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Vol.64
広報誌「とっきょ」2025年3月7日発行

知財が創る未来

ふくしまイノベーション 企業ファイル

2024年1月、特許庁は福島県及び公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構と、知的財産の保護及び活用に関する連携協定を締結しました。知財で福島の新しい時代を切り開く企業やプロジェクトを紹介します。

FILE#04 株式会社三義漆器店

株式会社三義漆器店
[代表取締役] 曽根佳弘
[住所] 福島県会津若松市門田町大字一ノ堰字土手外1998-3
[従業員数] 86人(2025年1月現在)
[URL] https://www.owanya.com/ (外部サイトへリンク)

時代が求める「器」を探究して知財の力で新しい価値創造を続ける

福島県の伝統的工芸品・会津漆器の塗師だった初代の創業から今年で90年目を迎える株式会社三義漆器店。三代目の曽根佳弘社長は、「日用品のお椀に特化して個性を打ち出し、現在に至るまで、日本初の食洗機対応の漆器や電子レンジで使える飽和ポリエステル(PET)樹脂製漆器など、ライフスタイルの変化に対応した製品開発に取り組み続けています」と、会社の特徴を語ります。

社内には部門を横断する知財活動の委員会を設置。外部の専門家のアドバイスも活用しながら、新製品開発時の特許権や意匠権の取得、ライセンス契約の締結などを行っています。

「最近では、福島県が実施している 〈御用聞き訪問〉で、当時東北大学大学院で教授をされていた堀切川一男先生から、摩擦力学に基づいたアイデアを指南いただき、それを参考に樹脂製のパスタ専用フォークを開発しました。同行の知財専門家の方々から特許取得のアドバイスも頂き、新しい知財が生まれる現場に立ち会えたことに感動しました」

曽根社長(左)と小松技術士事務所の小松所長(右)
曽根社長(左)と小松技術士事務所の小松所長(右)
脱プラスチック容器「IZ EARTH」
脱プラスチック容器「IZ EARTH」は菓子容器や飲料カップなどへの展開が可能。環境省の補助金を活用して工場も完成し、本格的な展開が始まっている

開発されたパスタ専用フォークは、大手量販店などで採用。特許取得の効果も再認識したそうです。

「独自技術を保護することで職人や社員を守れますし、価格競争も避けられます。さらに、取引相手としてご指名いただくなど、競争力の向上にもつながりました」

福島県出身で国際的に300超の特許を保有する小松技術士事務所(いわき市)の小松道男所長との提携も、特筆すべき成果。

「地球の環境危機に関する小松先生のセミナーを拝聴して強い印象を受け、植物由来で自然に還る生分解性プラスチックの射出成形技術に大きな可能性を感じました。当社の設備を活用して量産化ができると直観し、小松先生に熱心にアプローチして特許技術のライセンス契約を締結しました」

ライセンスされた技術を活用して、土に還る器の「紫翠盃しすいはい」を開発、販売。先端技術と伝統の会津塗を組み合わせたコンセプトや完成度が高く評価され、2020年ドバイ国際博覧会で日本パビリオンのVIP来場者の記念品などに採用されました。さらに、ポリ乳酸(PLA)の射出成形による薄肉プラスチックカップとして世界最薄の0.53mmのコップ製造にも成功。会津から地球の環境問題に取り組むメッセージを込め、新ブランド「IZ EARTH(アイヅアース)」を立ち上げました。

「会津漆器は伝統産業と呼ばれますが、その歴史が始まった約430年前は最先端産業であり、多くの職人が創意工夫していたはずです。当社は会津塗の伝統をリスペクトしつつ、個々の工程を深掘りしたり、他分野の技術を組み合わせたりして得られる多様なアイデアを、イノベーションの源泉として大切にしています」

パスタ専用フォーク(左)、紫翠盃(右)
左がパスタ専用フォーク(特許第6232173号)。二股になった先端の内側がえぐれた構造で、麺の摩擦が加わることで絡みやすくなる。右が「紫翠盃」。山の木々の美しい様子を表す「紫幹翠葉」からネーミング
POINT
固定観念を持たず、時代のニーズに耳を傾けて製品を開発

 当社は、その時代の生活者がお椀に望む機能やかたちを常に追求してきました。それが、綺麗なお椀の持ち方が自然に身に付く「しつけ椀」(写真)や、美しい木肌を求めるニーズに応えた「メープルシリーズ」(2012年度グッドデザイン賞)です。米国市場進出の際は、安価な競合製品と差別化するため、「塗り」の高付加価値化が求められました。東日本大震災の時、避難所では水が不足して食器の洗浄が課題となった経験を参考に、少量の水でも洗える撥水機能を持った漆器を構想。大手塗料メーカーとの共同開発で3年間の試行錯誤の末、撥水コートで汚れや油を弾く合成漆器「ラクピカ」の開発に成功し、現在では主力商品の一つです。(曽根さん)

しつけ椀

画像提供:株式会社三義漆器店

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