹底解説!
特許や意匠、商標など知財にまつわる注目の最新ニュースを、専門家が分かりやすく解説! 今回は、特許取得の専用容器で本格江戸前寿司を味わえる冷凍寿司に注目。さらに、食品関連の特許の豆知識もご紹介します。
豊洲のマグロ仲卸「鈴富」を母体とする株式会社B&Tマリンプロダクツカンパニーは、本格的な握り寿司を家庭で手軽に食べられる「解凍寿司 “シャリは人肌”」を、2024年5月1日から、つきじ鈴富公式通販オンラインショップで販売開始した。自社の仲卸が新鮮なネタを厳選し、実際の店舗で活躍する板前が握った寿司をそのまま冷凍パック。解凍も、専用容器に水を入れてレンジで約2分半、その後10分ほど常温で置いて完成。短時間で本格江戸前寿司を堪能できる。
刺身は新鮮なまま適度に冷たく、シャリはほんのり人肌の温かさを感じさせる。それを実現するのが、独自に開発した特許取得製法の専用容器。二段重ねの容器の上段には職人が握った寿司を並べ、容器の下段には解凍の際に水を入れるスペースを作っている。マイクロ波を下段の水に集中させ、ネタやシャリが温まり過ぎるのを防ぐ仕組みにより、寿司屋のカウンターで味わうような食感が楽しめる。
食品に関連する特許は多岐にわたる。豆腐やチョコレートなど、製造方法や加工方法が特許化されているものも多い。プロテインや高機能性オイルのような、食品の材料の抽出方法も特許の対象となる。さらに食品まわりの要素として、今回紹介したような「容器」や「包装」(酸素や水分を遮断する真空包装の技術など)、あるいは調味料の配合を目盛で表示した調理器具などもある。そしてもちろん、食品そのものに関する特許も多い。
解説
弁理士法人坂本国際特許商標事務所
所長 弁理士
坂本 智弘氏
伊東国際特許事務所、片山特許事務所で各分野のメーカーの出願業務を数多く手掛けたのち、2006年に坂本国際特許事務所(現坂本国際特許商標事務所)を開設。国内のみならず、アジア全域を視野に入れた事業展開に力を注ぐ。
食品に関連する特許には多くの種類がありますが、ここでは「食品自体」に絞って、最近の傾向の1つをご紹介します。食品業界では、おいしく、安全で、そして体に良い食品を届けるために、日々研究開発が重ねられています。しかし、おいしい食品を開発しても「おいしさ」を特許で保護することは難しいといわれています。それは、「おいしさ(味)」を請求項(クレーム)に文章で表現することが非常に困難だからです。そこで、食品への「配合成分やその配合量」に特徴を持たせたり、最近では機能性表示食品に見られるような「新たな効能効果」を見出したりすることで、「用途限定発明」として数多くの特許が取得されています。よく知られたヒット商品を例にご説明します。
【「ねるねるねるね」でおなじみの知育菓子®】子供の頃に誰もが一度は楽しんだ、「ねるねるねるね」に代表される知育菓子。工作のように遊び感覚で作れるお菓子で、30年以上にわたるロングセラー商品です。知育菓子の技術は、既存の成分を用いた「pH操作による色の変化」「酸と重曹による発泡作用」「アルギン酸とカルシウム成分によるゲル化作用」を利用しています。特許は、商品ごとに「配合成分、配合量、工作に使用するトレイ」などの組み合わせで取得されており、特許の数は30以上に上ります(第3277165号ほか)。また最近では、この技術を応用した、お薬の苦味をマスキングする「おくすりパクッとねるねる」(第7454619号)もヒットしています。このような「配合成分やその配合量」で特許を取得する場合には、その成分やその配合量が、どのような作用で効果をもたらすのかの説明と、それを実証する実験結果が必要となります。
【「ヘルシア緑茶」に代表されるヘルシア®シリーズ】ヘルシア緑茶は、2003年の販売開始から特定保健用食品として、多くの消費者に愛用されています。お茶に含まれる茶カテキンに着目した商品で、数多くの特許が取得されています(第3329799号ほか)。同じヘルシアシリーズのヘルシアコーヒーは、コーヒーに含まれるクロロゲン酸に着目し、脂肪燃焼を訴求して発売されました。特許を見ると、体脂肪抑制作用(第4119629号)、高血圧予防作用(第4119629号)、睡眠の質改善作用(第6517968号)など、多くの「用途限定発明」で特許が取得されています。このような「用途限定発明」で特許を取得する場合には、用途を限定するクレーム表現、さらに新たな効能効果の実証結果が必要となります。