第Ⅴ部 優先権  第2章 国内優先権

第2章 国内優先権

1. 概要

特許法第41 条に規定される特許出願等に基づく優先権(以下この章において「国内優先権」という。)制度とは、既に出願した自己の特許出願又は実用新案登録出願(以下この章において「先の出願」という。)の発明を含めて包括的な発明としてまとめた内容を、優先権を主張して特許出願(以下この章において「後の出願」という。)をする場合には、その包括的な特許出願に係る発明のうち、先の出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下この章において「当初明細書等」という。)に記載されている発明について、新規性、進歩性等の判断に関し、出願の時を先の出願の時とするという優先的な取扱いを認めるものである。

本制度により、基本的な発明の出願の後に、その発明と後の改良発明とを包括的な発明としてまとめた内容で特許出願をすることができ、技術開発の成果が漏れのない形で円滑に特許権として保護されることが容易になる。また、本制度により、先の出願を優先権の主張の基礎とした特許協力条約(PCT)に基づく国際出願において日本を指定国に含む場合(PCT第8条(2)(b)。いわゆる「自己指定」の場合)にも、優先権の主張の効果が我が国において認められることになる。

2. 国内優先権の主張の要件及び効果

2.1 国内優先権を主張することができる者

国内優先権を主張することができる者は、特許を受けようとする者であって、先の出願の出願人である(第41条第1項本文)。

したがって、先の出願の出願人と後の出願の出願人とが後の出願の時点において同一であることが必要である。

なお、出願人は、先の出願について仮専用実施権を有する者があるときは、後の出願の際に、その者の承諾を得ていることが必要である(同条第1項ただし書)。

2.2 国内優先権の主張を伴う後の出願ができる期間

国内優先権の主張を伴う後の出願ができる期間(優先期間)は、原則として、先の出願の日から1年である(第41条第1項第1号)。

2.3 国内優先権の主張の基礎とすることができる先の出願

次に掲げる(ⅰ)から(ⅳ)までのいずれかに該当する場合を除き、先の出願は、国内優先権の主張の基礎とすることができる。なお、意匠登録出願を国内優先権の主張の基礎とすることはできない(第41条第1項)。

なお、パリ条約による優先権を主張する際には、優先権の主張の基礎とすることができる出願は、パリ条約の同盟国における最初の出願のみであるが(「第1章 パリ条約による優先権」の2.3.2参照)、国内優先権の主張の基礎とされる先の出願は、我が国における最初の出願である必要はない。

2.4 国内優先権の主張の効果

国内優先権の主張を伴う後の出願に係る発明のうち、その国内優先権の主張の基礎とされた先の出願の当初明細書等に記載されている発明については、以下の(ⅰ)から(ⅵ)までの実体審査に係る規定の適用に当たり、当該後の出願が当該先の出願の時にされたものとみなされる(第41条第2項)。なお、国内優先権の主張を伴う後の出願について、経済安全保障推進法の規定により国内優先権の主張の基礎とされた先の出願が却下された場合には、当該国内優先権の主張は、その効力を失うものとする(経済安全保障推進法第82条第1項)。

なお、国内優先権の主張を伴う後の出願についての、実体審査に係るその他の条文の規定(例えば、第32条、第36条)の適用に当たっては、当該後の出願の出願時を基準として判断される。国内優先権の主張を伴う後の出願が、第29条の2の先願として当該条文の規定が適用される場合については、「第III部第3章 拡大先願」の6.1.3を参照。

3. 国内優先権の主張の効果についての判断

3.1 基本的な考え方

3.1.1 国内優先権の主張の効果についての判断が必要な場合

審査官は、国内優先権の主張の基礎となる先の出願の出願日と後の出願の出願日との間に拒絶理由の根拠となり得る先行技術等を発見した場合のみ、優先権の主張の効果が認められるか否かについて判断すれば足りる。国内優先権の主張の効果が認められるか否かにより、新規性、進歩性等の判断が変わるのは、先の出願の出願日と後の出願の出願日との間に拒絶理由で引用する可能性のある先行技術等が発見された場合に限られるからである。

審査官は、国内優先権の主張の効果について判断が容易である場合等に、先行技術調査に先立ってその判断をしてもよい。先行技術調査に先立って優先権の主張の効果について判断をすることで、先行技術調査の時期的範囲が限定されることにより、効率的な審査に資する場合もあるからである。

