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令和7年4月
調整課審査基準室
審査段階において、新規性・進歩性等の拒絶理由通知に対して、「除くクレーム」※とする補正が行われることがあります。
※「除くクレーム」とは、請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいいます。
「除くクレーム」とする補正により、通知された新規性欠如等の拒絶理由を解消できる場合があります。
ここで、特許発明の技術的範囲を定める際には、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとされています(特許法第70条第2項)。そして、「除くクレーム」における「除く」部分が、出願当初の明細書等に明示的な記載のない事項、例えば拒絶理由通知で引用された文献中の表現等に基づいて記載されている場合には、一般的な発明特定事項の場合とは異なり、明細書及び図面を考慮して当該部分の意義を解釈することができません。そのような場合には、特許権者が想定しているとおりの技術的範囲とはならない可能性もあります。
また、「除くクレーム」における「除く」部分の内容によっては、審査段階において、以下のとおり、進歩性欠如(特許法第29条第2項)として拒絶査定される可能性があるほか、明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)や新規事項の追加(特許法第17条の2第3項)の拒絶理由が通知される可能性がある点にも注意してください。
特許・実用新案審査基準にも記載されていますが、新規性等の拒絶理由に対して「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができる発明は、拒絶理由で指摘された引用発明と比較すると技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有するが、たまたま引用発明と重なるような発明です。引用発明と技術的思想としては顕著に異なる発明ではない場合は、「除くクレーム」とすることによって進歩性欠如の拒絶理由が解消されることはほとんどないと考えられます。
そのため、たとえ引用発明と重なる態様を除くような補正を行ったとしても、引用発明の内容だけでなく技術常識も把握している当業者の立場からみた場合には、引用発明に基づき依然として容易に想到し得ると審査官に判断され、拒絶査定される場合があります。
「除くクレーム」とする補正が新規事項の追加にあたるか否かの判断は、その他の一般的な補正と同様に、補正が「当初明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより行われます(知財高判平成20年5月30日(平成18年(行ケ)10563号)「ソルダーレジスト」大合議判決を参照)。「当初明細書等に記載した事項」とは、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項です。
また、出願人は、補正をしようとするときは、当該補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであることを十分に説明することが要請されます(特許・実用新案審査ハンドブック「4203 補正をする際の出願人の留意事項」を参照)。
特に、出願人が「除くクレーム」により進歩性欠如の拒絶理由を解消したと主張する場合には、請求項に係る発明が、その技術的思想が引用発明の技術的思想と顕著に異なるものではない発明から、引用発明の技術的思想と顕著に異なるものへと変化している可能性があり、当該補正により新たな技術事項が導入されているという疑義が存在します。
したがって、「除くクレーム」とする補正を行う場合には、当該補正により技術的思想が変化していないことや、当該補正は新規性欠如の拒絶理由を解消するためのものであって、補正前から進歩性はあったこと等、当該補正が新規事項の追加にはあたらない根拠を意見書等で説明するよう留意してください。
「除くクレーム」とする補正を行う場合には、以下の観点で明確性が欠如しないよう留意してください。
[更新日 2025年4月3日]