• 用語解説

ホーム> お知らせ> 国際的な取組> APEC/IPEG> 第7回APEC知的財産権専門家会合の報告

ここから本文です。

第7回APEC知的財産権専門家会合の報告

平成10年9月
国際課

会議場の様子の写真

「会議場の様子。中央は、議長の佐伯国際協力官」

1. はじめに

本年8月25日・26日、APEC(アジア太平洋経済協力)の第7回知的所有権専門家会合(IPEG VII:Intellectual Property rights Experts Group)がシンガポールで開催されました。
APECは、アジア太平洋地域の18の国・地域が参加する、貿易・投資の自由化・円滑化を中心とした経済協力を主眼とする地域フォーラムで、我が国が参加する唯一のものです。近年、ご周知の通り、東南アジア諸国を中心に通貨・経済危機が襲われていますが、この地域の潜在的な成長力、我が国との経済的な結び付きの深さを考えれば、我が国にとってAPECの重要性が減じることはないでしょう。
APECの機構には、閣僚会議、高級事務レベル会議等の各会議がありますが、知的所有権専門家会合はその中の貿易・投資委員会の下にある15の分野別会合の1つで、96年4月以来、日本が議長国(コンビーナ)を務めている唯一の専門家会合です。

2. 議論の概略

今回の会合(IPEG VII)には、18のメンバー国・地域のうち15の国・地域およびペルー(本年11月より加入予定)からシンガポールのAPEC事務局に集まりました。今回の会合はホストを予定していた国が、国内事情により急遽ホストすることができなくなったため、議長国の日本がホスト国としてAPEC事務局の会議室で開催することとなったものです。
知的所有権専門家会合(IPEG)は、95年の大阪行動指針に基づき作成された共同行動計画(aからgの7つがある)に従い、各作業を進展させています(過去の各会合の報告は、本誌の平成8年1月号・5月号・10月号、9年6月号・11号、10年5月号を参照して下さい)。
この共同行動計画は、

  1. TRIPS協定の履行とそのための技術協力
    • 項目g:TRIPS協定の履行とそのための技術協力(APECメンバーの2000年1月1日までのTRIPS完全履行)
  2. 迅速な権利付与のための手続きの標準化(APEC域内の共通制度の確立等)
    • 項目d:周知商標(周知商標の統一基準)
    • 項目e:手続きの標準化、簡素化(手続きの情報交換および域内手続きのガイドライン作成、IP情報モール、APEC共通出願様式)
  3. 権利侵害に対する効果的な権利行使の確保
    • 項目f:エンフォースメント(制度に関する情報交換と制度の指導原則の作成、取り締まり等のエンフォースメントに関する情報交換)
  4. 知的所有権政策の対話の深化、法令等の現状調査
    • 項目a:対話の深化(IPRイベントカレンダー、新規審議事項(バイオテクノロジー、電子商取引))
    • 項目b:法令等の調査(各国の関係法令リストの作成、TRIPS関係の法令整備状況確認は項目g)
    • 項目c:IPR関係者連絡先リスト(連絡先リストの作成)

を主な目的として作成されています。

議論が盛り上がっている場面の写真

「議論が盛り上がっている場面。なお、中央にいるのは日本代表団」

今回のIPEG VIIで議論された事項の主なものを説明いたします。

1. TRIPS協定の履行とそのための技術協力

項目g:TRIPS協定の履行とそのための技術協力(リード国:韓国)

<目的と概要>
IPEGでは、2000年1月1日までにAPECメンバーの全てがTRIPS協定の履行すること(大阪行動指針)、そしてそのための技術協力を行うことは重要な課題です。

<今回の議論>
a)技術協力

技術協力には、大きく分けて、(1)多国間協力と(2)2国間協力があります。

  • (1) 多国間協力
    来年にAPEC予算で韓国においてTRIPS履行を目指した研修を行う予定です。これについて、同国から7月のAPECの行財政管理委員会で承認された共同技術協力の予算の概要について説明があり、後日同国が研修内容の具体的な提案をすることとなりました。
  • (2) 2国間協力
    5ヶ国の提出した計画の概要が配布され、関心のあるメンバーはこれに基づいて技術協力を提供する国にコンタクトし技術協力計画を進めていくことになりました。

b)TRIPS履行宣言

本会合において、

  • (1) APEC加盟全メンバーが2000年にTRIPS履行宣言を行うこと
  • (2) それを視野に入れた、簡易形式の情報交換を行うことが議長より提案され、承認されました。
2. 迅速な権利付与のための手続きの標準化

項目d:周知商標(リード国:タイ)

