仮想空間及び非代替性トークン(NFT)に関する指定商品・指定役務のガイドライン
令和6年3月29日
特許庁審査業務部商標課
近年、仮想空間のビジネスへの活用が進み、仮想空間に関する商品・役務を指定する商標登録出願が増加傾向にあります。
また、ニース協定に基づく「商品・サービス国際分類表〔第12-2024版〕アルファベット順一覧表」においては、第9類「downloadable virtual clothing」(日本語訳「ダウンロード可能な仮想被服」)及び第35類「online retail services for downloadable virtual clothing」(日本語訳「オンラインによるダウンロード可能な仮想被服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」)等が追加されました。
これらを受け、仮想空間及び非代替性トークン(NFT)に関する指定商品・指定役務のガイドラインを、以下のとおり作成し、現在の運用を明確化しました。
なお、同旨のものとして、商標審査便覧46.02「仮想空間及び非代替性トークン(NFT)に関する指定商品・指定役務について」(PDF:276KB)を公表しています。
1. 仮想商品について
(1)定義
本取扱いにおいて、「仮想商品」とは、「主に仮想空間(注1)上で商品等の形状を表示するためのデジタルデータ」をいいます。「仮想商品」の一例として、「仮想被服」が挙げられ、これは、「主に仮想空間上で被服の形状を表示するためのデジタルデータ」をいいます。
「仮想商品」は、どのような商品等の形状を表すものか不明確であり、広範であるため、単独では指定商品又は指定役務の表示として採用できません。また「仮想被服」は、「被服」を模したものと考えられるとしても、世間一般に既成語として知られた語ではなく、やはり不明確であるため、単独では指定商品又は指定役務の表示として採用できません。
ただし、例外として、諸外国との運用の調和等の観点から、以下(2)の表示は採用可能とします。
(注1)仮想空間とは「多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間」をいいます。出典:令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)4頁
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/downloadfiles/report/kasou-houkoku.pdf
(2)採用できる表示及び類似群コード(注2)
①本取扱いの公表以降採用可能とするもの
- 第9類「ダウンロード可能な仮想被服」(英:downloadable virtual clothing)(ニース表示(注3))11C01 24E02 26D01
- 第35類「オンラインによるダウンロード可能な仮想被服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(英:online retail services for downloadable virtual clothing)(ニース表示)11C01 24E02 26D01 35K08 35K15 35K99
(注2)区分・表示・類似群コードは、今後、国際分類表の変更等に伴い変更される可能性があります(以降同じ)。
(注3)「ニース表示」とは「商品・サービス国際分類表 アルファベット順一覧表」に掲載されている表示をいいます。
②本取扱いの公表以前から引き続き採用可能なもの(例)
- 第9類「仮想空間で被服を表示するためのダウンロード可能なコンピュータプログラム」(英:downloadable computer programs for displaying clothing in virtual environments)11C01
- 第9類「仮想空間で被服を表示するためのダウンロード可能な画像ファイル」(英:downloadable image files for displaying clothing in virtual environments)24E02 26D01
- 第41類「仮想空間で被服を表示するためのオンラインによる画像の提供」(英:providing online images for displaying clothing in virtual environment)41E02
- 第42類「仮想空間で被服を表示するためのコンピュータプログラムの提供」(英:providing computer programs on data networks for displaying clothing in virtual environments)42X11
上記①及び②に挙げた表示はいずれも「被服」の部分について、類似商品・役務審査基準等に掲載されている商品(すなわち、単独で指定商品の表示として採用可能な表示)に置き換えることが原則可能です。
以下、「被服」又は「被服」を置き換えられる任意の商品表示を、「○○」で表します。
(3)採用できない表示
以下①から③のいずれかに該当する表示は採用できません。
①「○○」部分が広範で不明確な表示
仮想商品と解釈される表示においては、「○○」は、原則として、単独で指定商品の表示として採用可能な表示である必要があります(前記(2)参照)。「○○」の部分が広範で不明確な場合には採用できません。
(例)
- 第9類「ダウンロード可能な仮想商品」(英:downloadable virtual goods)
- 第9類「ダウンロード可能な仮想生活用品」(英:downloadable virtual livingware)
- 第9類「仮想空間で商品を表示するためのダウンロード可能なコンピュータプログラム」(英:downloadable computer programs for displaying goods in virtual environments)
- 第9類「仮想空間で商品を表示するためのダウンロード可能な画像ファイル」(英:downloadable image files for displaying goods in virtual environments)
- 第35類「ダウンロード可能な仮想商品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(英:retail services for downloadable virtual goods)
- 第35類「ダウンロード可能な仮想飲食料品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(英:retail services for downloadable virtual foods and beverages)
- 第41類「仮想空間で商品を表示するためのオンラインによる画像の提供」(英:providing online images for displaying goods in virtual environment)
- 第42類「仮想空間で商品を表示するためのコンピュータプログラムの提供」(英:providing computer programs on data networks for displaying goods in virtual environments)
②第9類「ダウンロード可能な仮想○○」又は第35類「ダウンロード可能な仮想○○の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と紛らわしい表示
