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Vol.46
広報誌「とっきょ」2020年11月25日発行号

みんなのギモン?

モデル契約書とは?

オープンイノベーション促進のためのモデル契約書

オープンイノベーションが叫ばれる中、大企業等に納得できない行為を受けているスタートアップが少なからずいることが判明したことをうけ、公平な契約を結ぶための指南として特許庁がモデル契約書を作成しました。

モデル契約書を作成した理由は?

2019年6月に公正取引委員会が公表した製造業者のノウハウ・知財搾取を問題視した実態調査がひとつのきっかけです。
「営業秘密であるレシピの開示を強要されて、挙げ句に模倣品を製造されて取引を停止される」や「競合他社の工員に対して、自社の熟練工による技術指導を無償で実施させられた」など、不当な取引の実態が明らかになりました。製造業者3万社に対する書面調査の回収率は驚異の52.9%で、この数字から世の関心の高さが伺えます。このような公正取引委員会の調査で明らかになった企業間の技術取引に関する諸課題に対処すべく、モデル契約書の策定が特許庁と経済産業省の共同事業としてスタートしました。現在は公正取引委員会も連携しています。産業政策を所掌する経済産業省+特許庁と競争法を所管する公正取引委員会が歩調を合わせて対応することで、政府全体としてよりインパクトの高い取組になっていると感じています。

どんな特徴があるの?
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従来の契約ひな形との大きな違いは、具体的なビジネスストーリーが前段にあるということです。「契約」とは相手方と実行したい取引(ビジネス)を描き、それを実現する具体的なステップや取引条件を文字化したものです。ビジネスのバリエーションが無限にあるように、契約もまた決まった形などありません。

今回は、契約で目指すべき価値と取引シーンを設定して、そのケースにおいて最も理想と考えられる契約の在り方を「モデル」という言葉で表現しています。目指すべき価値とは「創出された発明の事価値を最大化すること」、想定したシーンは「放熱に関する新素材を開発したスタートアップと自動車部品メーカーの技術取引」です。共同研究が進むフェーズに合わせて4本の契約類型を作成しましたが、中でも「技術検証契約」を示したということは比較的新しい試みだと思います。

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オープンイノベーション・企業連携における技術取引や知的財産に係るリスクを事例で分かり易く解説し、リスクを回避するためのポイントを示しています。特許庁HPの「オープンイノベーションポータルサイト」からDLできます。

「技術検証」は、スタートアップの技術で大企業の事業アイデアが実現可能かを調査するものですが、検証ということもあり、無償で実施となることもあるようです。他方で、スタートアップ側には検証するための作業負担は確実に発生しているので、モデル契約書では適切な対価を要求すべきとしています。また、本事業事務局の弁護士の監修の下、契約条文毎に逐条で解説を付けました。各契約でキーとなる条項については詳細に解説し、スタートアップのように法務専属の職員がいなくても、理解しやすいよう配慮してあります。契約の骨子をまとめたタームシートが各契約類型に付属していることも特徴のひとつです。最初から詳細な契約書で交渉を始めるより、合意できなかった際のディールブレイクを早める効果が期待できます。取引条件をシンプルに示して、そこで折り合えないのであれば、いたずらに交渉を長引かせるよりも別の交渉相手を探す方が双方にとって有益でしょう。

特許庁 オープンイノベーション推進プロジェクトチーム 高田 龍弥
特許庁 オープンイノベーション推進プロジェクトチーム 高田 龍弥
外部から反応はあった?

スタートアップやその支援者の方々からは概ね好評です。特に「創出された発明の事業価値の最大化」を目的に据えたことはスタートアップの皆さんから喜ばれています。
例えば、共同研究の成果(発明等)の権利帰属について揉めるケースがよくあると聞きます。共同研究経費を「どちらが負担したか?」で言えば、当然大企業のケースが多い訳ですが、「将来の事業価値を最大化するために権利帰属はどうあるべきか?将来、どちらがより事業価値を最大化できるのか?」であれば、双方がWin Winになる形で役割分担をすることもできるのではないでしょうか。こういったオープンイノベーションに対するマインドセットも込みで、セミナーやワークショップでモデル契約書の考え方を普及・定着させて欲しいとのご要望もいただいています。

オープンイノベーションプロセスにおける本モデル契約書のスコープ

大企業側からの評価は様々ありますが、大事なことはモデル契約書が事業部と知財・法務部のコミュニケーションを生むきっかけになることです。事業部の方々がモデル契約書を携えて、知財・法務部の皆さんと膝詰めで議論する、そんなシチュエーションをイメージしながら作りました。両者が同じ目線に立ってスタートアップとの協業に取り組めば、もっと日本のオープンイノベーションは促進されるのではないかと考えています。

今後はどうするの?

2020年6月30日に「新素材編」を公表しましたが、今後は「AI編」、プレイヤーを変えて、「研究開発型スタートアップ×大学編」なども策定する予定です。技術分野や交渉相手が異なれば、交渉のポイントも変わるので、できるだけ多くのモデルを提示していきたいですね。
またVer1.0とあるように、今後も定期的にブラッシュアップしていきたいと考えています。普及啓発のワークショップなどを開催して、フィードバックを貰いながら、より良いものへと改善していくのが理想です。

モデル契約書のポイントは2つ

  • 1. 契約条文毎に逐条で解説がついている。弁護士が監修した、わかりやすくて実践的な解説を掲載!
  • 2. 契約の骨子をまとめたタームシートが各契約類型に付属。大枠で重要な交渉項目に合意できれば、その後もスムーズに!

詳細はこちらからご覧ください
オープンイノベーションポータルサイト

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