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平成11年7月
調整課審査基準室
日米欧の三極特許庁間では、バイオテクノロジー関連出願の審査における運用の調和をめざして、継続的に比較研究を行ってきております。1995年から比較研究を行った項目内容については、日本国特許庁のホームページ及び三極ウエブサイトを通じて公表しております。
機能が明らかでないDNA断片に特許が付与されると、その後の研究開発、ひいては産業の発展に悪影響を及ぼすとの懸念が、世界の研究者及び産業界が出されていたことから、1998年11月には日本国特許庁の提案により、日米欧三極特許庁長官会合でDNA断片の特許性についての比較研究を行うことが合意されました。三庁間で、各庁の審査運用を比較研究してきたところ、その報告書が1999年5月26-28日にオランダ、ハーグで開催された三極特許庁専門家会合において承認され、公表されることとなりました。
比較研究は、9問の仮想ケースについて、各庁が産業上の利用性(有用性)、実施可能要件、新規性、進歩性、単一性等の観点から審査の運用を報告し、これを比較し取りまとめるという形で行われました。
なお、参考までに報告書の抜粋訳を以下に記載します。
バイオテクノロジー特許審査における比較研究 (DNA断片の特許性)
(本比較研究の意義、本比較研究にいたった経緯について説明)
(日米欧三極特許庁の条文一覧表)
(日米欧三極特許庁の条文一覧表)
3.1 質問1 有用性(産業上の利用性)、新規性、進歩性(非自明性)、実施可能要件(開示要件)
ケースAの概要
[請求項] 配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチド
請求項に記載されたポリヌクレオチドは、ヒト肝臓cDNAライブラリーから得られた500塩基のcDNAである。ポリヌクレオチドは全長DNAを得る段階の一つにおいてプローブとして使用することができる。しかしながら、そのDNAと対応するタンパク質に関する記載はない。配列番号1で表されるポリヌクレオチドと相同性の高い塩基配列は知られていない。
ケースBの概要
[請求項] 配列番号2の塩基配列からなるポリヌクレオチド
請求項に記載されたポリヌクレオチドは、ヒト肝臓cDNAライブラリーから得られた500塩基のcDNAであり、相同性検索の結果から、ヒトタンパク質Xをコードする構造遺伝子の一部であると推定されている。(ポリヌクレオチドはラット由来のタンパク質Xをコードする構造遺伝子の一部と95%の相同性を示した。対応するアミノ酸配列もまた、ラットタンパク質Xのアミノ酸配列と95%の相同性を示した。)
ポリヌクレオチドは、ヒトタンパク質をコードする全長DNAを得る段階の一つにおいてプローブとして使用することができる。
ラットタンパク質Xをコードする全長DNAは2400塩基であり、その配列は公知であった。
ケースCの概要
[請求項] 配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド
請求項に記載されたポリヌクレオチドは、ヒト肝臓cDNAライブラリーから得られた500塩基のcDNAである。配列番号3の塩基配列に対応するアミノ酸配列はグリコシル化部位を有していることから、そのポリヌクレオチドは糖蛋白質をコードする構造遺伝子の一部であると推定されている。ポリヌクレオチドは、全長DNAを得る段階の一つにおいてプローブとして使用することができる。
配列番号3で表されるポリヌクレオチドと相同性の高い塩基配列は知られていない。
ケースDの概要
[請求項] 配列番号4の塩基配列からなるポリヌクレオチド
請求項に記載されたポリヌクレオチドは疾病Yの患者の肝細胞においてのみ対応するmRNAが発現している長さ500塩基のcDNAである。それゆえ、疾病Yの診断用プローブとして使用することができる。
疾病Yの患者に特有のDNAや配列番号4で表されるポリヌクレオチドと相同性の高い塩基配列は知られていない。
ケースEの概要
[請求項] 配列番号4の塩基配列を含むポリヌクレオチド
ケースEはケースDと請求項における「含む」と「からなる」という表現においてのみ異なる。
ケースFの概要
[請求項] 配列番号2で表されるポリヌクレオチドを含む構造遺伝子
ケースFはケースBと、請求項における「含む構造遺伝子」と「からなるポリヌクレオチド」という表現においてのみ異なる。
3.2 回答の要約 有用性(産業上の利用性)、新規性、進歩性(非自明性)、実施可能要件(開示要件)等
三極特許庁は、ケースA、B、C、Fは特許要件を満たしていないという共通の見解を示した。三極特許庁は、ケースDについては拒絶理由がないという考えを示した。
拒絶理由として、USPTOは主に有用性と実施可能要件の欠如を指摘した。一方、EPOとJPOは主に非自明性/進歩性について検討した。
ケースA・C
USPTOとJPOは請求項に係る発明は有用性(産業上の利用性)と実施可能要件を欠如していると述べている。EPOも産業上の利用性について疑いを抱いている。
EPOとJPOは請求項に係る発明は進歩性を有さないと判断している。
ケースB・F
USPTOは、請求項に係る発明は有用性と実施可能性を欠如していると述べている。EPOとJPOは請求項に係る発明に進歩性がないと判断している。
加えて、JPOはケースFが実施可能要件欠如であると述べている。
ケースE
JPOのみが請求項に係る発明は実施可能要件を満たしていないと述べている。
(JPOは請求項に係る発明は、配列番号4のDNAを含む限りにおいて、長い非特異的配列を含んでいると考えている。一方、EPOは請求項に記載されたDNAの長さは、無制限ではなく望まれた目的に適した長さであると考えている。)
記載要件について
記載要件の適用に関するUSPTOのプラクティスは現在検討中のため、USPTOはまだ記載要件についてコメントできない。
3.3 質問2 単一性
ケースGの概要
請求項1~11に記載されたポリヌクレオチドは、ヒト肝臓cDNAライブラリーから得られた500塩基のcDNAである。これらのポリヌクレオチドは、全長DNAを得る段階の一つにおいてプローブとして使用することができる。しかしながら対応するタンパク質の機能や生理活性は記載されていない。
これらのポリヌクレオチドは互いに相同性が高くない。
ケースHの概要
(請求項の記載はケースGと同じ)
請求項1~11に記載されたポリヌクレオチドは、ヒト肝臓cDNAライブラリーから得られた500塩基のcDNAである。対応するアミノ酸配列はグリコシル化部位を有していることから、これらのポリヌクレオチドは糖蛋白質をコードする構造遺伝子の一部であると推定されている。これらのポリヌクレオチドは、全長DNAを得る段階の一つにおいてプローブとして使用することができる。
これらのポリヌクレオチドは互いに相同性が高くない。
ケースIの概要
(請求項の記載はケースGと同じ)
請求項1~11に記載されたポリヌクレオチドは、疾病Yの患者の肝細胞においてのみ対応するmRNAが発現している長さ500塩基のcDNAである。それゆえ、疾病Yの診断用プローブとして使用することができる。
これらのポリヌクレオチドは互いに相同性が高くない。
疾病Yの患者に特有のDNAは知られていない。
3.4 回答の要約 単一性
ケースG・Hについて三極特許庁は単一性を認めていない。
EPOとJPOはケースIについて単一性を認めている。
本比較研究を通して以下の点が明らかになった。
[更新日 2007年7月13日]
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