第Ⅵ部 特殊な出願 第4章 先願参照出願
特許法第38条の3は、特許を受けようとする者が、願書に明細書及び必要な図面を添付することなく、その者が先に出願した特許出願(以下この章において「先の特許出願」という。)を参照すべき旨を主張する方法により、出願を行う特許出願(以下この章において「先願参照出願」という。)に関する規定である。
同条は、先願参照出願の願書の提出時に、先の特許出願を参照すべき旨を主張することで、願書に明細書及び図面の添付がなくても、願書の提出日から4月以内に明細書等提出書(特許法施行規則第27条の10第6項様式第37の2)に添付された明細書及び図面が提出されれば、この提出された明細書及び図面が先願参照出願の願書に添付した明細書及び図面とみなされ、願書の提出日を出願日と認定し得る旨を規定している。
先願参照出願の規定は、特許法条約(PLT)における出願日の認定要件に関する、先にされた出願の引用による明細書及び図面の代替(PLT第5条(7)(a)及びPLT第2規則(5)(a))についての取扱いを定めたものである。
先願参照出願が適法になされたと認められるためには、形式的要件(2.1参照)が満たされる必要がある。先願参照出願が形式的要件を満たしていない場合は、出願却下の対象となる。
先願参照出願が形式的要件を満たす場合は、実体的要件(2.2参照)によって出願日が認定される。
先願参照出願をすることができる者は、先の特許出願の出願人である者又はその者の前権利者若しくは承継人である(第38条の3第1項)。
先願参照出願とすることができない出願は、外国語書面出願(第36条の2)、分割出願(第44条)、変更出願(第46条)及び実用新案登録に基づく特許出願(第46条の2)である(第38条の3第1項及び同条第6項)。
先の特許出願とすることができる出願は、我が国又は外国においてされた特許出願である。
出願人は、以下の(i)から(iii)の書類を、先願参照出願の願書の提出日から4月以内に提出しなければならない(第38条の3第3項並びに特許法施行規則第27条の10第3項及び第4項)。
先願参照出願の明細書又は図面に記載した事項が、先の特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内にある場合は、先願参照出願の出願日は、先願参照出願の願書の提出日になる。そうでない場合は、先願参照出願の出願日は、明細書及び図面の提出日になる。
審査官は、先願参照出願の明細書又は図面に記載した事項が、先の特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内にあるか否かの判断を、先願参照出願の明細書又は図面(注1)に記載した事項と、先の特許出願の明細書等(注2)に記載した事項とを対比することにより行う。
先願参照出願の明細書又は図面が、先の特許出願の明細書等について補正されたものであると仮定した場合に、その補正が先の特許出願の明細書等との関係において、新規事項を追加する補正であると審査官が判断した場合は、先願参照出願の出願日は、先願参照出願の明細書又は図面が提出された日になる。なお、新規事項を追加する補正であるか否かの判断については、「第IV部第2章 新規事項を追加する補正」を参照。
先の特許出願の明細書等とその翻訳文(2.1.4(iii)参照)の内容は一致している蓋然性が極めて高いので、審査官は、通常は、先の特許出願の明細書等の翻訳文に基づいて判断すれば足りる。審査官は、先の特許出願の明細書等とその翻訳文との一致性に疑義が生じた場合(注)にのみ、先の特許出願の明細書等に基づいて判断する。
この場合において、審査官は、拒絶理由通知、拒絶査定等をするときは、先願参照出願の明細書又は図面に記載した事項が、先の特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内にないと判断した具体的な理由、明細書及び図面の提出日を出願日として認定した旨、並びに認定した出願日を、拒絶理由通知、拒絶査定等に明記する。
手続補正書の提出がされていない場合であっても、審査官は、(3)に示した意見書の内容を考慮することにより、出願日を先願参照出願の願書の提出日とすべきであると判断した場合は、先願参照出願の願書の提出日を出願日と認定して審査を進める。