第10回委員会 概要
職務発明制度に関する調査研究委員会※
第10回委員会 議事概要
1. 日時
平成25年11月25日(月曜日)10時00分から12時00分
2. 場所
特許庁16階 特別会議室
3. 委員長
後藤晃 政策研究大学院大学教授
4. 議題
- (1)委員からの報告と全体討議
- (2)ゲストスピーカーによる中小企業における職務発明制度の実情の報告
5. 議事概要
議題(1)
- 職務発明に係る権利について、従業者帰属型のまま対価額が低額になると、今までのように権利帰属を認めた上で対価を請求するというのではなく、権利帰属自体が争われるようになり、企業にとっても訴訟リスクが大きくなるのではないかとの指摘がなされているが、仮に使用者帰属型に制度を変更したとしても、職務発明該当性について争うことは可能であるため、いずれの制度であっても、対価ないし報酬の額が低くなれば、あるいは無くなってしまえば、従業者が権利帰属を争おうとする可能性はなお残るのではないか。
- 従業者帰属型では、職務発明に係る「相当の対価」の性質が権利譲渡の代金と捉えられることによって、裁判所における当該対価の認定額が過剰に高額となる可能性があるという問題が指摘されているが、「相当の対価」の性質をインセンティヴ金と明示するなど、使用者帰属型に制度を変更しなくても問題を解決できる可能性はあるのではないか。
- 資源を投下すれば自分で実現できることを、他人を手足として使用することにより実現する労働型では、その果実は自分で取得できるのに対して、自分が実現できないことを他人に依頼して実現してもらう請負型では、その果実は対価を支払うことによって初めて取得することができる。発明の場合は、後者の請負型に近いものととらえるのが現在の特許法の考え方であり、そのような発明を奨励するために、インセンティヴを付与する特許制度が整備されている。
- 仮に発明者たる従業者におよそ報酬を受ける権利を認めないとすると憲法上の問題が生じる可能性があるため、法人帰属型にするかどうかにかかわりなく、発明者に報酬を取得する権利を認める必要があるのではないか。報酬の内容については、少なくとも当面は、現行の特許法第35条第4項及び第5項によれば足りるのではないか。
- 例えば法人帰属型かつ使用者に報奨規則の制定を義務づける案について考えた場合、企業等にインセンティヴ金に関する規則の制定を義務付ける根拠、発明者以外の従業者との不公平感、企業が報奨規則を制定しない場合にどう取り扱うのかという点で、それぞれ問題があるように思われる。
- 仮に法定対価請求権を廃止する場合、従業者の処遇の後退をもたらしうる点で問題があるのではないか。例えば、従業者の報償請求権を法的に保障し、企業等に発明報償規則の制定を義務付ける法制を採用する場合には、企業等が発明報償規則を経由して決定した報償については、相当な報償付与(支給)義務を履行したものとみなす、又は、推定するという規定が考えられるのではないか。
- 平成16年特許法改正後の特許法第35条第4項では、職務発明に係る対価の定めについて使用者と従業者との間の協議の状況等により手続の合理性が担保される限りにおいては、当該使用者の勤務規則等に基づいて対価が算定されるという建前になっている。これによれば、裁判所は、手続合理性が担保されていると認められる限りにおいては、当該勤務規則等に規定された対価の基準に従って対価の額を決定するのであるから、対価の額の決定における審理負担の増大等の問題は生じないのではないか。
- 研究者に対する賃金と職務発明に係る対価とは本来一体的に考えられるべきであり、研究者が研究のために雇用されて賃金が支払われているという実態からみると、選択の自由がなく対価の支払を義務付ける特許法第35条は人工的な条文であると感じる。例えば、職務発明に係る権利は法人帰属を原則としつつ、従業者と使用者の選択により他の帰属ルールを定めることも認めることは一案として考えられるのではないか。
- 国が企業の発明者に対するインセンティヴ付与に介入することは基本的には必要ないと考えられるが、社会的な波及効果の大きい発明に対しては企業に対してインセンティヴ付与を義務付けるという考え方はあり得るではないか。
- 平成16年特許法改正によって対価算定に係る予測可能性の問題は軽減したかに見えるが、産業界においては、従前の旧法と同じだけのリスクがあるとの認識を持つ企業が多いように思われる。
- 現行特許法第35条第4項に鑑みれば、企業が制定する勤務規則に基づいて従業者と対価に係る協議を行うことが可能であるという意味で、対価の支払に関して企業側にイニシアチヴがあるのであって、対価に係るリスクは旧法に比べて軽減しているのではないか。
- 発明者に法定の報酬請求権を与えない場合に憲法上の問題を生じるかという問題については、仮に法人帰属型を採用した場合には職務発明に係る権利が使用者に原始帰属するため、発明者の権利をそもそも剥奪することにはならないのではないか。
議題(2)
- 中小企業の経営者は、経営問題や資金繰りを最大の関心事としており、特許法第35条に対する関心は大企業に比べて低く、また、従業者は、人間関係の濃密さにより対価請求をしにくい環境にあるため、中小企業において、職務発明に係る対価が問題になることはあまりないと感じる。
- 中小企業において、円満退社でなかった場合に、退職後に元従業者がリベンジとして対価請求をしようとするケースが考えられるが、中小企業における売上額は大企業と比べると低額であり、対価請求訴訟を起こしても費用対効果に合わないのが実態だと感じる。
- 大企業と中小企業との間に職務発明に関して何か差があるとすれば、大企業は、中小企業と比べて、特許法第35条に係る合理的な手続を決めるために体制を用意できるという点だけではないか。その体制があるがために、逆に合理性を追求しようとして際限のない負担を生んでおり、そのような点にコストをかけている余裕が無くなっているのが現状ではないか。
- 職務発明も含めて会社で生まれたものは本来会社のものであり、また、研究開発はチームで行っているので従業者に対するインセンティヴ付与は自由に行いたいという意見は、大企業も中小企業も同様ではないか。
- 発明者に対するインセンティヴをどうするかは、企業の経営戦略の一環であり、国がこのインセンティヴについてどこまで関与すべきかについて、検討すべきではないか。
6. 今後のスケジュール
引き続き、職務発明制度の課題を議論するとともに、未報告の3カ国(ドイツ、フランス、米国)についての海外情報拠点調査結果概要を報告する予定。
※平成25年度産業財産権制度問題調査研究「企業等における特許法第35条の制度運用に係る課題及びその解決方法に関する調査研究」
[更新日 2013年12月24日]
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