[関連条文]
パリ条約6条の2
TRIPS16条

[関連するフォーラム]
WIPO/SCT

<目的と概要>
周知商標の保護は、パリ条約上の義務であり、また、TRIPS協定においても規定されています(パリ条約6条の2、TRIPS協定16条)。しかしながら現状は、周知商標の保護のレベルや周知の定義自体が各国まちまちで、その問題が指摘されています(この点はWIPOにおいても商標等に関する常設委員会(SCT)で議論されている)。IPEGでもAPEC域内の統一的運用、保護の確立を目指し議論を進めており、まず、周知商標の保護の運用に関する質問票による調査を行っています。

<今回の議論>
今回、12のメンバーからの回答の集計がタイから配布されました。残りの回答も集計された後、その検討に基づき、タイが次回IPEGで今後の議論の進め方について提案をすることとなりました。

周知商標データベース
我が国より、実際の周知商標を集めるという帰納的アプローチとして、JPOが公開予定の周知商標データベースについて説明しましたが、各国からは、その法的性格、周知の基準等について多くの質問がなされ、我が国はデータベース作成のメリット・デメリットについて今一度整理をすることになりました。

項目e-1:商標出願メールボックス→商標電子出願に関する情報交換(リード国:米国)

<概要>
商標メールボックスは、米国が提唱したAPEC地域独自の制度で、出願人がAPEC内の1の官庁に商標出願をした場合、当該官庁によって出願書類が各指定メンバーの官庁に送付されるという制度。言い換えると、受理官庁が郵便局になるというものです。

<今回の議論>
情報技術の進展により電子出願が可能となってきたことにより、メールボックス制度の必要性が低下してきたため、ひとまず議論を終了させることにして、代わりに、商標の電子出願を主眼とした情報交換を行うことになりました。

項目e-2:行政手続に関する情報交換(リード国:メキシコ)

[関連条文]
商標法条約(TLT)
特許法条約(案)(PLT)

<目的と概要>
本項目は、APEC域内における手続の標準化、簡素化を目指し、各国の手続きの調査を行い、APEC標準手続きのガイドラインの作成行うものです。現在のところ、各メンバーの現状における、特許・商標の出願時の要件、著作権の登録手続等の調査をほぼ完了し、この結果は本年7月からAPEC事務局のホームページにも掲載してあります。

<今回の議論>
この集計した調査結果を下に、メキシコがその分析と目標とする共通の行政手続きのガイドラインを提示しました。同ガイドラインは、

  1.  各メンバーを拘束するものではないこと
  2.  TLT等の国際条約との整合性を考慮すること等が本会合において確認されましたが、引き続き議論されること

となり、同国が11月末までに修正提案することとなりました。なお、我が国は、APECホームページで公開中の手続きに関する調査を日本語に翻訳してJPOのホームページに掲載することを表明しました。

項目e-3:IP情報モール(リード国:日本)

[関連するフォーラム]

WIPO/SCIT

三極会合

<目的と概要>
「IP情報モール」とは、日本の提案した計画で、知的財産情報の幅広い普及を目指して、各IP庁がインターネット上公開した法律・制度等の一般情報及び出願や権利に関する権利情報等に容易にアクセス可能とした、IP情報網を構築するものです(現在はJPOのホームページ(http://www.jpo.go.jp/kanren_e/linkapec.htm)に、各IP庁のホームページをリンクした"Quick-link Matrix"が掲載されている)。IP情報モールをよりユーザが望む形態に近づけるため、現在IP情報に関するユーザーニーズ調査を各メンバーが行っている。

<今回の議論>
我が国より調査結果に基づいたIP情報モールの改善提案(暫定版)を説明した。提供する情報項目の柔軟性、我が国より提供する技術協力等について議論されました。まだ、各メンバーからの調査結果少ないため、今後集まる調査結果も踏まえ我が国は、12月末までに修正提案を行うことになりました。

項目e-4:商標出願様式の標準化

[関連条文]
商標法条約(TLT)

これはシンガポールにより今回初めて提起されたものです。ASEANにおいて商標出願様式の標準化について検討しているところ、同国より、APECにおいても同様の問題の検討についての提案がありました。次回会合までに、TLTの様式も考慮して、同国が共通様式案を作成することになりました。

3. 権利侵害に対する効果的な権利行使の確保

項目f:エンフォースメント(リード国:メキシコ)

<目的と概要>
IPRの効果的なエンフォースメントを確保するためAPEC域内の共通の指導原則を作成することを目的としたものです。

<今回の議論>
本会合では、各国のエンフォースメント制度の調査について15のメンバーが回答をした旨が報告され、今後全部の回答が出そろった時点で調査結果の公開を検討することとされました。また、今後の進めた方についてメキシコが各メンバーのコメントに基づいて11月末までに修正提案を提出し、事例研究を行うこととなった場合は、来年3月までに各メンバーが事例を出し合うことが合意されました。

