ここから本文です。
特許庁総務部国際課
本年2月25日及び26日、福岡県北九州市小倉において、APEC(アジア太平洋経済協力)の知的所有権専門家会合(IPEG:Intellectual Property Rights Experts Group)が開催されました。同会合は96年4月の第1回会合以来、これで第8回目ですが、日本での開催は96年8月の東京に続いて2度目となります。
なお、本会合(IPEG VIII)直前の2月22日及び23日には、APEC地域からの官民の知的所有権専門家を集めた、「APEC/ABAC共同知的財産権シンポジウム」も開催されました。(なお、「ABAC(APECビジネス諮問委員会)」とは、民間部門の有識者からなるAPECへの諮問機関です。)同シンポジウムでは、経済のグローバル化、情報技術の発展に対応した知的所有権制度や、現在の知的所有権分野における大きな課題の一つである権利の執行(エンフォースメント)等、将来の知的所有権制度のあり方について、盛んな議論が行われました。
また、IPEG VIIIの前日には、日本文化の理解と参加者の親善とを兼ねて、北九州市内でのエクスカーションを行い、安川電機工場の視察、小倉城見学などを行いました。
今回の会合(IPEG VIII)には、昨年の11月より正式メンバーとなったペルー、ロシア、ベトナムを含む21のメンバー国・地域のうち、15の国・地域から知的所有権専門家の代表が参加しました。今回の会合は特にシンポジウムとの共同開催であったこともあり、メキシコ、ニュージーランド、フィリピン、シンガポールからは特許庁の長官が、また、タイ、米国からも副長官クラスが来日しました。
知的所有権専門家会合(IPEG)の共同行動計画は、1995年の大阪首脳会合での合意(大阪行動指針)に基づいて作成されたもので、その概要については、以前の本誌でお伝えしている通りです(平成8年1月号、5月号、10月号、9年6月号、11月号、10年5月号・11月号を参照)。
その中でも、今回の会合の大きな目玉の一つは、TRIPS協定の履行に向けた情報交換と技術協力であったといえるでしょう。WTO体制への協力・支援はAPECの大きな目的の一つでありますが、知的所有権分野においても、WTO/TRIPS協定の履行に向けて共同行動を推進していくことは、上記の大阪行動指針でもうたわれています。APECでは、2000年1月1日までにすべての加盟メンバーがTRIPS協定に整合するように国内法を整備することを目標としていますが、現段階では、いくつかの途上国において、未だ国内法の準備・検討作業中であるメンバーもあるというのが現状です。このため、TRIPS協定の履行に向けた行動は、今年のIPEGの活動の中心的な課題になると思われます。
次に各項目について本会合での議論を簡単に紹介いたします。
上記のとおり、すべてのAPECメンバーが今年中にTRIPS協定に整合した国内法を整備することは、IPEGの重要なタスクの1つです。ただし、APECは、その設立以来からの趣旨として、各メンバーの自主性を尊重した相互協力をベースとしたフォーラムであり、必ずしも交渉等によって決着を図るという性質のものではありません。したがって、各メンバー間の対話を促進し、必要に応じて技術協力を行っていく、というプロセスが非常に大切になります。
そこで、本会合で打ち出された行動計画は大きく2つのものがあります。
IPEGでは、権利の付与の側面からは、周知商標の保護、標準的で簡素な出願登録手続、等のテーマを検討しています。
IPRのエンフォースメントは、先進国・途上国を問わず、現在のIPR関係者の最大の関心事のひとつでしょう。背景としては、経済のボーダレス化が進んできたことに加えて、東アジア、東南アジア諸国を始め、途上国においても近年めざましい工業化が進展してきているのに対して、それと対応する形での実効性あるIPR制度の実効性ある運用が確立しているとは言い難い状況があるようです。
IPEGでもこの点に着目し、当初からエンフォースメントに関する検討を行ってきており、各メンバーの法制度の実体実態調査がほぼ完了しつつあります。当初、今回の会合では、豪州から、次の段階の共同行動のとしては、各メンバーにおける侵害事件等についての事例に基づく比較研究を行いながら、あるべき指導原則の確立を目指すことを目標にしていましたが、リード国のメキシコを始め、そうした事例を十分に収集することの困難性が指摘されました。が検討されました。
リード国のメキシコも、豪州の指摘するこのから提案された情報交換が指導原則の確立にも有用であることを認め、こうした議論に基づき、エンフォースメントについては今一度作業計画を見直し、メキシコが5月末までに新たな作業計画を提案することになりました。
日本から「IP情報モール」についてのプレゼンテーションを行いました。IP情報モールについては、特許庁のホームページにアップロードされており(http://www.jpo.go.jp/kanren_e/linkapec.htm)、APEC各メンバーのIP庁のホームページに容易にアクセスできるので、ご存じの方も多いものと思います。今回の会合ではそれに加えて、統一モデル画面を用いて、各国に出願された特許出願を検索、表示するデモを行いました。日本の企業からも特にアジア諸国における出願、権利情報を簡便に知りたいというニーズは強く、このような統一画面を用いたシステムはユーザの期待に応えるものとなるでしょう。
その他に、今回の会合では、バイオテクノロジーや地理的表示の問題、また、情報技術の発展を背景に、電子出願制度や電子商取引、等が話しあわれました。
なお、次回会合(IPEG IX)については、メキシコが同国第2の都市グアダラハラで、知的所有権セミナーと同時期に、本年の7月14日から17日に開催することが合意されました。
また、来年2月に札幌で技術移転をテーマに産官学のシンポジウムを開催することが承認されました。
[APEC知的財産権分野の活動]からリンク
[更新日 1999年10月27日]
お問い合わせ |
特許庁総務部国際課地域政策室 電話:03-3581-1101 内線2568 |