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日本国特許庁(JPO)は、途上国における知的財産権の保護強化を通じた日本企業の進出支援を目的として、世界知的所有権機関(WIPO)や独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力しながら、人材育成や技術協力等を積極的に支援しています。 以下では、各機関と連携した途上国協力について紹介します。
日本は、1987年からWIPOに対して任意拠出金を支出しており、この拠出金を基に信託基金「Funds-in-Trust Japan Industrial Property Global(FIT Japan IP Global)」が設置されています。創設当時、アジア・太平洋地域に限定されていた支援対象は、2008年にはアフリカ地域に拡大され、さらに2019年には地域の限定をなくした「グローバルファンド」として刷新され、現在に至ります。同ファンドは、創設以来37年間で、総額約110億円を拠出し、100か国以上に支援を行ってきました。多年にわたる支援の中で、知的財産分野での協力推進を目的とした各国・地域とのハイレベル会合の実施、知的財産に関する法制度・運用整備のための専門家派遣、各種ワークショップの開催、知的財産庁の情報化支援等、様々な取組を通じて、途上国における知的財産制度の整備に貢献し、制度を担う人材の育成に注力しています。
FIT Japan IP Globalは、日本のこれまでの開発途上国および後発開発途上国への知財分野での協力における知見を活かしつつ、次の目的のためにWIPOの取組を支援し、全世界における知財エコシステムの活性化に貢献します。
FIT Japan IP Globalの紹介ビデオ(外部サイトへリンク)
以下ではFIT Japan IP Globalによる具体的な取組について紹介します。
2024年2月に濱野特許庁長官(当時)とダレン・タン(Daren Tang)WIPO事務局長がジャパン・ファンドによる中小企業等への支援に関して「中小企業・スタートアップ・起業家への支援分野における協力声明」に署名しました。協力声明では、ジャパン・ファンドを通じた知的財産分野での途上国支援において、特許庁が誇る知財のスタートアップ支援プログラムの経験を共有・活用することにより、WIPOと特許庁が連携して、途上国の中小企業・スタートアップ・起業家への支援への協力を強化することに合意しました。これにより、2026年の国連が定めた「中小企業の日」(2026年6月27日)までに627者の中小企業、スタートアップ、起業家を支援し、最終的には合計1,000者への支援を目指します。こうした支援事業を通じて、途上国でのイノベーション促進や知財制度の整備が進み、我が国企業にとっても、途上国でのビジネス展開が促進されるよう取り組みます。2023年度には、アラブ地域、ラテンアメリカ及びカリブ地域を対象として、知財マネジメント戦略の策定や専門家のハンズオン支援を提供する「知財マネジメントクリニック」を開始し、2024年3月からブルネイ、ラオス、2024年9月からタイ、10月からマレーシアでも同クリニックを開始しています。また、2024年6月から、知財専門家をアサインして無料アドバイスを提供するStrategic IP Assist Programをインドネシアで開始しております。
メンタリングの様子
(写真提供:WIPO Singapore Office)
メンタリングの様子
(写真提供:WIPO Singapore Office)
知財マネジメントクリニック以外の取組としては、2023年5月に、「アフリカで農業ビジネスに従事する女性起業家のために知的財産が果たす役割」をテーマとして「農業ビジネスに従事する女性のための知的財産に関する地域会合」が、ルワンダの首都キガリで開催されました。日本の女性起業家がスピーカーとして参加し、農業ビジネス分野における起業経験と事業における知財の役割について紹介しました。100名を超えるサブサハラ・アフリカ地域からの女性参加者は、農業ビジネスにおける知財意識を高めるとともに、ビジネス成長に必要な知財知識及び利用可能なツールやリソースを学びました。地域会合の参加者の中から30人を選出し、フォローアップとしてコーチングとメンタリングを実施した結果、ジンバブエの女性起業家であるMs. Peserverance Muzeya氏のように、知的財産がビジネスの成長を促進する可能性を認識できる事例も見られるようになりました。
地域会合(キガリ)の様子
活動の様子
技術・イノベーション支援センター(TISC:Technology and Innovation Support Center)は、技術情報、科学及び技術文献、サーチツールやデータベースの利用促進を通じて、途上国におけるイノベーションや技術移転を支援するために設置された機関です。93か国で約1,500箇所の拠点(知的財産庁、大学、研究センター、テクノロジーパーク等)に設置され、特許及び非特許データベースへのアクセス及びそのサポート、先行技術調査のサポート、商業化と技術移転のサポートなどのサービスが利用者に提供されています。 FIT Japan IP Globalは、各地域におけるTISCのネットワーク形成やTISC職員のスキル向上に向けた取組を支援しています。
各TISCの代表者がベストプラクティスや知見を共有し、TISCのサービス向上に向けて連携を深めました。
FIT Japan IP Globalの事業として、特許協力条約、意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定、マドリッド協定議定書(国際登録出願手続条約)への加盟促進や運用の向上を目的としたワークショップやセミナーが開催されています。
