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知財が創る未来
FILE#04 株式会社三義漆器店
福島県の伝統的工芸品・会津漆器の塗師だった初代の創業から今年で90年目を迎える株式会社三義漆器店。三代目の曽根佳弘社長は、「日用品のお椀に特化して個性を打ち出し、現在に至るまで、日本初の食洗機対応の漆器や電子レンジで使える飽和ポリエステル(PET)樹脂製漆器など、ライフスタイルの変化に対応した製品開発に取り組み続けています」と、会社の特徴を語ります。
社内には部門を横断する知財活動の委員会を設置。外部の専門家のアドバイスも活用しながら、新製品開発時の特許権や意匠権の取得、ライセンス契約の締結などを行っています。
「最近では、福島県が実施している 〈御用聞き訪問〉で、当時東北大学大学院で教授をされていた堀切川一男先生から、摩擦力学に基づいたアイデアを指南いただき、それを参考に樹脂製のパスタ専用フォークを開発しました。同行の知財専門家の方々から特許取得のアドバイスも頂き、新しい知財が生まれる現場に立ち会えたことに感動しました」
開発されたパスタ専用フォークは、大手量販店などで採用。特許取得の効果も再認識したそうです。
「独自技術を保護することで職人や社員を守れますし、価格競争も避けられます。さらに、取引相手としてご指名いただくなど、競争力の向上にもつながりました」
福島県出身で国際的に300超の特許を保有する小松技術士事務所(いわき市)の小松道男所長との提携も、特筆すべき成果。
「地球の環境危機に関する小松先生のセミナーを拝聴して強い印象を受け、植物由来で自然に還る生分解性プラスチックの射出成形技術に大きな可能性を感じました。当社の設備を活用して量産化ができると直観し、小松先生に熱心にアプローチして特許技術のライセンス契約を締結しました」
ライセンスされた技術を活用して、土に還る器の「紫翠盃」を開発、販売。先端技術と伝統の会津塗を組み合わせたコンセプトや完成度が高く評価され、2020年ドバイ国際博覧会で日本パビリオンのVIP来場者の記念品などに採用されました。さらに、ポリ乳酸(PLA)の射出成形による薄肉プラスチックカップとして世界最薄の0.53mmのコップ製造にも成功。会津から地球の環境問題に取り組むメッセージを込め、新ブランド「IZ EARTH(アイヅアース)」を立ち上げました。
「会津漆器は伝統産業と呼ばれますが、その歴史が始まった約430年前は最先端産業であり、多くの職人が創意工夫していたはずです。当社は会津塗の伝統をリスペクトしつつ、個々の工程を深掘りしたり、他分野の技術を組み合わせたりして得られる多様なアイデアを、イノベーションの源泉として大切にしています」
当社は、その時代の生活者がお椀に望む機能やかたちを常に追求してきました。それが、綺麗なお椀の持ち方が自然に身に付く「しつけ椀」(写真)や、美しい木肌を求めるニーズに応えた「メープルシリーズ」(2012年度グッドデザイン賞)です。米国市場進出の際は、安価な競合製品と差別化するため、「塗り」の高付加価値化が求められました。東日本大震災の時、避難所では水が不足して食器の洗浄が課題となった経験を参考に、少量の水でも洗える撥水機能を持った漆器を構想。大手塗料メーカーとの共同開発で3年間の試行錯誤の末、撥水コートで汚れや油を弾く合成漆器「ラクピカ」の開発に成功し、現在では主力商品の一つです。(曽根さん)
画像提供:株式会社三義漆器店
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