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Vol.63
広報誌「とっきょ」2024年12月17日発行

知財が創る未来

ふくしまイノベーション 企業ファイル

2024年1月、特許庁は福島県及び公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構と、知的財産の保護及び活用に関する連携協定を締結しました。知財で福島の新しい時代を切り開く企業やプロジェクトを紹介します。

FILE#03 合同会社 楽膳

合同会社 楽膳
[代表社員] 大竹愛希
[住所] 福島県福島市丸子御山越55-203
[従業員数] 1名
[URL] https://www.raku-zen.net (外部サイトへリンク)

多様な視点を反映させたユニバーサルデザイン食器

万人が使いやすいユニバーサルデザイン(UD)を取り入れた食器ブランド「RAKUZEN」を展開する、合同会社楽膳。代表社員の大竹愛希さんに話をうかがいました。

「楽膳の母体となったのが、私の両親が運営に携わり、障害がある人の社会参加を支援してきたNPO法人シャロームです。日本でもUDへの関心が高まってきた2000年代の初め、シャロームでUD製品開発の動きがあり、デザイン学校でUDを学んだ私が、スタッフとして加わりました。試作を経て、最初の商品『楽膳椀』の販売が2006年にスタート。同じタイミングで合同会社楽膳を設立し、私が代表社員を務めることになりました」

楽膳椀
楽膳の商品を代表する「楽膳椀」。2カ所のくぼみに指をかけることで安定して持つことができる。お椀の構造上、重心が下にあるため倒れにくい

現在も同社の看板商品である「楽膳椀」は、椀の底の丸い支えをなくして、2カ所のくぼみを入れてあります。くぼみに指をかけることで持ちやすく安定し、手が不自由な人や握力が弱い人も、安心して食事を楽しめます。他にも、持ちやすさや倒れにくさに配慮した酒器の「らく杯」や、木のトレー「らく皿」などを開発・販売しています。

「全ての商品に共通するコンセプトは、①職人が1つずつ手作りする食器であること、②製品が完成するまでの工程のどこかに障害がある仲間が関わっていること、です。障害がある人をはじめ多様な人たちと一緒になって、その多様な視点を取り入れたものづくりをするプロセスこそが、UD本来の思想ではないかと思っています」

立ち上げのフェーズでは、「楽膳椀」などを意匠登録。

「他社の模倣を抑止するのが一番の目的で、これによって日本全国や海外に向けての情報発信や販路開拓を安心して行えるようになりました。その後グッドデザイン賞などもいただいてオリジナリティを証明する手段は増えていきましたが、中小企業が知的財産権で身を守ることのメリットを実体験で学びました」

また、オリジナル商品の開発・販売とともに、地域企業の商品デザインなども手がけています。

「最近の事例の一つに、環境再生にアプローチするリジェネラティブ農業に取り組む、ゆずりは園芸様のブランディングの支援があります。INPIT福島県知財総合支援窓口様と一緒に、ロゴ制作やネーミング、6次化商品のパッケージデザインなどを手がけたのですが、その際、知財総合支援窓口の担当の方が競合商品の商標登録状況を調べてアドバイスしてくれたり、商標出願の手続きなどもサポートしてくれたりしました。今後も力を合わせて、福島県の地場産業を活性化させる場面が増えればうれしいですね」

吟醸蜜芋
環境再生型農業を実践する、楪園芸株式会社の企業理念を体現する作物として、さつまいもの独自ブランド化を行った

※6次化:農林漁業(1次産業)が、自らの生産物で製造(2次産業)、小売(3次産業)も行い、新たな付加価値を生むような取組
画像提供:合同会社楽膳

POINT
「毎日の食事を楽しいものに」という願いを込めて

UD製品で定番の樹脂ではなく、福島県の伝統工芸・会津漆器を活用したのも「楽膳椀」の特徴。木製品は熱伝導がゆるやかで、指をかけても熱さを感じず持つことができます。また漆は、見た目の美しさや口をつけた感触など、五感に訴えて食事を豊かな体験にしてくれます。もともと「楽膳」の名は、毎日の食事の時間からストレスを減らし、より楽しいものにしたいという想いに由来しています。楽膳椀の誕生を支えた木地職人の方とは不思議な巡り合わせで、私が相談に行く少し前に、お父様が病に倒れて手が不自由になるという経験をされたそうです。そのため楽膳椀の発想や意義に共感してくださり、試行錯誤して楽膳椀加工用の刃物も自作してくれました。(大竹さん)

木地職人
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