JPOは、職員をこれらのワークショップ等の講師として派遣することで、条約加盟国として条約加盟時の対応や運用整備に関する知見を共有することにも力を入れています。1987年からアジア・太平洋地域、2009年からアフリカ地域への専門家派遣を開始し、2023年度までに約400名の専門家を途上国に派遣しました。
2024年3月、ブラジル知的財産庁(INPI)職員に対して、マドリッド制度に関する最新の動向やJPOの知見・経験等を共有することで、運用や実務を向上させることを目的とした2日間のセミナーを開催し、2日間で200名以上が参加しました。現地の日本国大使館から1名の講演者が参加し、商標の国際登録に関するマドリッド制度の最新動向、マドリッドe-Filingシステム(MeF)、マドリッド制度の方式実務に関する手数料の納付方法等についてJPOの知見や経験を共有しました。
また、途上国のIT人材育成を支援するために、各国のニーズを踏まえた研修やワークショップの開催をFIT Japan IP Globalで支援するとともに、JPO職員を講師として派遣しています。
2023年11月にラオスで開催され、カンボジア、ラオス、フィリピン、ベトナムの知的財産庁から14名の職員が参加した「ベストプラクティス共有ワークショップ」では、JPOからも職員が参加し、デジタルサービスに関する活動についてプレゼンを行いました。2023年11月にボツワナで開催された「アフリカリージョナルワークショップ」には、ARIPOとボツワナ、カーボベルデ、エスワティニ、ガンビア、ガーナ、ケニア、レソト、リベリア、マラウィ、モーリシャス、モザンビーク、ナミビア、サントメ・プリンシペ、シエラレオネ、ソマリア、タンザニア、ウガンダ、ザンジバル、ザンビア、ジンバブエの知的財産庁職員等 27 名が参加しました。JPO職員はオンラインで参加し、JPOにおけるDigital Transformationの経験等についてプレゼンを行いました。
2024年1月末から2月にかけてタイで開催されたWIPO-ASEAN ITビジネス戦略ワークショップには、ASEAN及び近隣諸国の知的財産庁職員等60名以上が参加し、WIPOより新興国向けのITシステム導入支援等について説明がありました。JPOからも職員が参加し、審査におけるAIの活用に関する取組等を紹介しました。
途上国における人材育成のため、FIT Japan IP Globalは様々な支援プログラムを提供しています。
人材育成プログラムの一つとして、短期フェローシッププログラムを実施しております。このプログラムでは、毎年途上国から日本に留学している学生を対象に、特許事務所等で約1週間の研修を行っています。2023年度は、ウズベキスタン、カンボジア、バングラデシュ、ブラジル、モロッコ、リビアから6名が参加し、日本の知財制度や特許事務所の実務について学びました。
見学後の様子
MIPプログラムは、知的財産の側面から国の経済政策や科学技術政策を担う未来のリーダーの育成を目的としたWIPO Academyが提供する人材育成プログラムの一つです。FIT Japan IP Globalは、その支援対象をアフリカ地域に拡大した2008年から現在に至るまで、このMIPプログラムのうち、WIPO、ARIPO及びアフリカ大学が共同で実施するプログラム並びにWIPO、OAPI及びヤウンデ第II大学が共同で実施するプログラムを支援しています。具体的には、両プログラムに参加する受講生のうち、それぞれ毎年約12名ずつに対して奨学金を提供しています。これまでFIT Japan IP Globalの奨学金を受けた282名の卒業生が各国で活躍しています。
2023年度アフリカ大学MIPコース参加者の集合写真(写真提供:Africa University)
2023年度アフリカ大学MIPコースジャパンファンド奨学生(写真提供:Africa University)
2023年度ヤウンデ第二大学MIPコース参加者の卒業式(写真提供:OAPI)
2023年9月、FIT Japan IP Globalの支援により、WIPO日本事務所は「イノベーション・クリエーションの素晴らしさを、あなたの言葉で」をテーマに、小学生から大学生までを対象としたShow and Tell プレゼンテーションコンテストを開催しました。100名以上の応募から事前のビデオ審査を経てファイナリストとなった20名(小学生の部・中学生の部・高校生の部・大学生の部の各部門5名)が集い、各5分のプレゼンテーションを行いました。国内外の幅広い分野を代表する審査員により「オリジナリティー」・「課題解決」・「社会貢献度」・「ストーリー性」・「表現力」に関する審査を経て、8名の受賞者が決定されました。
プレゼンテーションコンテストの様子
(写真提供:WIPO日本事務所)
また、FIT Japan IP Global は2024年の「世界知的財産の日」(毎年4月26日)のテーマである“IP and the SDGs: Building our common future with innovation and creativity”( 知財とSDGs―イノベーションと創造力で築く地球の未来)を紹介するビデオクリップの作成を支援しました。ビデオクリップはWIPOウェブサイト及び各SNSにて8か国語で公開されています。
World Intellectual Property Day 2024 video clip on IP and the SDGs:
