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特許庁総務部国際課
98年3月5,6日の2日間にわたり、オーストラリア・キャンベラにおいて、第6回知的所有権専門家会合゛Intellectual Property Right Experts Group (IPEG)゛が開催されました。今回の会合は、その前身であった゛IPR Get together゛のより一層のステータスの向上を目指すべく、゛Intellectual Property Rights Experts Group(IPEG)゛に改組されてから初めての会合でした。しかしながら、その議論の内容は過去5回開催された゛IPR Get-Together゛の流れをそのまま引き継ぐものであるため、今回の会合は第6回IPEG会合と呼ぶこととされました。また、今回の会合では、議長の交代劇もありました。高倉成男特許庁主席審判官(前国際協力官)から、佐伯義文現特許庁国際協力官がその大役を引き継ぐことになりました。この他、特筆すべきこととして、フィシャー豪副首相兼貿易大臣が途中で本会合を訪問し、ご挨拶されたことが挙げられます。大臣は、知的所有権分野の重要性の高まりに対応して共同行動に取り組んでいるIPEGの活動を評価する旨発言されたあと、しばらくの間、議場で会議をご視察されました。
なお、この会合に先立って、3月2,3日には、「21世紀の中小規模知的所有権庁が直面する好機と課題」をテーマに、APECのメンバーのみならずアジア太平洋地域のIP庁を対象としたワークショップが開催されました。「知的所有権制度のグローバル化」、「地域問題」、「情報技術の影響」、「知的所有権における啓蒙、教育」及び「今後の知的所有権庁の役割」の5つのセッションから構成されたところ、我が国からは植村審査第四部長が「知的所有権制度のグローバル化」のセッションで、佐伯国際協力官が「情報技術の影響」のセッションで、それぞれ講演を行いました。また、ワークショップの最後に高倉上級審判官がIPEG議長として全体の総括を行いました。
APECとは、アジア太平洋地域の18の国・地域をメンバーとして、貿易投資の自由化、円滑化、及び経済技術協力を目指す地域フォーラムです。米国、カナダ、オーストラリアのような先進工業国と世界の成長センターと言われるアジア諸国を含む発展途上国が共通の目標を目指して協力しあうという画期的なもので、日本もそのメンバーになっています。これに加え、本年11月のAPEC経済首脳会議からは、ペルー、ロシア及びベトナムが新たに正式なメンバーとなることが決まっています。
(知的所有権専門家会合の位置づけと検討経緯) B 我が国は知的所有権分野の取りまとめ国となっており、各メンバーの協力の下、共同行動計画を実行していくことになっています。知的所有権専門家会合は、各メンバーの知的所有権分野の専門家が集まって、専門的、具体的な検討を行う場であり、これまでに5回の会合が開催されました。昨年から、共同行動計画は、具体的な実施段階に入り、連絡先リストや、各国法令調査結果のインターネットでの公開、また、我が国提案のIP情報モール構想のクイックリンクマトリクス等、既に成果が出ている項目もあります。
共同行動の項目毎に、以下のように具体的成果を確認し、また今後の作業を実施していくことが合意されました。
IPR関連の行事は、日本のホームページに掲載され、この情報はAPEC事務局のホームページ(http://www.apecsec.org.sg)からもリンクされサービスされています。この情報は年2回(1月と7月)更新することとされていますが、今回の更新から、各イベントのコンタクト先も掲載されるようになりました。これにより関心のあるものは容易に該当イベントに参加できるようになりました。
「関係法令及びその関係省庁」の調査については、15メンバーより提出された情報をまとめたものが豪州より配布されました。この一部については、特許庁又はAPEC事務局のホームページ上でも見ることができます。
「判例、行政上のガイドライン」及び「関連機関の活動」に関する調査についても、豪州から現在までに提出された情報をまとめたものが配布されました。そして、今後より詳細な調査を実施すべく、APEC中央基金の利用について検討することとなりました。これに関して。4月末までに豪州が提案書を配布し、各メンバーのコメントを求めることとされました。
昨年完成した知的所有権関連の政府、民間機関の連絡先リストについても、APEC事務局のホームページに掲載されています。今回の会合では、この連絡先リストの宣伝パンフレットを作成・配布することにより、当該リストの普及を図ることが合意されました。豪州が5月までにパンフレット及びその配布方法の案を作成し、メンバーのコメントを求めることで合意されました。
今回会合でタイが配布した周知商標保護に関する質問票の改訂版が、若干修正された後、承認されました。各メンバーは4月末までに質問票に回答し、タイは6月末までにこれを取りまとめた上で次の段階の提案を行うことになりました。
<商標出願メールボックス制度、提案国:米国>
商標出願メールボックス制度とは、出願人が本国の特許庁に出願すると、指定国の出願日要件を満たすことを条件として、全ての指定国における出願の効果が得られ、出願書類が本国の特許庁から指定国の特許庁に自動的に送付されるというもので、本国の特許庁を自宅の郵便箱(メールボックス)のように用いるというものです。(なお、米国では、自宅の郵便箱へ郵便物が配達されるとともに、郵便箱に付けた郵便物は回収されて郵送してもらえるのです。)米国は前回会合で多数国協定の原案を提示しましたが、今次会合で幾つかののメンバーから否定的なコメントがあったため、今後は関心を有する複数のメンバーの間で検討を進めていきたいと提案しました。議論の結果、本件は引き続き共同行動として扱い、議論の進捗状況をIPEGに適宜報告するとした上で、関心のあるメンバーがバイで議論しつつ提案を練り上げていくことでコンセンサスが得られました。