仮想商品には、一般的に定着した定義がいまだ存在せず、「仮想○○」のような語が広く使用されているともいえません。したがって、前記(2)①に挙げた表示に関しては、これらと一致する表示のみ明確なものと判断し、紛らわしい表示は、原則として採用できないものとします。
(例)
- 第9類「仮想○○」、「仮想の○○」、「仮想空間用○○」、「仮想空間で再現された○○」、「仮想空間における○○」等
(英:「virtual ○○」、「virtual goods featuring ○○」、「virtualized ○○」、「virtual equivalent of ○○」等)
「仮想○○」以外の表示は、先頭に「ダウンロード可能な」を加えた場合でも、「ダウンロード可能な仮想○○」と一致しないため採用不可とします。つまり、例えば、第9類「仮想被服」、「仮想の被服」、「ダウンロード可能な仮想の被服」等は採用できません。
- 第35類「仮想○○の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、「仮想の○○の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、「仮想空間用○○の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、「仮想空間で再現された○○の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、「仮想空間における○○の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等
(英:「retail services for virtual ○○」、「retail services for virtual goods featuring ○○」、「retail services for virtualized ○○」、「retail services for virtual equivalent of ○○」等)
「仮想○○の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」以外の表示は、先頭に「ダウンロード可能な」を加えた場合でも採用不可とします。
③第9類以外の商品区分で指定された、仮想商品と解釈しうる表示
ダウンロード可能な仮想商品は、第9類以外には分類されません。したがって、第9類以外の区分において「ダウンロード可能な仮想○○」及び仮想商品と解釈しうる表示「仮想○○」が指定された場合、採用できません。
(例)
- 第25類「ダウンロード可能な仮想被服」(英:downloadable virtual clothing)
- 第25類「仮想被服」(英:virtual clothing)
2. 仮想空間に関する指定役務について
(1)採用できる表示及び類似群コード
①仮想空間のプラットフォーム自体の提供に関する表示(例)
- 第38類「仮想空間におけるチャットルーム形式による通信」(英:providing chatrooms in virtual environments)(ニース表示)38A01
- 第38類「共同作業のための仮想空間におけるオンラインフォーラム形式による通信」(英:providing online virtual environment-based forums for work collaboration)38A01
第38類の前記の役務は、通信回線を提供するものです。
- 第42類「仮想空間のホスティング」(英:hosting virtual environments)(ニース表示)42X11
- 第42類「仮想空間における共同作業のためのソフトウェアプラットフォームのホスティング」(英:hosting software platforms for virtual environment-based work collaboration)42X11
第42類の前記の役務は、通信回線を通じて、プラットフォームを利用させるものです。
②仮想空間のプラットフォーム上での役務の提供に関する表示(例)
- 第35類「仮想空間における他人のためのプロダクトプレイスメントによるマーケティング」(英:marketing through product placement for others in virtual environments)(ニース表示)35A01 35A02 35B01
- 第36類「仮想空間で提供されるオンラインによる銀行業務」(英:online banking services rendered in virtual environments)(ニース表示)36A01
- 第41類「娯楽のための仮想空間において提供される模擬旅行の実施」(英:simulated travel services provided in virtual environments for entertainment purposes)(ニース表示)41F06
- 第41類「仮想空間における娯楽の提供」(英:entertainment services provided in virtual environments)(ニース表示)41E01 41E02 41E03 41E04 41E05 41F01 41F06 41G01 41G02 41G03 41G04 41K01
- 第41類「仮想空間を通じたオンラインゲームの提供」(英:online game services provided via virtual environments)41K01 41Z99
- 第41類「仮想空間を通じたオンラインゲームで利用されるゲーム内専用アイテムの提供」(英:providing in-game items especially for use in online games provided via virtual environments)41K01 41Z99
(2)区分・類似群コードの考え方
「仮想空間における△△」(以下、「△△」は任意の役務表示を表します。)の表示は、現実における「△△」と比較して、役務の目的や結果が変わらない場合、原則として「△△」と同じ区分に属し、同じ類似群コードが付与されます。
①仮想空間と現実とで役務の目的や結果が変わらず、同じ区分・類似群コードで採用できる例
- 第35類「仮想空間における広告業」(英:advertising for others in virtual environments)35A01
第35類「広告業」35A01と同じ区分・類似群コードで採用可能です。
- 第41類「仮想空間における音楽コンサートの上演」(英:presentation of music concerts in virtual environments)41E03
第41類「音楽コンサートの上演」41E03と同じ区分・類似群コードで採用可能です。
②仮想空間と現実とで役務の目的や結果が異なり、同じ区分・類似群コードでは採用できない例
第43類「飲食物の提供」(42B01)は現実の飲食を伴うが、「仮想空間における飲食物の提供」は現実の飲食を伴わず、役務の目的や結果が異なるといえます。
したがって、「仮想空間における飲食物の提供」は、第43類(42B01)では採用できません。代案としては、第41類「娯楽のための仮想空間における模擬レストランの提供」(英:simulated restaurant services provided in virtual environments for entertainment purposes)(41K01 41Z99)の表示が考えられます。