Building our common future with innovation and creativityt(MP4動画:2分01秒)(外部サイトへリンク)
2023年度から、ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー等において、先住民族や地域社会のコミュニティにおける女性の経済的自立を促し、コミュニティ内で弱い立場に置かれやすい女性の地位向上を実現させることを目的として、同地域の企業による知財関連プロジェクトを支援しております。団体商標ロゴマークの創作をはじめ、広告資料等の作成、製品やサービスの販売促進活動を包括的に支援することで、先住民族女性の経済的自立に貢献しています。これまでに19団体に対して支援を実施し、事業を通じて4団体が地域社会のCollective Markの登録に至っています。FIT Japan IP Globalは、本プロジェクトの支援を通じて、先住民族の女性参加者だけでなく、地域社会のビジネスと経済的発展を後押しします。
2023年度事業の参加者の様子
(写真提供:WIPO)
FIT Japan IP Globalは、途上国における審査の効率化と質の向上を目的として、途上国のITインフラ整備も支援しています。
具体的には、(1)出願書類等の電子化支援、(2)知的財産庁の事務処理システムであるWIPO-IPAS、ASEAN各庁の公報データを一括で参照できるASEAN知的財産情報ポータルであるASEAN PATENTSCOPE等のITシステムの開発・データ収載支援、(3)特許の出願・審査情報(ドシエ情報)の共有システムであるWIPO-CASEの開発・普及支援、(4)IT人材育成のための途上国向けIT研修・ワークショップの開催支援等を実施しています。WIPO-CASEの開発支援は2013年から、ASEAN PATENTSCOPEの開発支援は2015年から実施しています。ASEAN PATENTSCOPEは、FIT Japan IP Global による支援も経て、2023年にASEAN IP Registerへと移行されております。
2021年度は、マラウィ、タイ、ケニア及びアフリカの広域知的財産庁であるOAPIで電子化プロジェクトが、エスワティニでデータ検証プロジェクトが実施され、ザンビアでデータキャプチャプロジェクトが完了しました。2022年度にはマラウィ及びフィリピンでフルテキスト化プロジェクトが、スリランカ及びOAPIで電子化プロジェクトが、ケニア及びジンバブエでデータ検証プロジェクトが実施され、タイ、マラウィ及びフィリピンで電子化プロジェクトが、エスワティニでデータ検証プロジェクトが完了しました。2023年度は、エジプト、フィリピン及びアルゼンチンでフルテキスト化プロジェクトが、ザンビア、エクアドル、ラオス、カンボジア、スリランカ及びOAPIで電子化プロジェクトが、ケニア及びOAPIでデータ検証プロジェクトが実施されました。
FIT Japan IP Globalでは、日本企業等の途上国におけるビジネス活動を知財の面でサポートすることを目的として、様々な取り組みを実施しています。
2023年度より、ハーグ制度のメリットや活用方法等について15分程度の分かりやすいエピソードの作成を支援し、Spotify、Apple Podcasts、YouTube Podcastsで配信しています。世界中の知的財産の専門家・デザイナーの会話を通じて、デザインの魅力的な世界と、デザインが果たす役割を学ぶことを目的としています。
WIPOD – Design Talksのページ(WIPOウェブサイトへリンク)
2022年度より、西アフリカのデザイナーのデジタルハブとなるAfricDeezayn(モバイルアプリ)の製作を支援し、2024年にローンチしました。AfricDeezaynでは、デザイナー向けのニュース、イベント、ストーリーなどの情報が配信されるほか、コミュニティフォーラムでのコミュニケーション(チャット)が可能です。2024年度からは、アラビア語圏向けのバイルアプリ製作を支援しています。
途上国での知的財産法の制度整備や人材育成を目的として、JICAと協力し、JPO職員を知的財産制度に関する専門家として途上国に派遣しています。
現地の知的財産制度整備の支援、人材育成協力、普及啓発活動を目的として、1993年度からJPO職員を長期専門家としてインドネシア知的財産総局へ派遣し、インハウスの形式で支援を行っています。現在は特許審査官1名を派遣し、特許審査実務の運用の向上、特許・意匠・商標審査官の能力向上、特許審査の品質管理体制の確立、地方の大学や中小企業への知財普及促進等を実現するためのセミナーやワークショップの開催や翻訳資料の作成等を実施しており、現地のビジネス・投資環境の整備・改善に寄与しています。
インドネシアにおけるJICA長期専門家の活動の様子
2024年4月から「ベトナム国家知的財産庁における特許・商標審査能力強化プロジェクト」が開始され、長期専門家としてJPOから特許審査官1名をベトナム国家知的財産庁へ派遣しています。主な活動として、特許審査業務の管理手法に関する改善の検討・試行、先端技術(バイオテクノロジー、医薬など)に関する特許審査ガイドラインを作成、並びに、先端技術の特許審査官の能力・スキル向上を目的としたセミナーやワークショップの開催などを実施しており、現地のビジネス・投資環境の整備・改善に寄与しています。
ベトナムにおけるJICA長期専門家の活動の様子
[更新日 2024年10月23日]
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特許庁総務部国際協力課海外協力班 電話:03-6810-7501 内線2562 |