エンフォースメントに関する情報交換
今回、豪州よりエンフォースメントに関する情報交換をIPEGで行うことが提案、承認されました。

4. 知的所有権政策の対話の深化、法令等の現状調査

項目a:新規政策対話(バイオテクノロジー)

[関連条文]
TRIPS27条3(b)

今回、提案国の豪州が修正提案書と質問票を提出してきました。
本分野の保護に関しては、TRIPS協定においても1999年末までに規定の見直しを行うことになっていますが(TRIPS27条3(b)参照)、豪州からは、

  • IPEGにおいてこの問題を取り扱うのは技術協力を主に目的としたものである旨の説明、および、
  • 豪主催の研修についてのアナウンスがありました。

結果として、各メンバーは、

  • 上記提案書と質問票、及び、技術協力に対する見解について、10月までにコメントを出すこと
  • 研修については、興味のあるメンバーが豪に接触することとなりました。

項目a:新規政策対話(電子商取引)

[関連するフォーラム]
APEC/電子商取引タスクフォース

APECにおいても昨今話題の電子商取引に関するタスクフォースが本年より結成されています。電子商取引にもIPRに係る側面(ドメインネーム、デジタル時代の著作権、等)があるので、IPEGも同タスクフォースと情報交換をすべきであるとの提案が豪州からなされ、同国が窓口となることになりました。

項目b:法令等の調査(リード国:豪州)

<目的と概要>
各メンバー国におけるIPR関連の制度・運用の調査を行っていますが、すでに法令・規則に関する調査を完了し(JPO又はAPEC事務局のホームページ(http://www.apecsec.org.sg/ipr/ipr.html)参照)、現在は判例及び行政ガイドラインについて調査を行っています。

<今回の議論>
途上国を中心にまだ調査の完了していないメンバーがありますが、これらに対してはAPEC予算を用いてコンサルタント会社に調査を依頼することとなり、関心のあるメンバーは、豪州と連絡をとることとなりました。

項目c:IPR関係者連絡先リスト(リード国:豪州)

<目的と概要>
IPRユーザがIPRに関する情報を得るための官民学のIPR関係者の連絡先リストが完成しており、APEC事務局のホームページに掲載されております。またエンフォースメントの情報交換等のための執行官リスト(非公開)が作成されています。

<今回の議論>
連絡先リストを宣伝するために、雑誌等に挟んで頒布するためのパンフレットのデザインを豪州が提案し、一部修正されたのち合意されました。これを20000部印刷し、各国に配布することになりました。

その他、豪州から法改正に関する情報交換機構、IPRの一般への普及啓蒙、WIPOとの連携について、メキシコから地理的表示について、米国から技術協力を行う際の考え方について、等のペーパーが提出され活発な議論されました。
また、我が国から来年2月22日~23日に福岡において、官民共同シンポジウムを開催する予定であることも発表され、ABACの代表も招聘することとしました。そして引き続き2月25~26日に、第8回APEC知的所有権専門家会合も開催することを表明しました。

戦う事務局

「戦う事務局。英文議事録作成の作業は会議の終了後も毎晩未明まで行われる」

APEC in 新加坡<議場外報告>

寒い熱帯の先進国

シンガポールは、今夏で、独立後33年になります。この短期間に急成長し既に先進国の仲間入りをしており、今では平均収入も日本人とほぼ同等です。貿易の中心地であるために世界中の品物が集まるので、欲しいものは何でも手に入ります。外気温は赤道近くなので、高いはずですが、建物の中は冷房で寒いくらいです。隣の建物に行くのにも、冷房の効いた地下道か、渡り廊下を通るので暑さを感じることがありません。

シンガポール マーライオンの写真

APEC事務局

APEC事務局は、緑豊かなシンガポール市の郊外にある高層ビルを間借りしており、会議の行われた19階からは、眼下に遙か遠くに観光名所のセントーサ島も見られます。
APEC事務局の運営は、APEC加盟メンバー国から来ている約20人ほどのDirectorを中心に業務が行われており、世界経済の約6割を占める地域フォーラムの事務局としては比較的小規模という印象です。ただし、個々の職員の職務環境は快適そうで、職務スペースは秘書の方でも筆者よりかなり広いと感じました。

APEC英語

APECにおいては英語が唯一の公用語です。もっとも、これは文字言語として把握した場合。シンガポール英語やオーストラリア英語など、耳で聞いた場合、同じ言語とは思えないことも多くあります。かくいう筆者の英語も彼らからすれば、ジャパニーズ英語なのでしょう。

[APEC知的財産権分野の活動]からリンク

お問い合わせ

特許庁総務部国際課

電話 (代表)03-3581-1101(内線)2568

お問い合わせフォーム