このことに関連して、米国は次回会合の1か月前までに商標メールボックス提案の改訂版を配布することとなりました。
<行政手続きに関する情報交換、提案国:メキシコ>
メキシコは、9メンバーより提出された行政手続の現状に関する情報の統合版を配布し、次の段階の作業案について説明しました。これについては、若干の修正を経た後、了承されました。具体的には、メキシコが6月末までにこの情報について分析及びガイドライン案を作成し、配布することとされました。また、本件情報を一般に公開すべく、APECホームページに掲載することが合意され、未提出メンバーは5月末までにメキシコに情報を提出し、メキシコが6月末までにAPEC事務局に電子データを送ることとされました。
<IP情報モール、提案国:日本> B 我が国から、IP情報モール提案の改訂版及びユーザーがどのようなIP情報を必要とするかというニーズを調査するための質問票について説明をした後、メンバーの承認を得ました。各メンバーは5月末までに回答を提出し、我が国は7月末までにこれらをとりまとめることとされました。この質問票は、IP情報モール上にも掲載されることとなり、インターネットを通じてこれに回答することができるようになりました。
メキシコから、11メンバーより提出された知的所有権エンフォースメント制度に関する情報を編集したものが配布されました。未提出メンバーは4月末までに情報を提出し、これについても共同行動項目(e)と同様、メキシコが5月末までに情報の分析及びガイドライン案を作成し、配布することとされました。
また、次の段階であるケーススタディの進め方については、5月末までにメキシコ提案に対するコメントを各メンバーが提出し、メキシコは6月末までに改訂提案を配布することとなりました。これについては、次回会合で議論することとなっています。
韓国は、昨年の調査の実施により、各メンバーの技術協力に関する提供事項と要請事項とを突き合わせた一覧表を完成しました。これに基づいて、韓国が策定した技術協力促進に関する提案については、今回会合で承認されました。これに関連して、技術協力を提供するメンバーは技術協力の概要を6月末までに韓国に提出することとなりました。本件の実施についても、豪州によるサーベイと同様に、APEC中央基金に申請すべく、韓国は4月中旬までに提案を配布することとされました。
このほかに提出された又は議論された事項として以下のようなものがありました。
今回の会合では、共同行動の作業に関して、非常に多くの合意がなされたものと思われます。実際、APECの場で議論され、実施されている様々な共同行動は、他のフォーラに比して、着実に進んでいるものと思われます。今後、さらに各行動共同項目を実施していくに当たっては、困難が伴うことも予測されますが、計画通りにこれが実施された暁には、APEC域内にとって意義深いものとなることに加え、他のフォーラでの議論・行動に拍車をかけることにも繋がります。
今回会合で、会合名、議長ともに一新されました。今後とも、取りまとめ国として、より一層努力していく所存です。
オ-ストラリアに気候・土地:オーストラリアは、今は夏。気候は、30度を超えることも。しかし、湿度が低いため比較的快適。空気が澄んでいるため日差しが強く、黒目の日本人でも、昼間はまぶしく感じられるほど。キャンベラは、平原の中に作られた首都。町の周りは、大自然。しばしば、車とカンガルーが衝突することも。カンガルーよけのバンパーも日本では飾りものだが、こちらでは必需品。スケールの大きさは、日本人の感覚にはあわない。ホテルの隣の外務貿易省(議場)までは、数百メートル。時間だってゆっくり流れる。昼食に2時間近くかけるのは普通?
外務省貿易省とIPオーストラリア:外務貿易省は、きわめて近代的な建物。ICカードが無いと全てのフロアーに入ることもでることもできない。泥棒が運良く進入できたとしても、出られない。たくさんある小さな会議室は、ガラス張り。光の射し込まないような会議室などない。IPオーストラリアは2月下旬にオーストラリア知的所有権庁(AIPO)から改名。変わった名前だが、これが正式名称。当然ロゴも改められた。結構洗練されている。建築も新築。働く人にも活気が満ちあふれている。
外食会とアボリジニ:ワークショップ1日目の晩に夕食会が開かれ、アボリジニ(豪踊る。メキシコのアミーゴ長官、ラテンの血が騒ぐ。いつの間にか上半身裸で踊り出の先住民族)が踊りを披露。ぽんぽんという低音の笛の音に合わせて、パンツ一丁です。議長国日本も、負けてはいられない。植村四部長も笛を取り、美音を奏でる。こうした余興は、人間関係形成に良い機会である。会議をスムーズに進行させるための一つの鍵である。
記念盾の授与:IPEGの最終日のコーヒーブレークで豪からの粋な計らいがあった。高倉前議長のこれまでの貢献を讃えて記念の盾の授与。場内は、割れんばかりの感謝、賞賛の拍手。高倉氏照れながらも、弁舌軽やかに挨拶をした。これまでの激務を思い起こしてか、「やっと家族と夕食が食べられる…。」本当にお疲れさま。
事務局日本:我が国は会議の事務局としての役割もある。議場配布用の資料の用意、英語による議事録の作成まで、仕事は昼夜に徹す。現地で手渡される資料も多く、会議前から、カンガルーの手も借りたいほど。その量は、350頁以上のものを約60部。豪の助力により何とか会議に間に合う。夜遅くまで手伝ってくれた外務貿易省の役人は、なかなかの色男。ロン毛をポニーテールで束ね、ピアスをした195センチの大男。参加女性人の注目の的。日本語が話せる女性職員もいる。日豪関係が良いことの証だ。こんな忙しい事務局をよそに、カンガルーはお気楽なもの。たいてい木陰で休んでいる。
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