(なお、前記の代案及び類似群コードは本例についてのものであり、仮想空間と現実とで目的や結果が異なる役務が、全てこのような区分・表示・類似群コードで採用可能とは限りません。)
3. 非代替性トークン(NFT)に関する指定商品・指定役務について
(1)定義
「非代替性トークン(NFT)」とは、「偽造・改ざん不能のデジタルデータ」であり、ブロックチェーン上で、デジタルデータに唯一性を付与して真贋性を担保する機能や、取引履歴を追跡できる機能を有します(注4)。
また、当該語は、「アート作品など、複製でないことに価値があるものに、それが唯一のデータであることを証明する情報を埋め込んだもの」(注5)等の意味合いでも用いられています。
したがって、「非代替性トークン(NFT)」、「非代替性トークン」及び「NFT」は、単独ではその意味合いが特定できず不明確であるため、指定商品又は指定役務の表示として採用できません。ただし、以下(2)及び(3)のような表示であれば採用可能とします。
(注4)経済産業省「デジタル時代の規制・制度のあり方について」第4回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 事務局説明資料(2022年2月)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/004_05_00.pdf
(注5)デジタル大辞泉「NFT」(小学館 2024年3月19日最終閲覧)https://kotobank.jp/word/NFT-2783796
(2)採用できる商品表示及び類似群コード(例)
- 第9類「非代替性トークン(NFT)により認証されたダウンロード可能なデジタル画像ファイル」(英:downloadable digital image files authenticated by non-fungible tokens [NFTs])(ニース表示)24E02 26D01
- 第9類「非代替性トークン(NFT)生成用のダウンロード可能なコンピュータソフトウェア用アプリケーション」(英:downloadable computer software applications for minting non-fungible tokens [NFTs])(ニース表示)11C01
- 第25類「非代替性トークン(NFT)により認証された現実の被服」(英:clothing authenticated by non-fungible tokens [NFTs])(ニース表示)17A01 17A02 17A03 17A04 17A07
※「非代替性トークン(NFT)」、「非代替性トークン」及び「NFT」の語は相互に置き換え可能です。
(3)採用できる役務表示及び類似群コード(例)
- 第35類「非代替性トークン(NFT)により認証されたダウンロード可能なデジタル画像ファイルの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(英:retail services relating to downloadable digital image files authenticated by non-fungible tokens [NFTs])(ニース表示)24E02 26D01 35K15 35K99
- 第35類「非代替性トークン(NFT)により認証されたダウンロード可能なデジタル画像ファイルの買い手及び売り手のためのオンライン市場の提供」(英:provision of an online marketplace for buyers and sellers of downloadable digital image files authenticated by non-fungible tokens [NFTs])(ニース表示)35B01
- 第35類「非代替性トークン(NFT)により認証されたダウンロード可能なデジタル画像ファイルのオンライン市場への出品事務手続の代行」(英:listing of downloadable digital image files authenticated by non-fungible tokens [NFTs] in online marketplaces on behalf of others [office functions])35G03
- 第35類「デジタル画像ファイルの非代替性トークン(NFT)による認証取得のための事務手続の代行」(英:obtaining authentication by non-fungible tokens [NFTs] for digital image files on behalf of others [office functions])35G03
- 第35類「非代替性トークン(NFT)により認証されたデジタル画像ファイルの購入の代行」(英:purchasing of digital image files authenticated by non-fungible tokens [NFTs] on behalf of others)35B01
- 第36類「非代替性トークン(NFT)により認証された暗号資産の管理」(英:management of crypto assets authenticated by non-fungible tokens [NFTs])36A01
- 第42類「オンラインによるダウンロードが不可能な非代替性トークン(NFT)生成用のコンピュータソフトウェアの提供」(英:providing online non-downloadable computer software for minting non-fungible tokens [NFTs])(ニース表示)42X11
(4)採用できない表示
以下のような表示は、非代替性トークン(NFT)の意味合いが不明確であるため、いずれの区分でも採用できません。
①商品表示(例)
- 「非代替性トークン(NFT)」(英:non-fungible tokens [NFTs])
- 「非代替性トークン」(英:non-fungible tokens)
- 「NFT」(英:NFTs)
②役務表示(例)
- 「非代替性トークン(NFT)の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(英:online retail services for non-fungible tokens [NFTs])
- 「非代替性トークン(NFT)の買い手及び売り手のためのオンライン市場の提供」(英:provision of an online marketplace for buyers and sellers of non-fungible tokens [NFTs])
- 「オンラインによる非代替性トークン(NFT)の提供」(英:providing online non-fungible tokens [NFTs])
4. 適用日
本ガイドラインは、その公表日において特許庁に係属している商標登録出願、又は、公表日以降にされた出願であって、指定商品・指定役務中に、仮想空間及び非代替性トークン(NFT)に関する指定商品・指定役務を含む出願に適用します。
※公表日 令和6年3月29日
5. よくある質問(各質問を選択すると対応する回答にジャンプします。)
順次、追加します。
[更新日 2024年8月9日]
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