• 用語解説

ここから本文です。

Vol.46
広報誌「とっきょ」2020年11月25日発行号

知財活用企業紹介

CYBERDYNE株式会社

医療を根幹にした研究・開発で世界に新たな産業を作りだす

筑波大学での研究成果を産業へと繋げるために創立された大学発ベンチャー。世界が注目するシステムを世に送り出した同社に、研究・開発における知財の必要性や有効性について伺いました。

会社の写真

Company Profile

医療に対する研究の成果は、日常生活においても人を支える。

名称 CYBERDYNE株式会社
本社 茨城県つくば市学園南2-2-1
資本金 267億780万円(2019年3月31日時点)
従業員数 社員:151名(2020年3月31日時点)
事業内容 医療福祉機器および
医療福祉システムの研究開発など
   
SF作家が作り出した未来はすでに未来ではなくなった
CYBERDYNE logo and product

かつて、ロバート・A・ハイラインのSF小説『宇宙の戦士』に登場したことで、一躍話題となったパワードスーツという概念。
その後のSF小説や映画・アニメでも同じようなスーツはたびたび登場し、今なおSF好きな人にとっては、夢のスーツといえるでしょう。

しかし、これはすでにSFの世界の話ではなく、現代社会で実現されつつあります。
そんな夢を叶えた、まさに時代の最先端をいく企業こそがサイバーダイン株式会社。
同社は2004年に、筑波大学での研究成果を産業へと繋げるために、工学博士の山海嘉之教授が立ち上げた大学発ベンチャーです。
山海氏は、人工頭脳学、ロボット工学、情報学、医学などを融合した新たな学術分野「サイバニクス」の創生者であり、第一人者としても知られています。
医療現場での利用を想定しつつ、多角的な目線と複合的なアプローチに基づいた開発から生み出されたアイデアやシステムは、まさに知財の塊です。

そこで今回は、時代の最先端を駆け続けるサイバーダインの開発にかける思いや、その結果として勝ち取った知財に対する意識について、詳しくお話を伺いました。

世界初の装着型サイボーグ HAL®が世界に注目される最大の理由とは?
山海 嘉之 氏の写真
筑波大学教授にして、CYBERDYNE株式会社の
代表取締役 社長である山海 嘉之 氏。

「我が社の代名詞は世界初の装着型サイボーグHybrid Assistive Limb (HAL®)です。装着型ということもあり、よくパワードスーツのような紹介をされることがありますが、正確にはサイボーグ。元々のスタートラインが医療に基づいたものであり、自由に動かせる義手や義足の延長線上にあるものといえます。ですから、自分で操作・操縦をするのではなく、身体を動かすのと同じように、動かそうと考えるだけで反応することが最大の特徴です。
人は脳から指令を出し、神経を通して各所の筋肉を動かしていますが、HAL®はその信号を受信して、身体が動作するよりも早く作動しています。その結果、タイムラグを感じることなく、自然に人の動きをサポートできるのです。神経の伝達から、筋肉の収縮、関節の可動というものは、実はそれほど効率が良いものではありません。HAL®は、それぞれの動きに特化した専用設計とすることで、その効率を極限まで高めてあります。
ですから、脳からの信号を途中で横取りした状態からでも、身体の動きよりも早く作動することができるのです。」

知財を意識するのは、研究・開発のどの段階から?

「ロボットではなくサイボーグを開発するには、単なる機械工学や人工頭脳学の技術だけでは賄いきれません。
脳の信号を読み取り、分析するには脳科学や神経学が必要ですし、分析した結果はデータとして蓄積され、さらに解析しなければなりませんから情報科学も必要となる。さらに身体の構造を知るための運動生理学や再生医療についても知識を求められます。

これら複合的な視点で開発を進めるわけですから、あらゆる工程において、他社の知財に触れる可能性はとても高いものです。ですから、開発をはじめる段階から常に知財に関する専門家が会議にも同席しています。」

サイバーダインにとって「特許」とは何を意味する?

「我が社は大学発ベンチャーですから、社会への還元がポイントとなります。私たちの研究成果を評価していただくにあたって、『特許』とは特出したテクノロジーの証であり、先進性の証でもあるんです。
とはいえ、知財とは知識であり、技術に過ぎません。盗もうと思えばいくらでも盗めてしまうものです。産業スパイとはどこにでも存在するもの。本人にその気がなかったとしても、結果としてスパイ行為に繋がっていたりもします。例えば、大学で留学生を受け入れたとして、その学生が学んだことを就職先で活かしていたとしたら?そこには大学の研究成果が反映されているでしょう。もしかするとそれは特許を出願・取得しているシステムかもしれません。海外の企業が私たちの技術を流用して、安い人件費のもと、同じものを製作したとしたら、私たちよりも安価で製造が可能となってしまいます。
そういうとき、特許を侵害された企業は、どんな対処をするのでしょう?国際裁判で訴訟を起こしますか?それはそれで正しい判断かもしれませんが、膨大な手間と時間がかかりますね。ですから企業間の会話で和解に持ち込むことが理想なんです。具体的にどうするのかというと、こちらがパテントを握っていることを知らせ、その上で業務提携という形式に落ちつかせる。つまりOEM製品ということにするんです。

イメージ画像
医療用のデータをフィードバックして作られた、自立支援用のモデルもラインナップされている。
イメージ画像
HAL©医療用単関節タイプ。肘や膝など装着部位に適したアタッチメントで、各関節の集中的なリハビリテーションを提供。
イメージ画像
HAL©の挙動はシステムによって制御されており、重心や傾きなどをリアルタイムにモニター上で確認できる。

大袈裟にみえるかも知れませんが、知財の管理というのは本気の国際紛争も想定した上で取り組むべきものだと思います。
HAL®は医療用に開発を始めたものですが、そのシステムの利用には汎用性があります。医療現場や患者のみならず、様々な現場で活躍できるものなのです。例えそれが平和的な現場でなくても、HAL®は活躍してしまうでしょう。本来の用途から外れた使い方をされないためにも、知財の管理は大切なポイントだと考えています。」

サイバーダインの本質は、『人の生活』を支えることを目的とした研究・開発にあります。事業提携においても、相手のビジネスを加速させることができるかを第一に考え、産業としてうまく回せるかどうかを重視しているそうです。HAL®で培ったノウハウは、今後も様々な分野にフィードバックされていくことでしょう。

ページTOPへ

BACK NUMBER
広報誌「とっきょ」バックナンバー