3.1.2 判断の対象

審査官は、国内優先権の主張の効果についての判断を、原則として請求項ごとに行う。ただし、一の請求項において発明特定事項が選択肢で表現されている場合は、審査官は、各選択肢に基づいて把握される発明について国内優先権の主張の効果を判断する。さらに、新たに実施の形態が追加されている場合には、審査官は、請求項に係る発明のうち新たに実施の形態が追加された部分について、それ以外の部分とは別に国内優先権の主張の効果を判断する。

3.1.3 先の出願の当初明細書等に記載した事項との対比及び判断

3.2 部分優先又は複合優先

部分優先又は複合優先についての取扱いは、「第1章 パリ条約による優先権」の3.2に準ずる。

3.3 国内優先権の主張の基礎とされる先の出願が優先権の主張を伴う場合の取扱い

国内優先権の基礎とされる先の出願(第二の出願)が、その出願の前になされた出願(第一の出願)に基づく国内優先権の主張、パリ条約による優先権の主張又はパリ条約の例による優先権の主張を伴っている場合に、第二の出願の当初明細書等に記載された事項のうち第一の出願の当初明細書等に既に記載されている発明については国内優先権の主張の効果は認められない。第一の出願に記載された発明について再度(すなわち累積的に)優先権を認めるとすると、実質的に優先期間を延長することになるからである。したがって、第二の出願を国内優先権の基礎とした場合は、第一の出願の当初明細書等に記載されていない部分のみについて、国内優先権の主張の効果が認められる(第41 条第2 項及び第3 項)。なお、第一の出願も、国内優先権の主張、パリ条約による優先権の主張又はパリ条約の例による優先権の主張の基礎とされている場合の取扱いは、「第1章 パリ条約による優先権」の3.2.2(2)に準ずる。

4. 国内優先権の主張の効果についての判断に係る審査の進め方

国内優先権の主張の効果についての判断に係る審査の進め方は、パリ条約による優先権の主張の効果についての判断に係る審査の進め方に準ずる。(「第1章 パリ条約による優先権」の4.参照)。

5. 留意事項

5.1 国内優先権の主張を伴う出願の分割又は変更

国内優先権の主張を伴う後の出願の分割出願又は国内優先権の主張を伴う実用新案登録出願から特許出願への変更出願については、原出願において主張した国内優先権が主張されたものとみなされる。もとの特許出願について提出された国内優先権を証明する書面又は書類は、新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなされるからである(第44条第4項又は第46条第6項)。

5.2 国内優先権の主張の基礎とされた出願の取下げ

別添表:特許協力条約に基づく国際出願と優先権との関係 ※先の出願から1年4月経過後であっても優先日から30月経過するまで、優先権の主張を取り下げることはできるが、みなし取下げとされた先の出願が再度係属することはない。
優先権の主張の基礎となる先の出願 優先権の主張を伴う後の出願 主張することができる優先権 先の出願のみなし取下げ時期 優先権の主張取下げ可能期間
国内出願 日本を指定国に含む国際出願(自己指定) 国内優先権(PCT第8条(2)(b)、特許法第184条の3第1項及び第41条第1項) 先の出願の日から1年4月経過時(特許法第42条第1項及び特許法施行規則第28条の4第2項) 優先日から30月経過前(※)(PCT規則90の2.3(a)及び特許法第184条の15第1項)
日本及び他国を指定した国際出願 国内出願 国内優先権又はパリ条約による優先権(出願人の選択)(特許法第184条の3第1項、第184条の15第4項及び第41条、又は、パリ条約第4条A) 国内優先→「国内処理基準時」、又は、「国際出願日から1年4月経過時」のいずれか遅いとき(特許法第184条の15第4項、第42条第1項及び特許法施行規則第38条の6の5)パリ条約→なし 国内優先→先の出願の日から1年4月経過前(特許法第42条第2項及び特許法施行規則第28条の4第2項)パリ条約→取下げ不可
日本を指定国に含む国際出願 パリ条約による優先権(PCT第8条(2)(a)及びパリ条約第4条A) なし 優先日から30月経過前(PCT規則90の2.3(a))