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注目のあの話題を徹底解説!
特許や意匠、商標など知財にまつわる注目の最新ニュースを、専門家が分かりやすく解説!今回は、北海道唯一の伝統的工芸品である「二風谷イタ」「二風谷アットゥㇱ」の地域団体商標取得の背景についてご紹介します。
アイヌの伝統文化が受け継がれている二風谷(北海道沙流郡平取町)の代表的な工芸品「二風谷イタ」(写真左)と「二風谷アットゥㇱ」(写真右)が、2024年9月と11月に特許庁の地域団体商標に登録された。
二風谷イタは、浅く平たい形状の木彫りの盆。渦巻の形(モレウノカ)や棘状の形(アイウㇱノカ)、目のような形(シㇰノカ)などの組み合わせからアイヌ様式に特有の美しい文様が形作られる。また、文様の隙間を埋めるように「ラㇺラㇺノカ」というウロコ彫りが施されているところも特徴。
沙流川流域に古くから伝わる二風谷アットゥㇱは、オヒョウなどの樹皮の内皮から作った糸を用いて機織りされた反物で、着物や半纏、前掛け・帯や小物類などに使用される。水に強く通気性に優れ、天然繊維としては類を見ない強靭さと独特の風合いが主な特徴。高度経済成長期の1960~70年代には、土産品として地域の観光産業の隆盛を支えた。
アイヌ工芸の技術や伝統を守ることを目的に、二風谷民芸組合は「二風谷イタ」「二風谷アットゥㇱ」について経済産業大臣に伝統的工芸品※の指定申出を行い、2013年3月に北海道で初めて伝統的工芸品の指定を受けている。今回新たに取得した地域団体商標は、「地域名」と「商品(サービス)名」からなる地域ブランドの名称を保護することにより、地域経済の活性化を図ることを目的として、2006年4月に導入された制度。
※伝統的工芸品:「主として日常生活の用に供される」「伝統的な技術又は技法により製造される」など5項目の定義を満たし、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づき経済産業大臣の指定を受けた工芸品。2024年10月17日時点で243品目が対象となっている
解説
平取町アイヌ工芸伝承館
ウレㇱパ 施設長
新井 貞則氏
1975年横浜生まれ。1998年に夫婦で平取町に移住し、平取町新規就農者第一号として花卉栽培農家を約20年間経営。その後、観光協会でDMO(観光地域づくり法人)を3年間担当し、2021年から現職。
「平取町アイヌ総合政策推進基本計画」に基づき、現在5つの主要プロジェクトが実施されています。その1つ「アイヌ文化のブランド化推進事業」を進める中で、伝統的工芸品に関する権利の確保がブランド価値向上において重要だという思いを強めました。実際に地元の方から「空港の土産品売場で、他産地のイタが二風谷イタとして販売されている」と情報が寄せられたこともあります。そこで平取町・二風谷民芸組合・一般社団法人びらとりウレシパで連携し、地域団体商標取得という具体的な成果で他産地との差別化を明確にすることを目指しました。これにより、工芸家の方々の権利保護や意識醸成につながっていくことも期待しています。
【商標取得のプロセス】企業組合ではなく任意団体である二風谷民芸組合は、地域団体商標の出願要件を満たせなかったため、コンサルティング会社のアドバイスも参考にして、地域未来投資促進法※の特例措置を活用することにしました。申請者となった一般社団法人びらとりウレシパは、「アイヌ工芸品の生産性の向上及びアイヌ伝統工芸の継承と担い手の育成」を事業目的として活動し、二風谷民芸組合員が理事の半分以上を占める団体です。なお、特例措置は2027年3月に切れるので、権利移管の手続きが今後必要になり、INPITさんの支援も受けながら対応を進めていく予定です。
【今後の展開のイメージ】地域団体商標取得という情報を積極的に発信し、ブランド力を高めていきたいと考えています。ネット販売とともに、2年前から取り組んでいるふるさと納税返礼品も重要な販路として成長中ですが、ここでも地域団体商標のマークを活用していく方針です。本件を含めて平取町は地域団体商標を4つ登録しており、北海道内の町では最多です。そのため、知財をどのように管理・運用していくかという基準の設定やプラットフォーム整備に地域で取り組むことが大切であり、今回はその第一歩だと考えています。大ヒット作品『ゴールデンカムイ』の影響などで、アイヌ文化への関心が高まっている追い風の状況を実感していますが、平取町で取り組む「二風谷アイヌクラフト」プロジェクトや、経済産業省「伝統的工芸品産業支援事業」の継続活用などで、一過性のブームにとどまらないように努めていきたいですね。アイヌの歴史の雄大な流れと、ビジネスやカルチャーの潮流に的確に対応するスピード感。2つの時間軸を大切に活動していきます。
※地域未来投資促進法:地域の特性を生かした付加価値を創出し、地域経済の活性化につながる「地域経済牽引事業」の促進を目的に2017年7月に施行。地域の事業者は、市町村・都道府県が作成した「基本計画」に基づき「地域経済牽引事業計画」を作成し、都道府県知事の承認を受けることで、地域未来投資促進法に基づく国・地方公共団体の支援策や優遇措置を活用できる
画像提供:二風谷アイヌクラフト事務局
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