1. 日時:平成25年9月18日(水曜日)15時00分から17時00分
2. 場所:特許庁16階 特別会議室
3. 委員長:後藤晃 政策研究大学院大学教授
4. 議題
- (1)委員からの報告1
- (2)委員からの報告2
5. 議事概要
<議題(1)>
○特許法第35条第4項の手続コストと労働法上の手続コストを比較する際、労働法上の手続コストとして人事考課に係る手続コストとの比較が有効と思われる。両者を比較すると、基本的な枠組みやプロセスに違いはないが、手続全体を見ると、労働法上の手続コスト(人事考課に係る手続コスト)の方が相対的に小さいのではないか。
○職務発明制度は、労働法の適用を受けつつも、別途、特許法の規律が適用されるという意味で、労働法からは独自の性格を有している。仮に特許法第35条を見直して労働法上の規律に委ねた場合には、役員が適用除外になること、指揮命令下の労働であることが要件となること、対価につき賃金・人事制度の中でどのように制度設計するか等について検討する必要があるのではないか。
○発明従業者に対してのみ、賃金、人事考課とは別に特別な対価の支払を強行法的に保障することの当否については様々な考え方があり得る。労働法的な観点からは、一般に、大多数の従業者は使用者との間の顕著な交渉力・情報格差に置かれており、そうした状況の下で、対価の決定を契約の自由に委ねると、対価の一方的決定を正当化し、使用者・従業者間の利益調整(衡平)に反するとともに、発明のインセンティブをも失わせる結果になると考えられるため、一定の法的介入が必要と思われる。当事者間の自主的な交渉を重視しつつも、補完的かつ実態的な規制を設けるといういわゆる交渉促進規範モデルが考えられるのではないか。
<議題(2)>
○従業者と労働者との間の一本の契約であっても、労働法の側面については例えば労働契約法が適用されるし、特許法の側面については例えば特許法第35条が適用されるように、労働法と特許法は二者択一的なものではなく、重畳的に適用されるものと考えられるため、全体として法の趣旨に沿ったバランスの良い制度設計をすることが重要ではないか。
○使用者が研究設備等を用意さえすれば、たとえ発明者が誰であっても、同じような特許が生まれるというのであれば、使用者にインセンティブを与えれば足りるが、部分的にでも発明者の創造性がないと特許が生まれないのであれば、発明者にもインセンティブを与える必要があるのではないか。
○職務発明以外の発明に係る権利の譲渡とは異なり、職務発明に係る権利を発明者が使用者に譲渡する時のみ、特許法第35条第3項以下で特別な保障手続を定めているのは、発明者と使用者との間の情報や交渉力の格差を補正するための法的な調整であると考えられる。
○使用者と従業者間の情報・交渉力格差を調整し、かつ、発明や発明の公開に対するインセンティブ付与という特許制度の目的を損なわない範囲で、職務発明に係る権利の移転手続の制度を変更することも可能ではないか。
<全体討議>
○特許法第35条第4項に係る手続の合理性の担保について、特許庁の「新職務発明制度における手続事例集」には相当明確に書かれているが、事例集自体は法的規範性を有するものではないため、何らかの規範性を有するルールを設けることで予測可能性を高めるという方法は考えられるのではないか。
○企業の現場において人事考課を行う際、従業者による発明の分だけ別枠で評価することは現実的には困難であるから、実際の人事考課には発明による貢献の分も含まれていることが通常だと思う。
○発明は発明者の個性から生まれるものではあるが、発明者以外の従業者の個性も発明の事業化に貢献しているのであるから、発明者とそれ以外の従業者の個性の貢献を区別する必要はないのではないか。
○発明者以外にも例えば営業マンの個性が事業化に貢献しているのかも知れないが、営業マンの個性の貢献については報酬の支払の枠組みの中で考えればよい話であって、発明者については、特許という特許法独自の制度がもたらす権利が発明から生み出されるわけであるから、発明者の個性による発明という貢献と、営業マンなど発明者以外の従業者の個性による貢献は、区別して考えた方がよいのではないか。
○例えば、労働者の過半数代表者により合意をした場合には特許法第35条第4項に係る手続の合理性が推定されるなど、手続の合理性が担保される場合について明確に規定するという方法も考えられる。他方で、個々人の権利に関係するものを過半数代表の決定に委ねて良いのかという問題や、日本において過半数代表が労働者を適正に代表する機能を果たし得るのかという問題もある。
○職務発明に関する紛争は専門性が高く、迅速で柔軟な解決が求められているのだとすれば、例えば行政委員会のような専門的な機関に紛争に関する一次的な判断を委ねるという方法も考えられる。他方で、行政委員会と裁判所で手続が二重になるため、逆に時間がかかるという問題もある。
○現行の特許法第35条は、職務発明は、発明従業者の想像力や研究能力によるところが特に大きいので、発明者に特許を受ける権利等を帰属させて対価請求権を保障することが国の産業政策や特許政策として望ましいという前提で設計されており、それが立法政策として不合理な制度とは考えられない。他方、発明者に限らず創造力を持つ労働者が多様化してきている中、職務発明だけ全くの別枠で特別扱いすることに100パーセントの合理性があるとも言い切れない面があるため、職務発明制度の設計は非常に難しい問題である。
○発明従業者に対してのみ、賃金とは別に対価の支払を保障するという特別扱いを見直し、法人帰属で対価請求権なしという制度に改める場合、賃金の問題となるとともに、使用者に裁量権が帰属することから、現在のような巨額の対価請求は想定できず、発明者の処遇や法的地位に影響が生ずることは確認しておく必要がある。また、そうした制度設計が産業政策や特許政策として適切かについても、別途検討する必要がある。
○発明をした者に対して国が報奨金を支払う制度であれば理解できるが、法により発明者が使用者に対してインセンティブ(対価)を請求できるというのは、本当に良い制度なのか、疑問を感じている。特許法が、発明を生み出した人に対して独占権を付与し、その独占権で事業収益を上げてくださいということを予定しているのであれば、インセンティブの在り方について深く考えた上で制度設計することが良いのではないか。
6. 今後のスケジュール
引き続き、職務発明制度の課題について議論を行う予定。
※平成25年度産業財産権制度問題調査研究「企業等における特許法第35条の制度運用に係る課題及びその解決方法に関する調査研究」
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[更新日 2013年10月11日]